不思議な酒場
「これは先の戦で姫様に馬と一緒に謙譲した。ものだ」
老兵士は食料である果物を切って、女兵士に差し出す。
「刃物とはこういう風に使うものだ」
私は感心する。と、同時に驚いた。あぁ、この老兵士は正しいのだな。とても寂しそうな目をしている。
「あの馬を返してもらいたい」
「何故だ?」
私は問う。老兵士はいきなり黙り混み、無言で酒場の方へ移動する。私達2人は黙って着いていく。
愛馬カシードの事が気掛かりだが…。
兵士は入り口に立って、ずっと夜空を見つめている。そして、私の正面にドカっと座り、こう言いはなった。
「私の大切な娘が人恋しくて泣いているのだ。あの馬さえあれば、そんな剣なども、持たなくて良くなる」
そのセリフを聞いた老兵士は差し出した果物を引っ込めた。
「それが戦を潜り抜け者の態度か?」
兵士はふざけて、落ちた葉巻をくわえなおすと、
「なんだお前ら、戦の道具でアップルパイでも作ろうっていうのか?」
ふざけながらの兵士は入り口に戻ろうとする。
「違うわよ!この剣と、私の愛馬は絶対に守りぬく」
それを笑い飛ばす兵士。
ここは酒場、私達の声は回りに全く聞こえない。
の、はず…。
後ろに陣取っているパーティの1団の騒音が気になるが、ここは取り敢えずウェイターに何か頼むとするか…。
老兵士は諸手を挙げて、一言。
「ウォーターと、この店の一押しを頼む」
「かしこまりました」
老兵士はかしこまると、不思議そうな目線で私のサーベルを覗き込む。
私は一瞬たじろく。老兵士と視線が合う。
「君は剣に名前を付けたことがあるのかい?」
「…いいえ、この剣は昔、戦場からくすねて来たものです」
「ハハハっそれは驚き!まさか1国を統べる女王がそんなことを老い先短い私に教えてくれるとは、今更だが、フルネームは?」
私は迷った挙げ句、耳打ちをした。
「…アーメン・ストルゥーパ・リックル…と申します」
老兵士はワインを1口飲むと、ニコリと笑った。