だいさんじゅーはちわ!【踏みにじられる決意】
1
デスゲーム。
それが意味することは、おそらく文字通りだろう。
お互いの内、どちらかが死ぬまで終わらない。
「なんで……、なんでだよ!」
俺は思いきり壁を殴る。
どうして、どうしてここまで残酷な目に合わなくてはいけないのか。
俺は沙夜香が死なないように、暴走しないように性戦をすると決意したのに、起こる結果は何かしても何もしなくても同じ。
「貴方、制限時間が……」
それも判ってる。
視界の右下にはスタート時の五分から減り続けるカウントが表示されている。
これがゼロになれば、どちらかが死ぬだろう。
「最後まで何もしなかったらダメージをより喰らっているほうが死ぬのよ!?」
ということは、今この状態でカウントがゼロになれば紋章の魔力に苛まれている沙夜香が確実に死ぬ。
それでも、俺には沙夜香に直接手を下す事ができない。
奥歯を噛みしめ、これでもかという程食いしばる。
時間がない。しかし、直接手を下すことは俺にはできない。
相反する思いに板挟みにされ、俺はその場に立ち尽くしたまま刻一刻と時間は過ぎていく。
その場に立ったまま微動だにしない俺を見てしびれを切らしたのか、セレナは沙夜香に向かって歩き出す。
「おい、何をするつもりだ……!!」
今まで一緒に行動を共にしてきた彼女でも、愛する沙夜香に手を出そうとしているという事実は見逃せない。
「貴方がやらないなら、私がやる。ただそれだけの事よ」
その一言を放った直後、セレナが掌を沙夜香に向かって突き出し、怪しげな魔法陣を描き始める。
「おい!お前……!」
俺はその手を抑えるために、勢いよくとびかかる。
しかし、それはセレナの周辺にある障壁のようなものに遮られてしまい、指一本触れる事すらできなかった。
俺の行動には目もくれず、ただ淡々と沙夜香に対して魔法陣をくみ上げていく。
それに俺は静止の声をかけるしかできない。
「もうやめろ……、やめてくれ!!」
妹とは、別れたくないんだ。
プレミアがつくようなフィギュアを壊されたって、憎まれ口をたたかれたって、物をぶつけられて気絶させられたって。
腐っても妹なんだ。
だから、俺から妹を取らないでくれ……!
妹にあしらわれるだけならまだしも、この世界からいなくなるって考えただけで、耐えられないんだ……!
だから──
「俺から、沙夜香を奪わないでくれ……!」
俺の叫びに呼応したのか。
セレナの魔法陣からこれまでセレナが使ってきた魔法より一層激しい閃光が爆ぜ、周囲を見ることができないくらい視界を白く覆った。
やがて閃光が収まり視界が戻ると、右下のカウントはなくなっていた。
目の前には、身動き一つしない沙夜香の姿と、こちらに背を向けたまま立ち尽くすセレナの姿。
その様子から俺は起こってしまった事実を察した。
頬を一筋の雫が伝ったような気がした。
頭上には『YOU WIN!』の文字列が輝いていた。
手を下すのは弘人ではなくセレナ──




