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それは些細なずれだった

6話目です。

・・・ではどうぞ。

理佐ちゃんと図書館で宿題をして、その後で鯛焼きを買って食べた。

そして帰り道、正面から歩いてくる男の人がものすごく気になった。

知らない人なんだけど、何かこう・・・引っかかる。

絶対どっかで見た事ある。

すれ違って気付いた。

おねぇちゃんの写真の人だ!

確か・・・『よしあき』さん?

ふわりと香る匂いに覚えがある。

夕方帰ってきた時のおねぇちゃんと同じ匂いがした。

その人は横断歩道を渡り、そのままコンビニに消えた。

信号は点滅を始め、やがて赤に変わった。

・・・んー出遅れちゃったし、この間にどうするか決めようかな。

話しかけてみるのも、おねぇちゃんをからかうのも、まだ材料が少ない

・・・と思う。

お母さんに言っても『今はまだ放っておいてあげましょう』って、

動いてくれない。

だったら、自分で調べてみるしかない・・・よね?

信号が青に変わると同時に、コンビニ目指してダッシュした。


その人は雑誌をパラパラと見た後、水とタブレットを買って店を出た。

私はダミーにグレープ味のグミを買って、もちろん後を追う。

結局行きに渡った横断歩道を戻り、うちのマンションに入って行った。

まさかおねぇちゃんに会いに!? と、期待を膨らませたのも束の間、

インターホンで普通に暗証番号を押し、開いたドアを通過する。

連絡をする素振りも無く階段に向かい上って行く。

いやいや、もう連絡済みとか携帯で連絡とか、まだ諦めてないぞ。

でも何で階段なのよ~!

内心悪態を吐きつつ。必死に階段を駆け上がる。

もう何でよ? あの人上がるの早過ぎじゃないの!?

へばってきた頃、通路に彼の姿があった。

急いで手すりの影に隠れ窺うと、ある部屋の鍵を開けて中に入って行った。

壁のプレートには『6』ドアまでの距離はうちと一緒・・・よね?

・・・うそ。

えーっちょっと、真下なの!?

驚きと疲労と脱力感でその場にへたり込み、ふと気付いた。

・・・真下?

先週の土曜にそんな人来なかったっけ?

理佐ちゃんが土手で寝てるおねぇちゃんを見つけたとか言ってたのもその日だし、

しかもその日は、おねぇちゃんの誕生日だ。

色々な疑惑が頭に浮かんでくる。

・・・これを突きつければ、うろたえるおねぇちゃんが見られるかもしれない。

私は疲労など忘れ、うきうきとした気分で、家に戻った。


「お・ね・ぇ・ちゃん?」

嬉々として目的の部屋のドアを開けると、

ベッドの上で携帯を取り落としそうになっている、真っ赤な顔をした姉がいた。

もう呆れるほど、十分にうろたえている。

「・・・何やってたの?」

少し気分がそがれた。

「何でもない。」

そう言いながら急いで携帯を仕舞う。

その姿は見るからに怪しい。

「そう? あ、さっきよしあきさん見かけたよ。すぐ下の部屋だったんだね。」

確証は無いけど、たぶん合ってると思うから。カマをかけてみた。

「は? 何で知ってんの?」

やっぱり当たりだ。目を大きく開けて驚いている。

その姿が見れただけでも、私は満足だ。

何でもできて、何でも知ってる。

いつも澄ましている姉を崩せるのは、この分野しかない。

「あーその反応は、おねぇちゃんにも春が来たって事かな~?」

「和歌奈うるさい!」

枕が飛んできた。

「ねぇ、先週の朝に来た人誰?」

「・・・説明が面倒だからパス。」

赤い不貞腐れた顔でそっぽを向いている。

まったく、私より三つ上だとは到底思えない。

「おねぇちゃん、彼氏ができたくらいでそんなに照れなくてもいいのに・・・」

姉は憮然として黙り込んでいる。

からかい過ぎたのかもしれない。

それにしても、こんな風になるとは思わなかった。

正直ガッカリした。

大きな溜息を一つ落とし

「おめでと。」

そう残して部屋から出た。



「ねーお母さん、おねぇちゃん上がった?」

和歌奈が部屋から出てきて聞いてきた。

「さぁ? いないからまだ入ってるんじゃない?」

リビングで仕事の書類に目を通していたから全く気にしていなかったが、

そういえば、入ってから随分時間が経っている。

「えー、まだ入ってんの~? 私も早く入りたいのに。」

そうプリプリと怒ってまた部屋に戻って行く。

美晴に直接『早く上がれ』と一言声をかければ済む事なのに・・・。

・・・しかしあの子が長風呂なんて珍しい。

いつもあっさり上がってくるのに。

少し心配になり、少し様子を見てみることにした。

「美晴、まだ上がらないの?」

扉越しに声をかけると、バシャバシャという水音と

慌てて裏返りかけた声が聞こえた。

「う、うんもう上がるよ!」

「美晴、大丈夫?」

扉を開けて確認してみると、赤い顔で湯船に浸かっている。

「のぼせた?」

「そうかも・・・」

と、引きつった笑顔を張り付かせていた。



台所でコップ一杯の冷たい水を一杯のどに流し込むと、

ほてった体に染み渡っていく。

一息吐いて目を閉じる。

・・・何をやってるんだ私は?

今日は携帯で色々ネットを漁って、お風呂では自分の体にドキドキして、

結局何も分からず終いで・・・いや、分かった事はある。

あれこれ考えたって無駄だという事だ。

このままじゃパンクする・・・。

芳彰は余裕なんだろうな。

こんなに悩んでいるのは私だけなのかと思うと、少し気に入らない。

その時、ふと面白い事を思いついた。

タチの悪いタイプの冗談だ。

口元に笑みを浮かべ、ある人にメールを送るために急いで部屋に戻った。

予想と違うと、あれ?って思います。

予想の上を行くと、楽しいのですが、

そうでなければガッカリします。

はじめはそんな事なんです。

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