誘引戦
最も北上している魔物と対峙しているのはアンコモン「山口教継」コモン「山口教吉」率いる500である。部隊の前には即席の柵も作ってある。
これより北には備えとして2つの部隊がいるだけだ。
教吉は20歳の血気盛んな荒武者である。
「滅ぼしても構わんのだろ?」
と言い出す始末である。
「・・。」
馬上で腕を組み、沈黙を保つのが父・教継である。
彼も武勇に優れた将である。自軍より多い敵と戦ったのは1度や2度ではない。
魔物達が迫る。矢を放ち迎撃する。
矢を受け、倒れ、転がる魔物達。
しかし、それでも群れは止まらない。
柵に取り付く魔物達だが、そこは柵の間から槍や剣で突かれて討たれていく。
コモン「水越助十郎」が雄叫びをあげて飛び出す。
槍を振り回し敵を追い払う。しかし魔物も後続に押されて逃げられない。このままでは敵に押し潰される。
そこにコモン「萩原助十郎」「中島又二郎」「祖父江久介」「横江孫八」が駆け付けて敵を討つ。
さらに馬影が走る。
「若!!」
山口教吉が馬を走らせて槍を振るう。
目指すはオークナイト。
振りかぶる大剣を降り下ろさせずに槍で穿つ。
傭兵達は未だに柵に押し寄せる魔物を槍で迎撃している。
ピィィィー!!
合図の鏑矢が鳴り響く。
「次の柵まで退く!!」
教継の号令が戦場に伝わる。
傭兵達は一斉に逃げ出す。
だが、具現化されて望外の力を得た教吉は退かない。源平の英傑や春秋戦国・三国志の英雄。彼らに並ぶ好機と考えている。若さゆえの暴走であった。
気付いた侍達が追い付く。
「付いてまいれ!」
だが、教吉は馬を走らせる。
後方の教継は将としての責任感で踏みとどまる。
「後方の隊に将の派遣を要請せよ。」
合図の狼煙があがる。
己は大きな和弓に矢をつがえ、息子に向かう大型の魔物を狙う。
魔物達は教吉達を狙うもの、逃げる傭兵達を追うものと別れた。魔物が向かってくる以上指揮を放棄はできない。教継も馬を走らせて柵まで退く。
「各々迎撃せよ。」
教継は駆け出したくなる己を抑えるのに必死であった。
山口教吉はすでに馬を潰して乱戦に飛び込んでいた。何体かの隊長格の魔物は仕留めたが敵は退く様子はない。すでに槍や長刀は折れ、刀で戦わざるえない。
「もはやこれまで。」
誰かが呟く。
水越、横江が血路を開く。荻原、中島が殿となって踏みとどまる。祖父江がなんとか山口教吉を逃がす。
「若は逃れたか。」
水越、横江が引き返して荻原、中島と合流する。
いや、中島はすでに事切れていた。
魔物達は途切れる事なく襲い掛かってくる。
死はそこまで迫っていた。