だいさんじゅーさんわ!【選ばれたのはヤオラーでした】
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……これは何かの罠なんだろうか?
「おかしいだろ。だってお前、俺全身アザだらけになるまで矢突き刺したんだぞ?」
こいつ正気か?
「だ、だからだよ!」
???
わけわからんな。
「俺はホモも好きだけど、どっちかっていうと、その……、ま、マゾで!」
……ん?
なんか怪しい方向に話が向かっている気がするんだが……?
「むしろなんで私が[被加虐症]に選ばれなかったんだってくらい受けなの!」
顔を真っ赤にしながら向井は言ってるんだが、もう語尾も安定しないくらいテンパってんな、こいつ。
なんて暢気なこと考えていたら、一つの違和感に気付いた。
今この家には妹と俺以外、誰も、いないということに。
「っ!」
すぐさま向井と距離を取り、臨戦態勢になる。
「え?ちょっと、どうし──」
「黙れ!……、俺の質問に答えろ」
俺が突然距離を置いたことに驚いた向井は、俺に近寄ろうとして俺の声に足を止める。
「……な、なに?」
向井は忙しなく目を動かしながら、俺の質問を待つ。
「俺の母さんや梨花はどうした」
静かに、しかし問い詰めるように俺は言う。
「え?その二人は知らないけど」
「嘘を言うな!」
俺はさらに怒気を込めて言う。
「俺は朝起きてから一度も二人を見ていない。そこにタイミングを見計らったかのようにインターホンを押し、俺の家を訪ねてきたのは誰だ!?」
こいつは俺が油断した隙をついて昨日の復讐をしようとしているに違いない。
「大体、俺はお前に俺の住所を教えた覚えはないし、俺がちょうど目が覚めたタイミングで訪ねてきたってのも、違和感がある」
こいつは、一見もう無害そうな顔をして今も俺をどうにかしようと狙ってるんじゃないのか?
「もう一度言う。お前、二人をどこにやった?」
「わっ、私は……」
俺は向井を問い詰めるが、それでも向井は狼狽えるばかりで、答えを言おうとしない。
俺の我慢が臨界点を突破しようとしたとき、俺の耳がガチャリと、チャイムもなしに開く音をとらえた。
俺が慌ててそちらのほうを警戒するように振り向くと、そこには
「ただいま~。あら、お客さん来てたの?」
いつもと変わらない様子で帰ってきた母さんがいた。
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