だいじゅーごわ!【運命の分岐】
1
ひゅうと頬に冷たい風が吹き、俺は眠気を感じつつ目を覚ました。
いつの間に眠ってしまったのだろうか。
時刻はわからないが、おそらく深夜。
服はまだ部屋着ではなく、俺があのまま寝入ってしまったことを物語っている。
とりあえず、あの再び目を覚ますことがないようなだるさを感じた後も目を覚ますことができたのはよかった。
しかしおかしい。
俺は眠る前に扉が閉まっているのを確認したはずだ。……確認したよな?
「……わね。…………かしら」
突然耳に入る声。
聞いたことのない声に、反射的に布団に入ったまま思考していた脳みそをそちらに集中させる。
おそらく空き巣だろうか。
こええよ!女の人の声だけど油断できねぇよ、マジで!
とるものだけ取って帰ってもらおう。
「ぐえ」
そんなことを考えていたからだろうか。突然俺の腹の上にドスンと、鈍い衝撃が走った。
「あら、ごめんあそばせ。重かったかしら?」
衝撃によって完全に覚醒した意識がその声をはっきりととらえ、明瞭に鼓膜に届けてくる。
目を開けた俺の視界に映る体型は夜の月明りでぼんやりとしかわからない。
「誰ですか……?」
優しく語りかけてきているのが女性だからと言って、油断するわけにはいかない。
どこに武器を隠しているかわからないしな。胸の谷間とか胸の谷間とか。
「そうね、自己紹介が遅れたわね。私はセレナ。貴方を選定しに来た淫魔よ」
その言葉に思わず眉を顰める。
セレナ?選定?俺には理解できない単語がいっぱいだ。
サキュバスは普段お世話になってるから知ってる。
「選定?なんなんですか?それ」
「まあ、理解してなくてもしょうがないわ。元から選ばれてる選定者なんて数えるほどしかいないもの」
目の前のセレナと名乗る女性はおほん、と一つ咳払いし、こう続けた。
「端的に説明するとね、あなたは性癖戦争の選定者に選ばれたのよ」
聞きなれない単語に、俺は思わずその単語を繰り返してしまった。
「性癖戦争……?」
なんだ、そのいかがわしそうな戦争は!
いいぞ、もっとやれ!
「言っても実感わかないわよね。性癖戦争っていうのは九人の選定者たちが自身の性癖をかけて戦うのよ。その選定者同士の戦いに勝利した最後の一人は自身の望むことを一つだけ叶えることができるってわけ」
そこでセレナは一呼吸おいて、続ける。
「で、その九人の選定者はお互いに性戦で戦う方法を自身のサキュバスに登録し、実際に選定者と戦いになった場合はお互いのサキュバスが性戦用の結界を張ったあとに登録された戦闘方法からランダムで選ばれた試合形式で戦うの」
そこまで話を聞いて、俺は口を挟むように質問した。
「じゃあ、俺には特殊な能力……、例えば異常な筋力が与えられたりとか魔法が使えるようになったりとかってのがあるのか?」
突然の質問にもセレナは眉を顰めることなく答える。
「そんなことはないわ。性戦に登録された戦う方法で一番勝ち目があるのは相手に勝てる土俵が選ばれること。あなたに特殊な能力が備わるわけじゃないわ。でも、ある程度選ばれる試合形式を操ることはできるわ。これはほかのサキュバスもやってることなんだけど、あらかじめ主人の得意分野を聞いておいて、実際に試合になった時にそれが出やすいように細工できるの」
その話を聞き、俺は勝てる確証のない危ないことには参加しないほうがいいなと思った。
負けてもデメリットがないなんておいしい話あるわけないしな。
「それなら俺はその性癖戦争?ってやつを辞退するわ。ここまで来てもらって悪いけど他を当たってくれ」
そう聞くと、セレナはその答えを待っていたようににやりと笑い、こういった。
「それはかまわないけど、そうなるとあなたが在籍するはずだったクラスの性癖があなたから消失することになるわよ?」
俺の性癖というと、シスコンかロリコンあたりだろうか。
……それはいけない!
「そういうなら俺のクラス?を教えてくれよ!」
その質問をしたからだろうか。
突然胸のあたりが熱くなり、あろうことか光を放ち始めた。
「うおお!?俺飛行石になっちゃったの!?」
突然のことに意味の分からないことを口走った気がする。
「ふーん。貴方のクラスは近親性愛なのね」
光が収まり、その胸に描かれた魔法陣のようなものを読み取ったのか、セレナが横文字を口にした。
「よくわかんないけど、俺はそのインセストってクラスなのか?」
「そうみたいね。貴方、シスコンだったってわけ。ふーん?」
目を細め、品定めをするように俺をみつめる。
こうして俺はインセストというクラスを与えられ、そして性癖戦争という意味不明な争いに巻き込まれたのであった。
性癖戦争って打とうとするけど間違えて聖杯戦争って打っちゃうのあるよね。
え?ない?ああ、そう。




