だいにじゅーよんわ!【THIS GAME IS NOT “DARTS”】
1
カウントがゼロに迫る。
「あんた、ルールわかる!?」
緊迫した様子で俺に話しかけているのはもうすぐ戦闘が始まるからだろうか。
「ああ、ダーツならちょっとだけやったことある!」
ちょっと、という点で不安要素は残るが、未経験よりかはよっぽどマシだろう。
「じゃああんた、あの向井って女を殺すつもりでやんなさいよね!」
それがどういう意味なのか分からなかったが、それを確認しようとした瞬間、ビー!というブザー音が上空から放たれ、カウントがゼロから十に変わった。
「制限時間は十分。その時間内により多く相手の背後にある的に矢をあてられるかってルールだね。投げられる回数は三十回。相手の矢が的に当たらないようにブロックすることも可能だってさ」
ゼロになった瞬間に目の前に現れたウィンドウ。
そこには悠人が読み上げた内容が書かれていた。
「ってことは、マジで命がけってことか……!」
俺は手元に現れたダーツの矢と視界内に表示される30/30の表示をにらみながら、ぽつりとつぶやく。
身を挺して矢の軌道を遮ることができるということはつまり、傷つけば傷つくほどに自身の勝利が近づくということ。
そこまでして叶えたい願いがあるならすべての矢を受けてでも相手を抑え込もうとするだろう。
しかし、俺は欲以前に、妹を助けなければならない。
この命に代えてでも守るべきものがある。そのためには差し出せるものはすべて差し出すつもりだ。
腕の一本や二本、くれてやる!
「おい、来ねえのかよ」
そんな裡の葛藤を知ってか知らずか、若干声を震わせながら向井は話しかけてきた。
お互い、ルールは先ほど初めて見せられたのだろう。
彼女の中では普通にダーツをやって勝つつもりだったのだろうが、自身の命がかかったと知ったことで、恐怖心を抱いたのだろう。
しかし、その目から殺気は収まる様子を見せなかった。
「来ないなら、こっちから行くぜ!」
俺が動こうとしなかったからだろう。
彼女は一本目を手に取り、その矢を放ってきた。
その手から放たれたのはダーツで使うようなプラスチック製の矢ではなく、釘のようにとがった金属の先端がついたものだった。
序盤、相手も的の高得点を狙って放ったのだろう。
その軌道は的の中心を狙うものだった。
しかし、序盤で得点を許すわけにもいかない。
俺は左目のあたりに向かって飛んでくる矢をジャンプすることで鎖骨のあたりに突き刺した。
「ッああああああ!!!」
鈍い痛みが左肩から全身にかけてはい回る。
全身をゆっくりとうごめくその痛みは現実では体験できないような感覚だった。
そちらを見て確認している余裕はないが、おそらく肩からは相当な量の血液が流れだしているだろう。
「まずは一本。今度は、こっちから行くぜ……!」
始まった直後に満身創痍気味になりながら、反撃の一投を放つために構える。
幸い矢が刺さったのは左肩だったので、矢を投げることに支障はなかった。
中心からあえて少しずらすことで的に当てることを狙った一打。
その軌道は彼女の左耳をカスって的を射る予定だったが、彼女も俺と同じように左肩に矢を突き刺すことで得点を止めた。
「きゃあああああ!!」
再び上がる絶叫。
それは男のものか女のものかという些細な違いだけだ。
開始一分、公園は瞬く間に地獄と化した。
デスゲーム開始




