木陰の向こう側
私が老兵士と別れた後、カシードの毛並みを確かめる様に私はブラッシングする。
それを見ていた兵士が心配そうに自分が捕った地図をつまみ上げ、そして私にプレゼントにしたいのか、リボンを選んでいる。
私はカシードに股がると、樹海を走り疲れた鬣を手で鋤きながら、河川を渡る準備する。
「さぁ出発するわよ」
「なぁお嬢さん。これ、どう思う?」
「これって言われても…」
私は上から兵士を見つめると、寒さに身を縮める。
この前、戦った傷を見られまいと首元を隠す。
「…どうされたので?探しかた地図はこのように飾り付けて、俺の手元にありますよ…」
「馬から降りないと無理だわ」
季節は初春、河川を見つめながら、私は少しだけ迷ってしまう。
早く、あの男に会いに行かなくてはならないのに…
赤い軍服の下のカタビラがもどかしい。
カシードは私の合図を待っていてくれている。
改めて兵士の姿をじっくり見てみる。
兵士の服装は旅路のそれで、深い緑の軍服姿にマントが湿気を含んで重そうだ。
その手甲がある左手が戯れるように私の隠した首もとにある、ピラミッド型の紋章を見ようと手を伸ばして来た。
この男は元、私の部下だったが先の戦いでカシードが傷をおった時に看病をしてくれた優しい部下だ。
なぜ、紋章に手を伸ばしたのだろうか。
「その傷痕、カシードと似た位置に有りますね」
彼は私のビロードのマントから見える素肌をじっと見ると、私の波打った豊かな髪に触れて、こう呟いた。
「リックル様、お慕い申し上げておりました……」
「……」
私はその言葉に頷くと、前を見据え、あの想い出の場所に急ごうとするのだった。