だいさんじゅーにわ!【押しかけ新妻】
1
いざ妹に事情説明に向かおうとした矢先だった。
突然の来客を告げる音に、俺は内心いら立ちを覚えた。
「はいはい今度は誰だ」
憂鬱になりながらも玄関のノブに手をかけ、ゆっくりと開ける。
そこには麗しいとしか形容できないような、端正な顔立ちと透き通るように美しい黒髪を持ち、男装っぽい恰好をした女性が居た。
なぜこんな女性が俺のもとへやってくるのか。
普段ならこんな女性とかかわるタイミングはないに等しい。というか無いだろう。
なら考えられる理由は一つ。
こいつの淫魔が俺の淫魔を感知してやってきたに違いない。
セレナだって今回の性戦はけんかっ早い奴が多いって言ってたしな。
「ので、逃げる!」
俺は急いで玄関を閉め、鍵を閉める体制に入る。
「あっ、ちょっと待てって、[近親性愛]!」
玄関が完全に締め切る寸前、玄関の向こう側にいる人間の話し方と声に聞き覚えがあるような気がして、立ち止まってしまった。
そう、うっかり。
その隙に玄関の向こう側にいる人間がほんの少しの隙間を無理やりこじ開けるようにして入ってくる。
そのせいで、俺が玄関先に転び、それをまたぐ形で入られてしまった。
「ちょ、おい!何勝手に入って来てんだよ!反則だぞ、反則!」
勝手に入ってきた女に俺は精一杯抗議するも、その言葉はむなしく、俺はリビングにズカズカと入っていく女を見送ることしかできなかった。チクショー!(某舞子芸人風)
……せめて靴を脱ぐときは淑女らしくそろえて脱いでほしかったな。
ぽーいって脱ぎ捨てられるとこっちがそろえなきゃいけなくなるだろ。
まあ、その代わりうつ伏せになって抗議したおかげで靴を脱ぐときに上がった足の隙間から下着を見ることができたので、この玄関先の件は不問としましょう。
黒とは。眼福眼福。
『お茶貰うぞー』
俺の心情を知ってか知らずか、暢気な声がリビングの扉の向こうから聞こえる。
「うい」
俺も女に続いてリビングに入る。
そこにはいつの間にか現れた悠人と、白と黒を基調にしたドレスのようなものをまとった向井恵理がいた。
向井の服装は所謂ゴスロリ服で、不思議と彼女にはこれも似合っているように感じた。
「で、お前にはもう[腐女子]としての挑戦権は残ってないはずだが、何の用だ?まさか、俺を殺しに来たとか言わないだろうな?」
そう聞くと、向井は分かりやすく慌てて俺の言葉を否定した。
「そんな訳ないじゃない!……だろ!」
「ん?」
なんか、今こいつが発するとは思えない語尾が飛び出した気がするんだが。
「いいから忘れろ!……こほん。えっと、わた……俺たちがお前のところに来た理由は一つしかない」
なんか今私たちって言いかけたよな。
まあ、なんか大事なこと言うみたいだし、今は水を差さないで聞き役に特化しよう。
後でいっぱいいじって悶絶死させてやるがな!
「ほう」
「俺と、つ、付き合え!」
数舜の沈黙。
「……は?」
その沈黙を破ったのは俺の間の抜けた声。
え?
こいつと?俺が?付き合う?
ないないないない!こいつが初めての彼女とか、マジで?
嘘だろ、嘘だといってよバーニィ!
こんなに都合のいいことは起こらない……




