とある少女に捧ぐ
遠く…深く…暗い…そこは闇の巣くう場所。
『―――』
水面に波紋をつくるように唐突に、だが静かに響いていく声があった。
声を発したのは、人ではない。いや、姿形はどこか機械的で無機質な虫じみた動きを属していたが、その眼…見開いたその眼だけが人よりも人らしく―むしろ、獣じみた光沢を放った。
「それ」が発する声。暗い混沌の闇から―囁くように。
『―――…』
「それ」はゆっくりとした動作で首をもたげ、上空を見上げようだった、とは言ってもその先に何がある訳でもない…ただ深い、気が遠くなるほど深い闇が横たわっている。ゆっくりと…渦巻くように。
いや、ちがう。
「それ」の眼は闇を見ているのではない。
闇の先…遥か遠くの何かを見ているのだ。闇は永遠などではないことを知っている。自分のすべきことを知っている。そのために見上げている。
――獣の眼を爛々と光らせて。
『―――!!』
ふいに「それ」が鋭く、悲鳴のような声を発した。と、それが合図だったかのよう「それ」の体が激しく輝き始めた。
白い炎に似た揺らめきを持った光だ。
ただ一つ、炎と違うのは、まるで螢日のような規則的な点滅を繰り返していることだけ…。
その輝きが闇を照らしている―――切り裂くように。
そして。