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不死後衛の苦悩  作者: すろれっさー
国を飛び出す後衛です。
4/66

3.5

セルゼルフは出てきません。ただの別の話ですので、飛ばしても問題ないかと。

 不死人族の子供が最も恐れるのが誘拐です。死なない種族なのですが、誘拐されると身代金を要求される恐れがあるのです。その場合は、〝何度も何度も子供に痛みを与えてほしくなければ金を持って来い。〟という文句になります。しかし、私は思うのです。そもそも不死人族を誘拐できるほどの強者が誘拐などはしないと。それに誘拐されたと分かった瞬間に不死人族が人族を皆殺しにします。過去に2回だけそういうことがありました。誘拐された不死人族の子供を探すために近くの国、街を順番に潰していったのです。ですので、他の国々も犯人探しに協力的です。もしも協力しない場合はその国が滅ぶのです。これも物語になっています。戦争する時以外に兵士、騎士が動くことはまずないですからね。あ、強い魔物が出た時以外はです。

 さて、外に出ました。私たちの国を囲う森は強い魔物ばかりです。こんな森に他の人族は現れないでしょうね。

 探すのは虫型の魔物です。いえ、虫型の魔物の住処です。その魔物を食べに動物型の魔物が現れるのです。不思議なことに、魔物同士が争って死んだ魔物はドロップを残さないのです。死体が残ります。すごくないですか?この研究をしている学者の見解は、〝魔物が争うときには魔力を相手に送る性質がある。魔物の魔力の波長は恐らく、みな同じであるから死体はしばらくの間消えない。また、ドロップを残さないのは別の魔物の魔力が侵入したためだと考えられる。〟ということです。

 硝子を放ちます。魔物が見つかるまでの時間つぶしとして、先ほど話した〝不死の子誘拐物語〟を話しましょう。かなり有名な話です。私もこれを聞いて育ちました。


 〝昔々あるところに、龍を一撃で倒せるほど強い英雄様がいました。金銀財宝に、7人の奥さんと300人のメイドさんと大きな豪邸に住んでいました。

 幸せだったその英雄様はあるとき思ったのです。


「ああ。こんな幸せな生活がいつまでもいつまでも続ければなぁ。」


 英雄様の奥さんの一人が言います。


「私たちは限りがあるから幸せだと思うのよ。」


 すると英雄様が考え込んでしまいます。何故でしょうか。


「限りがあるのは悲しいことだとは思わないか?」


 他の奥さんたちが言います。


「ずっとずっと一緒にいれば幸せだけれども、長く生きれば色あせてしまいますわ。」


 その日の会話はそれっきりでした。夜には8人で寝ました。その時も英雄様は思ったのです。〝ああ。こんな幸せがいつまでも続きますように。〟どこまでも続くような星空の下、輝く星たちの近くで、英雄様は一人ぼっちで考えます。


 次の日。国に災いが迫っていると王様からの連絡が来ました。英雄様は当然、国王様のお願いに従います。

 今回の災いは他国の兵士たちでした。何故か大人数で攻めてくると言われます。


「このままでは、この国は終わりじゃ。家族も友達も知り合いでさえも殺されてしまう。ああ。どうしたらよいものか。」


 困り果てた王様に向かって家来たちが言います。


「王様。それは仕方が無いことなのです。滅びゆく国を見定めるのも王の仕事。私たちは貴方と共に、国と共に滅びゆく覚悟ですよ。」


 泣き崩れる王とその家来たち。そんな様子を見ていた英雄様はこの時も思いました。〝不変はどんなに幸せなことなのか。滅んでしまうことがどれほど不幸なのか。大切な家族と一緒に死ぬことは本当に幸せなのか?〟と。英雄様は深く、長く考えました。そんな英雄様を見ていた王様が言います。


「なぁ英雄よ。この国を救ってくれないか?我の国は、家族は終わってしまうのじゃ。我の一番の大事なモノを守ってはくれないか?」


 英雄様は考えます。〝もし、自分が戦いに出ればこの国は救われるかもしれない。龍を倒せる自分ならば、この国を救えるのかもしれない。でも、その戦いで自分は死んでしまうのかもしれない。敵の剣に貫かれるかもしれない。大切な奥さん7人を残して死んでしまうかもしれない。自分が死んでも奥さんたちは笑ってくれるだろうか?笑っていてほしいけど、笑ってほしくない。〟相反する気持ちも胸に、英雄様は王様に言います。


「すみません。王様。私はこの時に返事を出せそうにありません。明日また、返事を言いに参ります。」


 王様は頷きます。その目には何かの野望が宿っていました。そのことに英雄様は気が付きません。

 家に帰った英雄様。城から家までずっと考えていました。〝死んだらどうしよう。〟と。英雄様は奥さんたちを集めて事情を話しました。


「何故かこの国が他国に襲われるらしい。僕も防衛戦に参加することになったんだ。でも、兵士の数が多い。そこで死んでしまうかもしれない。」


 奥さん7人の表情は異なっていました。是非行くべきという奥さん。行かないでと言う奥さん。帰って来てねという奥さん。無関心な奥さん。怒る奥さん。お金は貰えるのか聞いてくる奥さん。ただ泣く奥さん。英雄様は考えます〝誰が僕の事を大切にしているんだろう。今の生活は果たして幸せなのか?〟と。

 次の日。英雄様は決心しました。自分の為に泣いてくれる、怒ってくれる、応援してくれる奥さんの為に。奥さんを守るために自分は戦うと。

 戦う準備を始めます。しかし、龍を倒した剣、その爪を受け止めた盾、身体能力を上げてくれるネックレス、魔法の攻撃を防いでくれた鎧は見当たりません。

 英雄様は奥さんに尋ねます。


「僕の装備はどこにありますかね?」


 そのうちの一人は答えました。


「ごめんなさい。どうしても貴方を戦争に行かせたくなくて隠しました。ベッドの下に鎧があります。」


 すぐに鎧が見つかりました。しっかりと手入れされた鎧は、英雄様を守ってくれそうです。奥さんの優しさを感じました。しかし、剣や盾。ネックレスが見つかりません。奥さんの一人がネックレスをしていました。


「ごめんなさい。貴方を感じていたかったの。」


 そんなことを言われてしまえば、ネックレスを上げたくなります。その奥さんにネックレスを託しました。食器棚をよく見ると、盾がありました。しかし、油で汚れていますし、埃がとても付いているような汚い姿です。


「ごめんなさい。もう使わないと思って私たちが使っていたわ。」


 無いよりはましと思い、盾を装備します。しかし、剣はどこにも見当たりませんし、誰も知らないと言います。大好きな奥さんを信じ、武器を買いに出かけました。

 ふっと、出店を見てみますと、高値で見なれた剣が見つかりました。この武器はどうしたのかと店主に尋ねます。


「ああ。英雄殿。この素晴らしい剣は貴方の奥さんが売っていきましたよ。なんでも、迷宮で見つかった武器だそうですね。どうです?買いますか?」


 しかし、時間がそれを許しません。使いなれた武器に別れを告げて、安く、前の剣よりも性能も見た目も劣った武器を買いました。街の人たちは言います。


「英雄様。どうかこの国を御救い下さい。」

「ああ。英雄様は武器の質なんかにはこだわらないんだね。すごいです!」


 それを聞いて、なんだか悲しくなる英雄様。唯一、前と変わらない、いや、きれいになった装備と言えばこの鎧だけだ。手入れをしながら隠していた正直な奥さんに感謝しながら、城までの道を歩きます。遠くには雨雲と思われる雲が迫ってきていました。なんだか嫌な気分になりながら、足を速める英雄様。そんなとき、城がとても輝きました。もしかしたら魔法で攻撃されているのかもしれないと思った英雄様。足を速めます。

 城に着き、王様のところに行きました。そこには、煌びやかな装備をしている何者かがいたのです。王様に事情を尋ねます。


「おお!英雄殿!たった今、勇者様を召喚したところです。勇者様はお強いですぞ!その強さに合った装備を渡したところです。」


 英雄様は勇者の装備を見ます。戦いの為に数々の装備を見てきた英雄様には、その装備たちの素晴らしさがわかりました。しかし、鎧だけは、負けていないような気がします。奥さんの気持ちが入った鎧は負けていません。

 英雄様の装備を見て、勇者が言い放ちます。


「汚らしく、弱そうな装備だ。そんなんじゃ、足手まといだな。」


 英雄様は怒りました。奥さんが手入れしてくれた鎧を馬鹿にされたのです。大切な装備。大切な奥さんを汚されたような気持ちでした。英雄様が勇者を睨んでいますと、勇者が言います。


「なんだ?その目は。まさか俺に喧嘩でも売るのか?丁度いい。実力の差を思い知らせてやる。」


 目線で王様を見ますと、〝やれ〟というような目でした。既に勇者は剣を抜いています。出遅れました。勇者が振り下ろした剣を油で汚れた盾で受け止めます。当時は龍の爪を弾き返していた盾です。負けるはずが無いと思いました。しかし、油で汚れた今の盾は無残にも、勇者の剣を通してしまいます。盾を持っていた腕から血が流れます。痛みよりも、悲しさ、虚しさがこみあげてきました。けれども涙は出ません。流れ出る血を見て勇者が言います。


「足元にも及ばないな。戦いでは、足を引っ張らないようにするか、俺様の盾にでもなっていろ。」


 英雄様は情けなくなりました。こんなにもあっさりと負けてしまうなんて。やはり悲しさが勝ります。龍の攻撃よりも軽い攻撃が、あっさりと盾を貫いたのです。

 勇者が去った後、王様が英雄様に言います。


「おぬしの腕は鈍ったようじゃな。しかし、おぬしの力も必要じゃ。防衛戦では最前線で戦ってほしい。」


 もはや、お願いではなく()()でした。こうして、英雄は最前線で戦い、勇者は敵が弱った時に前に出ることになりました。

 家には帰らず、敵を待ちます。雲が星空を隠している天気の下で、英雄様は考えます。〝敵は一体なんだろう。今から来る兵士は敵なのか?〟迷いです。戦場ではまず始めに捨てなければならない()()を英雄様は持ってしまいました。このとき、遠い空は厚すぎる雲に覆われようとしていました。まるで、英雄の未来を遮るように。

読みにくい文章を読んでいただきありがとうございます。

次話で昔話が終わる予定です。

指摘、改善策、誤字、脱字、方言、感想など、なんでもいいのでください。

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