だいにじゅーさんわ!【ファーストゲーム】
1
スイーツのような甘ったるい香りが充満する車内で不快感を覚えながら揺られること数十分。
車は妹の学校の近所にある人気のない公園の前で停車した。
「ここで降りればいいのか?」
俺は恐る恐る尋ねる。
犯人を刺激すれば俺、もしくは妹、もしくはその両方が殺されるという無残な結果にもなりかねない。
犯人は無言で頷き、俺を車から降りろと手で催促する。
ここで無駄に抵抗したところで結果は悲惨な方に傾く。
俺は何も言わずに車から降りた。
数秒後、車内に妹を残したまま、犯人は車から降りた。
「しっかり来てくれて助かったよ、[近親性愛]」
その言葉に、いや、正確には声に不信感を抱く。
紡がれる声は明らかに女性。スピーカー越しに加工されて聞こえていたとはいえ、あの話し方はまず間違いなく男だと思った。
「お前、誘拐犯本人じゃないな?」
「いや、誘拐したのは紛れもなくオレだよ」
瞬間、直前まで来ていたジーパンやジャケット、ニット帽に至るまですべての衣服が命を持ったようにうごめき始め、人の形を成した。
「そうそう、沙夜香ちゃんを誘拐したのは紛れもなく彼女さ。で、僕は彼女の淫魔って訳。お分かり?」
その場に現れたのは見間違えようはずもない、長谷川悠人の姿だった。
そこに、いつの間にか女装を解除したセレナが隣に立つ。
「なるほど、どおりで選定者の香りがする気がしたのにサキュバスが見当たらなかったわけだ。本当はインキュバスだったんだからね」
どうやらここにいる三人はすでに状況を理解しているらしく、一触即発の雰囲気が漂っている。
「おい、セレナ。これはいったいどういう状況なんだ?」
俺の場違いな質問に、警戒心をあらわにしながら答える。
「今回初めての性戦が始まるってことよ……!」
次の瞬間、上空には大きめのスクリーンが映し出され、そこに『ダーツ』と表示される。
「どうやらあなたお得意の麻雀はできないようね……」
数秒後、周囲の風景が公園からデジタルチックな空間へと変わり、両者の背後にダーツの的が設置される。
「名乗り遅れたな、オレは[腐女子]の向井 恵理。今日で最後だと思うけどよ、あんたを倒した相手の名前くらいは憶えておきな」
その宣言をすると、両者の中心にウィンドウが表示され、カウントダウンが始まる。
俺はこのカウントがゼロになった瞬間、お互いに命を懸けたゲームをしなければならないのだと悟った。
しばらくギャグパートはないと思います(たぶん)




