身近な強敵達
7話目です。
・・・ではどうぞ。
三年になり、また今年も美晴と同じクラスになった。
結局三年間一緒だ。
小学校からの結構長い付き合いだけど、今日みたいな美晴は見た事が無い。
片肘をつき、前の時間の教科書を出しっぱなしのままでぼんやりしている。
「美晴、ボーっと何してるの?」
前の席に後ろ向きに座り、目の前で手をヒラヒラさせながら声をかけると。
「な、何っ!?」
肩を震わせて大袈裟に驚き、その弾みでペンケースが床に落ち、
その中身が派手に床に散らばった。
・・・美晴、カラーのボールペン多過ぎじゃない?
「ごめん、そんなに驚くと思ってなかったから・・・どしたの本当に?」
拾いながら謝り、尋ねてみたものの、
「い、いや何でもない、ごめん葵・・・気にしなくていいから。」
と、余計に気になる事を言って、拾い集め始めた。
先生の話は、まったく頭に入らない。
何故なら私の頭は別件でフル回転中だからだ。
昨夜、悪戯心で茜さんに芳彰の女性遍歴を聞いてみたら、
予想以上の見事な結果が返ってきて、正直ヘコんだ。
そりゃ四つ上だし、会ったのも最近だから過去の彼は知らない。
もちろんそういうものだと思っていた。
だから、軽い冗談のつもりで聞いてみたのだ。
面白い情報があれば、芳彰を動揺させられるかな・・・と、
しかし、三人のフルネームと、おおよその交際期間、
そしてその付き合いの注釈の書かれた文面は、
リアリティが有り過ぎて、経験地の低い今の私が受け止めるには少々、
・・・いや、かなり重い。
茜さんの性格を見誤った自分の誤算だ。
あの人はいつも味方であるとは限らない、今回でよく分かった。
それでも活用法を考えようと試みはした。
だが心理的ショックの方が大きく、今に至る。
・・・って言うか、何でそんなに弟の事詳しいんだ、あの人は!?
所詮は全て過去の事だ。別にどんな人なのかとか、何があったのかとか
気にする事じゃ無いと分かっている。
だが、本音を建て前で覆い隠そうとしてる・・・というのも分かっている。
私はこんな性格だったか!?
「美晴、ちょっと図書室ついてきて」
今日は学校の都合でお昼までだった。
私は帰り始めたクラスメートの中から美晴を捕まえた。
「何? 私早く帰りたいんだけど。」
その言葉を聞き流し、迷惑そうな美晴を引きずって図書室に向かった。
「今日何か変だから、お薦めの本教えてあげる!」
「別にいいよ、私は私が読みたい本を勝手に読むから。」
やっぱり迷惑そうな返事が返ってくる。
図書室の引き戸をくぐって、そのまま一直線に目的の棚に向かう。
あ、あったあった。ピンク地にグレーの薄い線で花の描かれたハードカバーの本。
「これこれ、是非読んでみて。」
美晴は、嫌そうな顔を隠そうともしない。
趣味じゃないのは知ってるけど、だからこそ読んでみて欲しい。
「ほらほら、これ借ります。3-Aの大垣でーす。」
美晴が了承していないのは、十分に分かった上で司書の先生に持っていく。
「ちょっと? 葵待ってって、私借りないってば。」
「まあまあ、誕生日プレゼントだと思ってさ。」
振り返ると、額を右手で押さえていた。
「それ学校の本だし。それに誕生日はとっくに過ぎた。」
「でも、当日は居なかったじゃない。
お昼に内緒で誘いに行ったら、誰かに連れて行かれたって、
和歌ちゃん言ってたけど?」
「確かに、出かけてたけど・・・」
そうもらして目を逸らした。
あら、何か疚しい事があるって事なのかな?
「じゃあ、その話をじっくり聞かせてもらうのと、どっちがいい?」
「・・・どっちも嫌だ。」
「どっちか選んで?」
「・・・本の方がマシだ。」
「はい、どうぞ。」
手続きの終わった本を美晴に手渡し、一言付け加える。
「私に無駄足踏ませたんだから、この本借りるくらいいいじゃない。
あ、感想もよろしくね。」
「・・・それ、やっぱりプレゼントじゃないよね?」
ポンコツ美晴。
ちなみにメールの内容(小ネタメモの1稿)
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こんにちは美晴です。
弱味を握りたいので、芳彰の女性遍歴を教えて下さい。
お願いします。
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お久しぶり美晴ちゃん♪
面白いから、早速返信するわね
中学の時同級生の松中千尋ちゃん(多分何も無い)
学校別れて自然消滅
高校1年の冬くらいに同級生の高畑三奈ちゃん、
たぶん振られて、3年の時1コ下の吉井遥香ちゃんに告白
されて、そのまま付き合って大学途中までは続いてたみた
いよ。どっちの娘かまでは知らないけど、高校の時童貞捨
ててるはずよ。
じゃ頑張ってね♪
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作中の
『おおよその交際期間、そしてその付き合いの注釈の書かれた文面』
とは合致しないんですが、出すとこも無いので・・・出しちゃえ♪