件の良く出来た彼女
2話目です。
・・・ではどうぞ。
チャイムは鳴らず、いきなり玄関の扉が開いた。
「芳彰、来たよ~?」
そして足音が近付いてくる。現れたのは待ちわびた人物。
「美晴いらっしゃい」
ロゴ入りの黒いシャツに、ヴァイオレットのパーカーを引っ掛けたラフな格好だ。
「あ、本がいっぱい。」
目ざとく見つけた美晴は、持ってきた紙袋をテーブルに置き、
俺の隣に来て箱を覗き込んだ。
玄関からこっちに移動させ、中身の確認をしていた所だった。
何冊か手に取って眺めていたが、
「なんか表題すら理解できないんだけど?」
と、憮然とした顔でこっちを向いた。
負けず嫌いな彼女らしい反応に笑いそうになるが、ここで笑うと絶対に怒る。
・・・そして拗ねて帰りかねない。
腹に力を入れぐっと我慢して説明した。
「大学のテキストとか辞書とか一式。」
「へー、やる気になったんだ。」
未知への好奇心が刺激されたのか、パラパラと本を捲っている。
「さすがに復習しとかないとな。」
しばらく見ていたがすぐに諦めた。
「やっぱ意味不明。あ、お弁当そこ置いたよ。」
パタンと閉じた本を箱に戻して、テーブルを示した。
「ありがと、腹減ってたんだ。」
「今から食べる? ならお茶入れるよ?」
よく気が回るものだ。
「良くできた子だよな、本当。」
「は?」
「褒めてんの。ありがと、淹れて。」
「何か釈然としないな・・・あ、箸はい。」
本当に世話焼き体質だな・・・
ダイニングテーブルに弁当箱代わりのタッパーとお茶が並んだ。
「いただきます。」
箸を手にして合掌し、目の前の人物に感謝する。
「はいどーぞ。」
先ずは人参を摘んで口に入れた。
「あ、この煮物美味い。」
彼女は片肘を付いて、目を丸くしている。
「・・・本当に食べれるんだ、花見の時は食べなかったのに。」
最初は俺も意外だった。
最初に貰った弁当で、残すのも悪いので食べてみたら普通に食えた。
「美晴のは食えるの。」
「変なの、ただの食わず嫌いだろ?」
呆れた顔で言い、お茶を飲んでいる。
つられてお茶を口にし、驚いた。
「って味が違う!?」
普段自分で淹れているが、こんな味では無い。
「ふっ、本気で淹れてみた。」
してやったりの調子で続ける。
「いいお茶っぽかったから、ちゃんとお湯冷ましたり、蒸らしたりしたんだ。
そしたら私も飲みやすくなるしさ。」
何てヤツだ。
「猫舌以外、お前は無敵か?」
「うん、そうありたいと思う。」
当然だろうと言わんばかりに笑った。
遅めの昼食が終わると、当たり前のように美晴が片付けてくれている。
「まったく、お前はすごいよな。」
「何が?」
手は止めず、声だけが返ってくる。
「一緒に居て楽しいし、料理は上手い、お茶も見事で、今も片付けてくれてる。」
カウンターの向こうの彼女は、俺が何を言い出したのか一瞬考えていたようだが、
言葉通りに受け取ることにしたらしい。
「そうか? なら感謝してくれ。」
水音が止まり、ふざけた調子で言いながら濡れた手を拭う。
俺は立ち上がり美晴の側に行った。
「もちろん感謝してますよ。だから美晴に参りました。」
不意打ちで後ろから抱き締めた。
「えっあっえっ?」
パニックを起こしたか、右の手がさまよっている。
左は俺の手を遠慮がちに触っている。
・・・うわっ、可愛い。
今こうしていても振りほどいて逃げようとはしない。
だからたぶん大丈夫・・・だと思う。
あー、別に姉の言葉に触発されたわけじゃないぞ。
「俺はお前の事が好きなの、美晴知ってた?」
「あ、途中から性格変わったのはそういう事か!?」
勇気を出して打ち明けた次の言葉がそれか?
やっぱり一筋縄ではいかない。
「俺そんなに変わったか? それいつだ?」
まぁ、最初と態度は違うかもしれないが、それは仕方が無いだろう。
初対面であれだけはっきり邪魔だと言われ、
その後はしつこく声をかけられて、警戒しないわけが無い。
でもそれが面白いと思うようになったのだから不思議だ。
そして、たぶん初めて本気で好きになった。
「花見の時は別人だった。後、モデルに誘った時もちょっと変だった。」
美晴は変なスイッチが入ったおかげで、
いつの間にか両手で俺の腕を掴んでいる。・・・ホッとした。
「いや、花見の時は色々認めただけ、もう少し前から好きになってた。
モデルに誘った時は、面白いヤツだなって興味を持った頃かな?」
緊張を緩め、改めて抱き直すと美晴の体は更に力が入った。
しかし、それでもしっかりと聞き返してくる。
「・・・色々って?」
「自分の事とか、やるべき事、やりたい事。全部美晴のおかげ、ありがとう。」
素直に言葉にした。
誤魔化すと、さっきみたいに変にスイッチが入ってしまう。
次はどうなるか予想がつかない。もし逃げられでもしたら・・・それは嫌だ。
「はあ、それはどうも・・・えと、あのさ、ずっとこのまま?」
「うん、放したくない。俺の事嫌い?」
耳のそばで囁く。
「・・・ズルい質問するな。」
彼女は耳まで赤くなっている。
「まだ返事聞いてないぞ。」
「嫌いではない・・・」
「じゃあ、どう思ってくれてる?」
「・・・たぶん、好き・・・だと思う。」
重要な部分が消え入りそうになっている。
「歯切れが悪いな、いつもの美晴はこうじゃ無いだろ?」
「しょうがないだろ、こんな状況慣れてない。」
そこは、必要以上の声量で逆切れしそうな勢いだ。
少し苛め過ぎたようだ。
美晴はよく動く。
思うようにガンガン動きます・・・が、短気です。
次、芳彰はエロモードで(笑)