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良くも悪くも昔の話

5話目です。

・・・ではどうぞ。

姉に持ってきてもらった本をダンボールから出しかけたものの、

置き場が無いので途中で止めた。

リビングのラックに入れておこうと思ったが、高さのある本が入らない。

辞書の類を並べ、ノートはとりあえず上に重ね、

どうも何かが気に入らない。

だからといって、いつまで居られるか分からない部屋に新たに買い足しても後で困る。

だから止めた。

過去の自分が書いたノートを読み返し、ルーズリーフにメモを取っていく。

全てを忘れたわけではないが、全てを覚えているわけでもない。

ブランクはかなり大きい。そう思った。


腹が減った。

時計を見ると三時近い。相当集中していたようだ。

美晴も来そうに無いし、コンビニで済まそうと思い下に降りると、

見覚えのある奴がエレベーターから出てきた。

「あ、芳彰か?」

向こうも気付いたらしく、数年ぶりに聞く声で名前を呼ばれた。

「浩介、ピザの宅配やってんの?」

そいつは赤と黒のユニホーム姿で保温のケースを抱えていた。

「そ、バイト。石窯ピザをヨロシク!」

保温ケースのロゴを突き出し、ニヤリとした。



新谷浩介。高校時代、同じバスケ部に所属していた。

初っ端から遠慮の無い失礼な事を面と向かって言ってきて喧嘩になり、

それ以降親友と呼べるような中になった。

・・・違う学校に進み、最近はご無沙汰だったが。

こいつは細かな配慮とは無縁だったが、裏も無い。

必ずしも良い事じゃ無いが、悪い事でもない。

上辺だけの調子のいいヤツや、遠巻きにして何か噂するヤツが多い中、

こいつは明らかに違った。

「お前、宮原医院の息子なんだろ? いいよな~金持ち。

 俺も一度は金持ちになってみたいよな~。」

嫌味を言われたと思ったのだが、こいつは本気だった。


「で、芳彰は何でここにいんの? 知り合いのとこ?」

「いや、ここの住人。」

「は? 何で?」

そうだよな、もっともな疑問だ。

「んー・・・いわゆる家出中ってやつだな。」

そう苦笑した。他に言いようが無い。

「面白そうだな、詳しく聞かせろ。俺これで上がりだからどっかで待ってろ。」

改めて番号を確認し、浩介は慌しく店に戻って行った。

昼飯はもう少し遅くなりそうだ。


男二人で長時間、飯が食えて、しかも日中という事になれば、向かう所は

ファミレスかバーガーショップくらいだろう。

後者の店で待ち合わせ、とりあえず量のありそうな物を頼み

半円のボックスシートを占拠した。

少し遅れて来た浩介は、コーヒーとパイを持って正面に座った。

「よく食うな、お前。」

「昼食ってないんだ、気が付いたら3時前だった。」

カサカサと鳴る2つ目のバーガーの包装を剥ぎ、噛り付く。

「何だそれ、お前、人が働いてる間寝てたのか?」

浩介は蓋を外したコーヒーに砂糖を流し込みながら、呆れた視線を向けてくる。

「違う、勉強してた。」

「ほー真面目だな、お前。」

俺から見れば働いているお前の方が遥かに真面目だと思う。

「いや、俺今休学しててな、復学の準備にノート眺めてた。」

「それで、時間忘れるってどんだけだよ? でも、休学って何かあったのか?」

コーヒーを混ぜる手を止め、身を乗り出す。

「人生に迷った。」

そう言うと大笑いしてくれた。

「・・・よくわからんが、それで家出なのか?」

「まーそんなところだ。」


「相変わらず贅沢なやつだな。」

自分の話をした後、浩介が最初に発した言葉はこうだった。

『あいかわらず』という事は、高校の頃からそう思われていたという事だろう。

「まぁ、勝手な事をしてると思うが・・・。」

「悩みまで贅沢だ。親に反抗するのは今のうちにやっときゃいいと思うけどさ、

 最終的に就職先の決まった所があるってのに・・・しかも医者って。

 で? そこから逃げて、これまたしっかり逃げ場があるってのが許せん。」

腕を組み、痛いほどの視線を向けられ一瞬怯むが、こちらにも言い分はある。

もちろん医師免許すらこれからの話なのだが、今そういう事は関係ないらしい。

「・・・お前、職業選択の自由って知ってるか?」

「言論の自由。」

即座に返される。しばらくお互いの出方を待つが向こうも引く気は無いらしい。

別に利害のある話をしているわけでもないと気付き、溜息と共に言葉を吐き出した。

「・・・まぁいいや、それはとりあえず解決済みだから。

 ただ、この家出は止めたくないな、と。」

「それは女を連れ込めるからか?」

浩介はいやらしい笑みを浮かべる。

「お前、それ実も蓋も無いな。」

「でもそうなんだろ?」

家に戻っても煩わしいというのもあるが、今の場所にいれば美晴が気軽に来てくれる。

きっとそれが一番大きい。

「・・・まあ、否定はしない。」

「高畑さんとか?」

懐かしい名前が出た。

「いつの話だ、そんなのとっくに振られてるよ。」

「そうだっけ?」

「そうだ。」

『宮原くん、別に私の事好きじゃないよね?』それが最後の言葉だったと思う。

「あぁっ、えーと、そういやその後1コ下の子と付き合ってたよな?」

「それはいつの間にか、切れた。」

大学入ってからしばらく経つと、お互い連絡を取らなくなった。

まぁいいか・・・と、そんな風にしか思ってなかった。

「お前も色々あるんだな。」

浩介は人の腕を叩きながら同情の目を向けてくる。

「ほっとけ。」

告白してきた子が、自分の好みから大きく外れていなかったからOKした。

だから、振られようが見捨てられようが、どっちでもよかった。

・・・全ては初めから間違っていたのだから。

今はそれが分かっている。できる事なら、当時の自分を叱ってやりたい。

「で、今は? それとも不特定多数か?」

「お前・・・俺の事をどういう目で見てるんだ?」

「贅沢なヤツ。」

何だよそれ、このところ他から見た自分とのギャップに驚かされっぱなしだ。

「彼女は一人だけ。他にはいないっつーか、いらん! 変な幻想を抱くな。」

それは昨日からで全てがこれからなのだが、こいつにそこまで言う気は無い。

「そんなにはまってんのか? 変わったなお前。」

「そうか?」

・・・そうだな、もし美晴に振られたら・・・考えたくも無い事だが。

自分がどうなってしまうのか想像もつかない。今までのようにいかないのは確実だ。

「あーっ、同情して損したーっ! 何でお前ばっかり・・・。」

悔しさを体まで使って表現されても、俺の責任ではない。

「誰も同情してくれなんて頼んでない。そういうお前は?」

「・・・聞いてくれるな、今の流れで分かんだろ?

 いたら日曜をバイトで埋めてねーよ。」

そう不貞腐れてテーブルに突っ伏した。


その後も久々に長々と話した後、

特に当ての無い「またな」という言葉で別れた。

前作は、、ほぼ美晴の語りだったので、

芳彰の事出てないんですよね、

タイトルが「不思議な人。」なので、

不思議じゃなきゃいけなかったってとこもあるんですが、

今回はそっちがいっぱい出ます。

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