第6話 事件
―夢。
夢を見ている。
昨日の出来事。
逢瀬への大吉の思い。
『―もしお前もおーせの事を好いちょうなら負けんけんね』
オレが逢瀬が好き?
そんな筈は無い。
逢瀬は友達だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
逢瀬は友達だ。
…そう思う。
午前7:00。
目覚ましがなると同時に目が覚めた。
「ん〜…」
ベッドの中で伸びをする。
夢の事を思いだす。
(…友達か)
友達を作る事は考えてなかったが、いつの間にか出来ていた。
アイツとも始めは友達だったな。
一息ついて朝食の準備に取り掛かった。
いつもと同じ時間。
「おっはよー!」
いつもと同じ登校風景。
「………」
いつもと違っているのはオレだ。
昨日の一件以来、逢瀬の顔を見ると言葉に詰まる。
「おはよ!今日も寝ぼけてるなぁ?」
「…いや…そんな事は…無い」
(何を気にしてるんだ。オレは)
「ん〜?何か顔赤いよ?風邪でも引いた?」
そう言うと逢瀬はオレの額に掌をおく。
「熱は〜…無いみたいね。もしかして…恋でもしてんのかなぁ?」
悪戯っぽく微笑む逢瀬。
(うっ…)
一瞬とっても逢瀬が可愛く見えた。
…ダッ
「あ!ちょっと〜!」
とても恥しくなって走ってその場を後にした。
HR後、今日は珍しく起きている大吉が話し掛けてきた。
「俊介!今日暇か?」
「…特に用事は無い」
「そうか!じゃあ学校が終わったらゲーセンに行くばい!」
「ゲーセン?」
こいつの口からゲームの話が出るとは正直思わなかった。
「別にいいけど、逢瀬は誘わないのか?」
「それじゃ、特訓にならん」
(特訓…ああそう言う事か)
どうやら、この前やったダンスゲームの特訓をするらしい。
逢瀬がいたら独壇場になってしまうから練習になら無いと大吉は言っていた。
放課後、オレ達は繁華街のゲーセンへ。
下校ラッシュの事もあってか、結構学生服が目立つ。
「どうしてオレを誘ったんだ?」
それもそうだ。
逢瀬を誘えばデートにもなるし、ダンスゲームだって教えてもらえる。
「自分で特訓ばして上達せんと俺が納得出来んと。
それに、これだったらお前と同じ条件ばい」
(律儀な男だな…)
4時間後、流石にぶっ通しで踊っていたら足に来た。
時間も既に午後8時だ。
「…そろそろ終わりにしないか?」
「何でね!お前、こんぐらいでもう終わるとか!?」
「オレは一人暮らしだ。余計な出費は後々困る」
「そうか…。それじゃ仕方なか。俺はもう少し練習するけん」
「…ああ、じゃあな」
そう言って後にした。
熱気と騒音で包まれたゲーセンを出ると直ぐに静かな冷たい風が吹く。
もう冬だ。上着が無いと凍えそうだ。
トボトボと道を歩いていると見知った顔を発見する。
(逢瀬?こんな時間になにしてんだ?)
逢瀬と隣にもう二人男が立っている。
一人は短髪で茶色い髪の毛をツンツンに立てている。
もう一人は背が高い。恐らく180はあるだろう。
「………」
少し嫉妬みないな感情を覚える。
(逢瀬もオレと大吉以外に男友達がいるのは当たり前だ…)
そう結論付けて横を通り過ぎようとする。
が…どうも様子が変だ。
「嫌です。帰ってください!」
「え〜?いいじゃんか。ちょっと付き合うだけでいいからさぁ」
(ナンパか?)
短髪の男が「遊びに行こう」としつこく付き纏っている。
それでも、その誘いを断り続けている逢瀬に痺れを切らせ、
長身の男が逢瀬の腕を掴み強引に連れて行こうとしている。
「嫌!離して!」
(!!)
急いで逢瀬の元へ行った。
「…ちょっといいか」
長身の男へ言い寄る。
「あぁ?誰だよ、テメェ」
「…なるっち?!」
逢瀬がびっくりした表情でオレを見ている。
「コイツはオレの連れだ。さっきはぐれて探していた」
「だから何だ?おめぇにゃ関係ないこと―だ!」
その刹那、短髪の男の拳がオレの腹ににめり込む。
「…ぁが…」
言葉が出ない…苦しい!
オレはその場に蹲った。
「おらおら!どうしたよ!女を守ってみろよ!」
容赦なく蹴りやパンチが飛んでくる。
(……やばい。意識が…)
その時、
「お願いします!やめて下さい!!」
朦朧とする意識の中で逢瀬の声が聞えた。
「るせぇ!引っ込んでろ!」
逢瀬が止めに入っろうと短髪の男の腕を掴むが、振り払われる。
「きゃあっ!!」
(あ…)
『あぶない!』
『きゃあっ!!』
『ガッシャァァン!!!』
昔の忌々しい思い出が蘇った。
「…なせ」
「あ?」
「離せ」
胸ぐらを掴まれたまま言い放つ。
憎しみを、殺意を込めて。
「…んだよ。ムカつくんだよ!その目!」
と短髪の男が拳を振り上げたその時、
「俊介に何ばしよっとか!!」
いいタイミングで大吉がやってきた。
ただでさえ厳つい顔がさらに厳つくなっていた。
昨日、オレが「馬鹿馬鹿しい」と言い放った時の表情よりも
さらに殺気が篭っている。
大吉の怒り心頭の顔つきを見てナンパ男達は逃げていった。
ナンパ男の手から離れたオレはその場に倒れこんだ。
「なるっち!!なるっち!!」
「俊介!無事か!?」
二人がオレを呼んでいるのが聞えた。
「…大丈夫だ。だからあんまり大きな声を出さないでくれ。傷に響く」
「言ってる事が矛盾してるよ…!」
逢瀬が涙目になっていた。
「俊介!すまん!俺も一緒に帰っちょればこげな事には…」
「…大丈夫だ」
オレは大吉におぶられ、病院へと行った。
午後11:00。
オレはベッドで横になっていた。
「…大丈夫?」
隣には逢瀬がいる。
大吉がオレを家まで送り届けてくれた後も心配だといって残ってくれた。
「ああ。大分楽になった。ありがとう」
病院に行ったお陰で幾分か楽になっていた。
「ゴメンね…。ゴメンね…」
逢瀬は何度も謝っている。
「心配ない。それより、明日も学校だ。早く帰ったほうがいい」
「で、でも…」
「本当に大丈夫だから…」
「う、うん…」
逢瀬は渋々オレのアパートを後にした。
体を起そうとしたが、
「…痛っ」
痛みで顔が歪む。
(こりゃ明日も酷いな…)
まだ熱と腫れの引かない体を庇いながら床に就いた。