第8話 逢瀬 後編
数時間後、晩飯を終わらせたオレ達は大吉の昔話に花を咲かせていた。
「―それでね、大吉ったら私にワンワン吠えている飼い犬に飛付いたんだから。
飼い主のおばさんは顔面蒼白よ」
「大吉ならありえるな。闘牛とでも素手で格闘しそうだ」
「あははは!あり得るわね!それ!」
「でも、大吉も必死だったんじゃないか?好きな女の子が大変な時に
助けに行くのが男ってもんだ…って大吉が言ってた」
自分で言ってて、気恥ずかしく感じた。
「大吉がそんな事言ってたの?へ〜。以外だわ」
「ヤツも男だ。好きな女の子ぐらいいるんじゃないか?」
「それもそうね。なるっちは今、好きな娘いるの?」
その言葉を聴いた瞬間、オレは躊躇った。
「…逢瀬はいるのか?」
咄嗟に逢瀬へ話題をふる。
「え!?私?私は……いるよ一応。言っとくけど、大吉じゃないからね!」
そんなに強く否定しなくても…。
それにしても、哀れ大吉。お前の恋は無残に散ってしまったよ。
「やっぱり逢瀬も女の子だな」
「………」
「逢瀬?」
「―なの?」
「?」
「なるっちもなの?あの時私を助けてくれたの。…その…」
逢瀬が言わんとする所は分かっている。
『好きな女の子が大変な時に助けに行くのが男ってもんだ』
「…オレは…」
「私の…好きな男の子はね……」
オレの返答を待たず、逢瀬が口を開いた。
「私の好きな男の子は、最近知り合ったの。始めの方は凄く無愛想で
私が声を掛けても一言しか返してくれなかった。正直、ショックだったなぁ」
少し落ち込んだ表情を見せる。
「でもねその人、無愛想なんだけどたまに苦しそうな…悲しそうな顔をしてた。
正直、見てられなかった…。何か重いモノを背負ってるんだなぁって感じたから。
だから私が近くにいて励まそうと思ったの」
「………」
「でも返って気構えちゃって、逆に私が落ち込んじゃった。
『なんで励ますことが出来ないんだろう』って…」
「昨日も私のせいで大ケガをしちゃったのに私に優しくしてくれた。
普段は一言しか話してくれないのに、色々話してくれたの…」
逢瀬が少し涙ぐみながら一言一言発していく。
「私、なるっちが…俊介の事が好き!」
「え…!?」
突然逢瀬に告白されたオレは困惑した。
逢瀬がオレを好いてくれた。
それは正直凄く嬉しい。
けど…。
「……すまない。少し考える時間をくれ」
オレも逢瀬のことは好き―だと思う。
だけどオレはまだアイツとの思い出を忘れていない。
このまま逢瀬と恋人になったとしてもオレは
逢瀬とアイツを重ねてしまう。
逢瀬を傷つけてしまう。
それだけは絶対ゴメンだ!
「ゴメン。突然こんな事言ちゃって…」
「いや…」
「気長に待ってるから…」
「…ああ」
午後11:00。
オレは布団に包り考え事をしていた。
逢瀬の思い…。
こんなオレを好きになってくれた。
その思いは痛いほど嬉しい。
でも、やっぱりアイツの事を考えてしまう。
(オレは…最低だ!)
やっぱり逢瀬にも話すべきだ。
隠しててもいい方向へは行かないだろう。
(勝負は明日か…)
思考に一区切りついた所でオレの意識は睡魔に誘われていった。