だいろくわ!【俺は念願の呼ばれ方を手に入れた!】
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「ちょ、ちょっと待て!」
俺はなんとかして静止し、フィギュアの話をつけなくてはならない。
「何?遺言なら聞くけど」
対する妹は俺をゴミを見るような目で上から眺めている。
……やばい、何かに目覚めそう。
いやいや、今はそうじゃなくて
「お前、この間俺の部屋で何してたよ?」
こういう質問をしなくちゃならんだろうよ。
そうやって質問された沙夜香は先ほどまでの態度を崩し、目に見えて慌て始める。
「え……っと……。そ、そんなの関係ないでしょ!」
「いや、あるだろ!」
俺のフィギュアぶっ壊れてんだぞ!
「知らんぷりするならいいけどさ、お前、あれが一体いくらするか知ってるのか?」
そういうと沙夜香はいかにも泣きそうな目で俺を見上げ、えっとぉ、だってぇ、と小さな声で呟き、とうとう俯いてしまった。
「俺は別に壊したことを怒っているわけじゃない。可愛い妹にそんな事できるわけないしな。俺はそうじゃなくて、どうして壊れてしまったのかってことと、それを謝って貰えればそれでいいんだ」
俺は努めて優しく振る舞い、沙夜香を泣かせないようにしてなんとか理由を聞き出そうとする。
この調子でいけば関係が元の仲がいい兄妹に戻ることはないにしても、沙夜香についていろいろなことを知ることができるだろう。
「お、お兄ちゃんは高校生になって時間が増えてからアニメとかよく見るようになったじゃん?私は小学生の時の「何があっても守ってくれる優しいお兄ちゃん」が好きだったのに、高校生になってからのお兄ちゃんは世の中のオタクみたいになっちゃって、「ああ、私のお兄ちゃんはもういなくなっちゃったんだなぁ」って」
そう沙夜香は紡ぎ、思っていることを全て吐露したのか、呼び方も「兄貴!」みたいな呼び方から、昔の「お兄ちゃん」に戻っていた。
それが何だか微笑ましくて、つい妹がこれまで俺に対してして来たことすべてを許してしまいたい気持ちにさせられる。
しかし、ここは心を鬼にして話をしなければ。
「じゃあ、沙夜香は俺がオタクでいるのが嫌でわざとフィギュアを壊したのかい?」
俺は努めて優しく振る舞うも、妹は慌てたように首を横に振って
「ち、違うのお兄ちゃん!それはお兄ちゃんの部屋を掃除してた時に棚の下を掃除機かけてたらガンって言って、そしたら棚の上から落ちて来ちゃって、それで……」
妹の声は進むに連れて窄んで行き、最後には聞こえないぐらいに小さくなってしまった。
……しかし、部屋がたまに綺麗になってたのはこいつが掃除してくれてたからだったのか。
態度は酷く、俺のことが嫌いになってしまったと思ってたから掃除は母さんがやっているものと思ってたんだが、まさか沙夜香だったとは。
これこそ「口ではそう言っても体は正直じゃねぇか」なんだろうか。
「それともう一つ言っておきたいんだけど」
俺はもう我慢できなくなって、俺の気持ちを伝えようと決意する。
「なに?」
その妹の返事は今までの威圧的な「何?」ではなく、妹が兄にかけるような「なぁに?(はぁと)」という柔らかい返事に変わっていた。
「その、俺のこと嫌ってるように見えて実は俺のこと考えてくれてるって知れて嬉しかった。俺の気持ちは中学の時も今も変わらない。中学の時はお前がピンチになった時は助けるように心がけてたし、今もそれは同じだ。俺はお前を愛してる」
「…………ッ!」
そういうと沙夜香は目に見えて顔を赤くして、ゴニョゴニョと何かを言った。
「そういうこと平気な顔して言う……」
「ん、何か言ったか?」
「なんでもない!」
俺が聞き取れなかったので聞き返すと妹の態度は元に戻り、「部屋に戻って!」と怒鳴られてしまったので俺は渋々部屋へと戻った。
……結局あの電動こけしはどんな用途で使われていたのだろうか。
おれと いもうとは わかいした!