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結びとめる。

 絶対に離すな、と命令されたのは細い白い糸だった。

 なんですか、これは、と尋ねれば、これは手綱だと説明された。しかし手綱というには、ずいぶんと心もとない気がしてしまう。

 細く白いそれは、ちょっと強く引っ張れば、いとも容易く切れてしまいそうだった。糸だけに。

 それがどこと繋がっているのかと辿ってみれば、一人の幼子にたどり着いた。

 白い髪、白い衣服、細い腕。

 糸は彼女の薄い胸から直接出ているようだった。この糸を手から離さないように暮らせ、というのが命令であった。

 テープでひっつけて暮らそうとしても、ダメだと言われてしまったので、不思議に思いつつもそのまま暮らす方法を考えた。

 与えられた部屋には、一通りの設備がそろっていた。幼女にもご飯を与えながら、普通に暮らし続けた。彼女は非常に従順である。手伝ってほしいことがあってお願いすれば、頷き一つ、すぐに手伝ってくれる。力もなければ、身長もない。特別な力があるとしても、その片鱗すら見つけられない。

 今の生活には、疑問を持ちながらも納得しているつもりだ。小説を思う存分むさぼりながら、普通に暮らしているだけで十分な額の給与が支払われる。あの幼女は、いつも何を思ってか、窓辺に座り込んで、じつと空を見つめている。

 人口の青で染められた空が、そんなにいいものだろうか。プログラミングにより、時間によって色は変わるが、それも毎日同じようなものだ。

 変わらない毎日。

 二十四時間同じテンポで過ぎる日々。

 それに変化が訪れたのは突然のことだった。

 はらり。

 白の幼女が涙を流したのだ。

 その姿にひどく心を打たれてしまった。なんの楽しみもない小さな部屋で、閉じ込められ、見ず知らずの男性と暮らす羽目になったのだ。細い糸が出ているというだけで。

 つい、掴んでいた本や糸を放り投げて、両腕で抱きしめてしまった。少女は背中に手を回し、はらはらと涙を流した。かわいそうに。かわいそうに。つられて涙を流してしまう。

 久しぶりに離した左手で少女の髪を撫でる。手綱をしっかり握っていて、と注意され続けていたが、なにも変わらないではないか。こんな少女を、どうしてこんな目に遭わせているのだろう。背中を撫で続けていると、しばらくして、少女が泣き止んだようで安堵して、少女の顔をみる。

 少女は初めて笑みを浮かべた。

 その微笑みはまるで悪魔のように。

 伸ばされる手から、逃れる意思を持つ暇もなく。

 首に手がかけられ。

 そして、意識が――――。

フリーワンライに参加した時のものです。

「手綱をしっかり握っていて、微笑みはまるで悪魔のように」

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