第7話 逢瀬 前編
「…痛っ!」
体の痛みで目が覚める。
昨日受けた傷がまだ痛む。
痛みに耐えながら目覚ましを手に取る。
針はまだ午前7:35だ。
学校を休もうとも思ったが、そうすると
逆に逢瀬へ心配をかけてしまう。
痛みを感じながら登校の支度へかかった。
(この分だと朝飯は無理だな…)
午前8:10。
「あ、おはよ…」
家を出た所で逢瀬にあった。
いつもの挨拶とは逆に落ち込んだ表情だ。
「ああ、おはよう」
オレは極力心配を掛けまいと初めて明るく挨拶をした。
「ケガ…大丈夫…?」
「心配ない」
「…そう」
逢瀬はまだ沈んだ顔のままだ。
暫く無言のまま登校する。
擦違う人擦違う人、オレの顔を見て怪訝な顔をしている。
無理も無い。顔中絆創膏だらけで
腕には包帯がグルグル巻きにしてある。
「はは、注目の的だな」
「………」
「…逢瀬、昨日の事が自分のせいだと思ってるのか?」
「………」
「そう思ってるんだったら間違いだ」
「え…」
「オレは自分の意思であの場に行った。だから逢瀬のせいじゃない」
「だ、だって!私がそこにいなければこんなことにはならなかった!」
逢瀬の悲痛な声。
自分のせいでと言う申し訳ない思いからなのだろうか。
さらに顔が苦悩に満ちていた。
そんな逢瀬の表情がオレには耐えられなかった。
「…ふぅ。逢瀬にはその顔は似合わないよ。
いつもの元気いっぱいの逢瀬 一美はどうした?」
「…え?」
「オレの事は気にするな。逆に逢瀬がそんな顔をしている事がオレには辛いよ…」
(何言ってるんだオレ…)
「いつもの逢瀬でいて貰わないと困るんだ」
(オレは…逢瀬のことが…?)
自分でお言葉を発しておきながら自分で疑問がわいてしまう。
オレは逢瀬が好きなんだろうか…。
「なるっち…。ありがとう…」
遅刻ギリギリで何とか教室へ入ることが出来た。
教室に入るとクラス全員がぎょっとした顔でオレを見ている。
しょうがない。今は絆創膏お化けだからな。
自分の席に着くや否や大吉が声を掛けてきた。
「俊介。ケガの具合はどげなね?」
「痛みは有るけど大丈夫だ。でも、今日の体育は無理だな」
「そうか。あまり無理したらいかんばい」
「…分かってる」
オレの事を気遣ってか、言葉少なめで大吉は席に着いた。
放課後、オレは職員室へ。
何故こんなケガをしたか先生に報告するためだ。
「失礼します…」
・
・
・
「失礼しました」
担任はいなかった。
(自分で呼び出しておいて居ないのは無責任じゃないか?)
別の先生に事情を話しておいた。
まぁ、大丈夫だろう。
「さてと、帰るか」
ふと見ると、逢瀬が職員室の前で立っていた。
オレの姿に気付くと少し遠慮がちに口を開く。
「あ…なるっち…」
「…逢瀬か。お前も職員室に用か?今は担任がいな―」
「待ってたの。一緒に帰ろ?」
(…待っててくれたのか)
「そうだな。久しぶりに一緒に帰るか」
そう言って学校を後にする。
「そう言えば、あと少しで文化祭だね〜」
逢瀬が話し掛けてきた。
「そうか、もう直ぐ10月だもんな」
「うん…」
「………」
「………」
沈黙。
(まだ、気にしてるようだな…)
気にしないって言うのが無理なんだろうけど…。
やっぱり逢瀬のこんな姿は調子が狂う。
(しょうがないな…)
「何ネガティブオーラだしてんだ?シャキッとしろ!」
とオレは逢瀬の頭に手をポンとのせ、髪をくしゃくしゃ
撫ぜながら言った。
「きゃっ!な、何すんのよ!」
逢瀬がビックリした様な、少し怒った様なそんな顔をする。
「その顔だ」
「え?」
「その顔でないとオレの調子が狂う」
「もう…。自己中なんだから…」
「今頃気付いたか?」
「ええ、今頃気付いたわよ」
「あははは」
「くすっ」
ちょっと調子を取り戻した逢瀬を見て嬉しかった。
「ただいま〜って誰もいないんだよな…」
久しぶりに言ってみたが、一人暮らしのオレに
家に帰って返事をしてくれる人間はいない。
(飯、どうすっかなぁ…)
いつもならコンビニで買ってくるのだが、
ケガの痛みも手伝って面倒くさくなる。
仕方なく、湿布を取り替えようとした時、
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
(たぶん逢瀬かな?)
そう思い、玄関のドアを開けた。
案の定、逢瀬が玄関前で立っている。
「こんばんわ〜。なるっち今いい?」
「大丈夫だけど…。どうした?」
「うん…。晩ご飯作りに来たの。どうせ食べない気でいるんでしょ?」
(す、鋭い…)
良く気が回る娘だ。
「気持ちは嬉しいけど、それじゃお前に負担が…」
「かからないわよ。材料費はなるっちが出すんだから」
そしてちゃっかりしてる。長生きするなコイツは。
今だけを見ていると以前の逢瀬だ。
オレは少し安心した。
「じゃ、行って来る!」
逢瀬はそう言うと、オレの財布から出した万札を握り締め買出しへ出かけた。
(ありがとう。逢瀬…)