手加減無しの事実と優しい気持ち
18話目です。
・・・ではどうぞ。
ここの所、和歌奈と話をしていない・・・話しかけても答えてくれない。
向こうからは、必要最低限の言葉でしかコミュニケーションが取れない。
喧嘩したのはちょっと前で、翌日には謝ってくれたのに・・・
結局、あれからずっとギクシャクしている。
台所に出してあった今日のお弁当の包みの中に、
半分に千切られたルーズリーフが折り畳まれて入っていた。
『To 美晴さん お弁当おいしかったデス。 from 理佐』
と青いペンで真ん中に書かれ、その周りを色とりどりのハートや星で飾られていた。
・・・お弁当も食べてくれないのか?
これはかなりショックだった。
いや駄目だ、しっかりしろ美晴。とりあえず弁当箱を洗わなきゃな。
両手を握って大きく深呼吸をし、肩の力を抜いた。
美晴はうちに来るなりくっついてきた。こんな事は初めてだ。
別に嫌ではない。むしろ嬉しい事なのだが、
・・・これはしかし様子がおかしい。
「どうした?」
「何か、和歌奈に嫌われた。」
俺の背中に張り付いたまま、顔を見せない。
「わかな?」
「妹。」
ソファに移動して事情を聞くと、最近関係が上手くいっていないという事らしい。
いつも食ってかかってきてまともに話もできず、理由も分からず、解決もできず、
お姉ちゃんはまいっている・・・と、そう言う事だった。
「いつから?」
「・・・芳彰と付き合い始めてから。」
それは嫉妬されてんのかな?
苦笑いしつつ、握った手を撫でた。
「お姉ちゃんが大好きだからじゃねーの?」
「そうなの?」
釈然としない様子でもたれかかってくるので、頭を引き寄せて撫でてやった。
「俺にお姉ちゃんを取られたって、感じてんじゃないかな。」
「・・・私モテモテ?」
どうしてそういう発想になるんだか・・・。
「それは違わないか?」
「言ってみたかっただけ。」
まぁ、軽口叩けるようになったんならいいか。
撫でていた手で、髪をくしゃくしゃにしてやった。
「ねえ美晴今日付き合ってくれる?」
母さんがどことなく寂しそうな笑顔でそう言った。
家事が片付いたら、いつものように芳彰の所に行くつもりだったが、止めた。
そんな顔をされたら行くに行けない。
「いいけど、何?」
「お父さんの所。」
そう遠くないお寺の敷地内にある墓地に、父さんのお墓はある。
お寺の人が掃除してくれているというのもあるが、母さんがよく来ていて
きれいにしている。もうこれくらいしかできないから、とそう言って。
今日も、『まだ花はいいから』と持ってこなかったが、
確かに供えてある白や紅の小菊達は元気そうだ。
母さんは以前の線香の灰を片付け、ロウソクから新しい線香へと火を移している。
白く細い煙が束になって立ち上っては、空気に混ざり途中から見えなくなる。
母さんの背中にかける言葉は思い付かなかった。
ただ、記憶や人の思い出も、こんな風にどこかで薄れて消えていくのかなと、
ぼんやりと考えていた。
そんな感傷的で悲観的な事を考えてしまったのは、
ここがお寺で、しかもお墓の前だからかもしれない。
「ねえ、美晴は今お父さんの事どう思ってる?」
墓に向かって手を合わせたまま母さんが聞いてきた。
「急に難しい事聞くね?」
「うん、聞いてみたくなっちゃった、」
声はいつもの調子に聞こえる。
「そうだな・・・優しいお父さんかな。時々怖かったけど、後いつも母さんと仲良くて、
ずるいって思ってた。」
意外な事を言ったらしく、母さんは振り向いた。
「そう? それはどっちに対して?」
「んー、今思えば両方かな? 私も入れてって感じ?」
そっか、と母さんは立ち上がった。何かとても嬉しそうな顔をしている。
「私が一番じゃなきゃ嫌って思ってたのかな、でもいつも二番目くらいに感じてたから。」
「あら、家族に順番なんか無いわよ?」
「うん、今なら分かる気がする。もちろん父さんが別格って事もね。」
「別格かぁ、それは否定できないわね、」
ひとしきり笑ってこう続けた。
「じゃあ、美晴の別格の人はどう?」
・・・そうきたか、
「どうって、何答えればいいのかな? 質問の幅広過ぎない?」
付き合ってる人がいる事も、その相手も既に母さんにはバレている。
どうせ妹からの情報なのだろう。きっと隠したって無駄だ・・・。
「今楽しい?」
どんな質問が来るか身構えていただけに、いくらか拍子抜けしてしまった。
「あ、うん。とっても楽しい。」
「そう、じゃぁ彼のどこが好き?」
どこ? そんな事具体的に考えた事無かった。
そもそも初めから嫌いではなかった。
気になって仕方なかったのは、何やってたのか分からないのもあったけど、
そういう気持ちがあったからかもしれない。
そして、彼が自分が自分である事を認めて笑った時、ドキッとした。
完全に好きになったのは、きっとそこからだ。
「んーどこだろう? 一緒にいると楽しいし、
色々刺激になるし、安心する感じかな?」
そして、飽きない。
「そっか、なら良かった。」
母さんは嬉しそうに笑って、それ以上この事に触れてこなかった。
・・・文紘さんみたいな事心配してたのかな?
今度は逆に、弱った美晴。
そして母の決意部分。
芳彰の好きなとこで「外見」とか言うと大反対できるとこです。
・・・やりませんけど。