第3話 友達
午前7:00。
3日目の朝だ。
目覚ましが鳴り、起床を促していた。
「ねむ…」
朝はどうも寝起きが悪い。
二度寝しようとも考えたが、時間内に起きれる自信が無い。
仕方が無く身支度に入る。
今日が終われば明日は休みだ。
午前8:00。
今日も快晴だ。雲一つ無い。
そんな清々しい朝にオレはというと、まだ眠気が残っている。
ボーっとしながら登校していると後ろから走ってくる足音がした。
「おっはよう!」
背後から逢瀬が元気のいい挨拶がする。
「…ああ」
と一言で返す。
当然の如く反論が返って来た。
「違うでしょ!なんでアンタはそんなに無愛想かなー?」
「………」
それから逢瀬は「挨拶は人とコミュニケーションを取る大切な役割」だの
「人と人との潤滑油」だの挨拶論を語っていた。
C組の教室。
その室内でオレは固まっていた。
「なぁ…。オレの席は逢瀬の隣だったよな?」
「そうだけど?もしかして若年症アルツハイマーにでもなった?」
「なってないけど…。オレの席に座っているヤツは誰だ?」
「大吉」
…どうやら大吉というヤツがオレの席を占拠しているそうだ。
図体もでかいが、顔もでかい。
所謂ガキ大将、番長みたいなヤツだ。
「大ちゃん〜。アンタの席はそっちでしょ?何朝っぱらから寝ぼけてんの?」
「ふぁ〜い…」
逢瀬が子供に促しをかける様に大吉とやらの席へ誘導する。
「ゴメンね〜。コイツどこでも寝ちゃうのよ」
どこの学校にも変わり者はいるようだ。
自分の席へ誘導された人物は「あと5分〜」と寝言を言いながら再び床に就いた。
HR後、隣から一人の男子生徒が話し掛けてきた。
「よう、隣人!朝はすまんかったな」
見ると今朝オレの席を占領していた大吉が立っている。
やっぱりでかい…。
「俺っち朝は超低血圧やけんね〜。許してな」
「…ああ」
(聴き慣れない方便だな…)
「あ、まだ自己紹介ばしちょらんかったな。俺は日之丸 大吉。
生粋の九州男児ばい!」
通りで聞きなれない方便を使っているわけだ。
大吉の自己紹介もそこそこに1時間目が始まった。
昼休み。
オレは昼食を買うため購買へ。
しかし、席を立つと直ぐに違和感を覚えた。
(財布が…ない)
そう言えば昨日、晩飯を買いに行ってそのままだった…。
(忘れてた…)
どっと疲れた。
仕方なくまた席に座る。
「ん?なるっち、昼ごはん食べないの?」
聞き慣れた声。逢瀬だ。
「今日は財布無いから昼飯も無い」
「それはそれは。良かったら分けてあげようか?500でどう?」
(…オレにたかるつもりか?)
「いらない」と言う前に反対隣の大吉が弁当の匂いを嗅ぎ付け目を覚ます。
「おーせ!俺も腹減ったばい!何でもええけん食わせちくれ!」
「い・や・だ。大体、アンタは馬鹿でかいお弁当がちゃんとあるでしょうが!」
「あれは、2時間目に食ってしもうた〜。
それに、俊介にはよくて俺にはダメっち、そりゃ差別ばい…」
どこの学校にも早弁する生徒はいるようだ。
結局大吉の懇願に負けて、逢瀬の只でさえ量の少ない弁当の半分は
大吉の胃に納まった。
大吉は大吉で「食い足りん」と一言いって再び自分の席で寝てしまった。
それにしても…。
「…仲がいいんだな」
「え?大吉のこと?」
「…ああ」
「まぁね。一応、小学校からの腐れ縁だからね」
「…幼馴染か」
「そうなるわね。なるっちにはいないの?幼馴染」
「………」
「なるっち?」
「…いたけど、今は縁が無い」
「そう…」
逢瀬の言葉と同時に授業開始のチャイムが鳴った。
放課後。
待ってました!と言わんばかりに逢瀬が話し掛けてくる。
「ねぇ、もう放課後だしどっか遊びにいこ♪」
「そりゃ良かね〜!俺も同行するばい!」
両隣から誘いが来る。
帰ってもやること無いし、明日は休みだ。
断る理由もないだろう。
「…ああ」
そう言って3人で繁華街へ足を伸ばした。
チッチッチ…
秒針が規則的に時間を刻む。
現在の時刻、午前0:00。
(少し眠いな…)
もうちょっと起きてようかとも思ったが、
わざわざ生活のリズムを崩すことも無いだろう。
ベッドへ入り、目蓋を閉じてつい数時間前の事を振り返る。
放課後、3人で繁華街へ遊びに行った。
行き先はゲーセン。
3人でダンスゲームをやったが、初めてのオレはコツをつかむ前に
ゲームオーバーになってしまった。
もちろん大吉は論外。ゲームとは全く縁がないようだ。
それに比べ、逢瀬は慣れたようにステップを踏んでいた。
遊んでいる時間より見ている時間が多かったが、
それでもオレ的に楽しく過ごせたと思う。
(…誰でも取柄は有るもんだ)
ここに来て初めて友達が出来た様な気がする。
それに、楽しく過ごせたのは久しぶりだった。
(久しぶり…か)
不意に昔の事を思い出し、後悔の念が押し寄せてくる。
(…くっ!)
咄嗟にシーツをぎゅっと握り締める。
(何で、どうしてあの時…!)
すまないと心の中で謝り続けながら眠りについた。