二番目三番目
19話目です。
・・・ではどうぞ。
お母さんもおねぇちゃんも、お父さんのお墓参りに行ってしまった。
おねぇちゃんと少し話がしたいからと、私は置いてけぼりだ。
まぁ、もともと遊ぶ約束があったから、別に構わないんだけどさ、
・・・だけど、本当はちょっとだけ寂しかったりする。
もちろんそんな事言わないけどね。
理佐ちゃん達と遊んできた後、うちのマンションの前でよしあきさんを見つけた。
「あのっ! よしあきさん・・・で、合ってます・・・よね?」
何故声をかけてしまったのか、自分でもはっきりした理由は分からないけど、
つい口から出てしまっていた。
でも、聞いてみたい事はたくさんあるから結果オーライかもしれない。
「えーと・・・ひょっとして、美晴の妹さん?」
困った顔をしながらも、私の事を当ててくれた。それが何故かとても嬉しいと感じた。
「はい、和歌奈って言います!」
まったく・・・妙な事になった。
「あのっ、聞いてみたい事があるので・・・その、少し時間いいですか?」
和歌奈ちゃんのその控えめな口調とは裏腹に、
腕を引っ張られてエレベーターに引きずり込まれた。
7階のボタンが点灯している。
「どこに連れて行く気・・・なのかな?」
聞かなくても想像つくが、一応聞いてみた。
「うちに来てください!」
・・・やっぱりそうか、腕を離す気はなさそうだ。
そして、そのまま玄関の前まで引っ張られた。
「・・・えーと、俺上げちゃっていいの?」
美晴に連れて来られるのならともかく、妹にとは思いもしなかった。
ただでさえ、俺にとっては敷居が高いのに、和歌奈ちゃんは気にした様子も無い。
強く出る事もできず、非常に困っていると、
「大丈夫ですよ、お母さんもおねぇちゃんも今いませんから、それにお母さんも
よしあきさんの事知ってますよ。」
絶句するような事をさらりと言ってくれた。
「・・・あぁそう、」
さすが姉妹・・・そして、その親か。
呆れながらそう考え、後はもう諦めるしかないと思った。
玄関左の扉を変に意識して上がると、真っ直ぐリビングに通された。
とりあえずソファに座って周りを観察した。
ほぼ同じ間取りなのだが、まったく違う室内にくすぐったい気分になる。
美晴はいつもこんな気分なのだろうか? いや、さすがにもう慣れているか・・・
和歌奈ちゃんは麦茶のグラスを二つテーブルに置くと、正面に座った。
「あの、どうして・・・妹だって分かったんですか?」
大胆な行動の割りに、おとなしい質問がきた。
「ん・・・やっぱり、似てるからかな?」
多少の差異はあれど顔の造りは似ている。ついでにこの行動もだが。
すると嬉しそうな顔をして、
「似てますか?」
そう、聞き返してきた。
美晴が妹との関係で弱っていたが、やっぱり嫌っているわけではなさそうだ。
素直な反応に、笑って頷くと赤くなって俯いた。
それから、結局何も喋らなくなってしまった。
聞きたい事があるからと連れ込まれたはずなんだが・・・。
和歌奈ちゃんは話を始める気配は無い。
埒が明かないのでこちらから振る事にした。
「和歌奈ちゃんは、お姉ちゃんの事好きかい?」
「嫌いじゃないけど、好き・・・とは、はっきり言いにくいというか・・・。」
急に顔を上げ、少し考えてそう言った。
「わかるな、それ。」
「そうなの?」
和歌奈ちゃんは意外そうな顔をした。
「うん、俺には兄と姉がいてさ・・・これがどっちも出来が良くてね、
比べられるのが嫌で・・・ちょっとしんどかった。」
ずっと自分が感じていた事をそのまま話した。
きっと似たような部分が有って、共感できる所が有ると思ったから。
「それなら分かります。おねぇちゃんはいつもすごくて、何でもできて、
私おねぇちゃんみたいになりたいって思ってたんだ・・・けど、その・・・最近は・・・」
そう言い澱んで、俺をチラリと見る。
「俺のせいかな?」
思わず笑ってしまった。
「あ、いえ、えーと。」
本当に正直な子だ。
「別に変わったわけじゃないと思うよ。」
「でも何か変ですよ? 楽しそうにしてて何か前より張り切ってるけど、
ちょっと違うっていうか・・・前よりしっかりしてないっていうか・・・」
違和感を明確な言葉にできず、イライラしている。
最近はずっとこの調子なのだろう。
「いいお姉ちゃんだと思うよ。」
言い澱む和歌奈ちゃんに、はっきりと言った。
「うちの姉はね、俺をおもちゃか何かだと思ってるみたいでさ、
未だに酷い目に合わされるんだ。和歌奈ちゃんはそんな事あるかい?」
和歌奈ちゃんは、首を横に振っている。
「美晴はすっごく大人でさ、どうやら俺の方が子供みたいでさ・・・。
本当にいつも助けられてばっかだ。」
よしあきさんはおねぇちゃんの事をよく見ている。
でもな、と彼はこう続けた。
強くて、頼りがいがあって、何でもできる。
そういう理想の自分を演じているのではないかと。
もちろんそれにはそれだけの努力がいる。
お母さんを助けるために、そして私を支えるために、
ずっと頑張ってくれているのだろう。
しかし負けず嫌いのおねぇちゃんにとっては、
それが逆にやる気を起こさせたのだろうとも言った。
私はおねぇちゃんが毎日ご飯を作ってくれる事も、
お弁当を用意してくれる事も当たり前のような気になってしまっていた。
他にも毎日いっぱい色々と迷惑をかけている。
それに気付いて、とても情けない気分になった。
そして一番驚いたのは、あのおねぇちゃんが泣いたという事だ。
大きくなってからはそんな姿は見た事が無い。
よしあきさんは、おねぇちゃんの事が好きだとはっきり言ってくれた。
あの性格を楽しいと笑ってだ。
出会いからして普通じゃなかった。
邪魔だと怒られ、会う度に絡まれ、それでもおねぇちゃんの強さに引かれたのだと言う。
おねぇちゃんの事を話しているよしあきさんは、とても優しい顔をする。
この人の前ではおねぇちゃんは泣けるんだな・・・。
私の知らないおねぇちゃんを、この人は知っている。
そう思うと少し悔しいけど、この人ならいいや、そう思った。
とりあえず、階段は拒否です。
この一件で、和歌奈の男を見る目が厳しくなります。
芳彰よりいい男でないと受け付けない!
・・・という裏設定。
和歌奈の話は考えてないくせに、こんな設定だけは細かくやってしまう。
最後の悔しいのは、両方に対する複雑な気持ち。
後書きで補足するようじゃ駄目だな(^^;