変化の部分と不変のもの
17話目です。
・・・ではどうぞ。
「ねぇ、何買ってきたの?」
店のテーブルに買ってきた物を広げて見せてもらった。
英語の本に、新刊の帯のついた文庫本、アロマのロウソク、
ヒツジを積み上げるパズル、黒いTシャツに、
エメラルドグリーンのショルダーバッグ。
そしてとても気になる赤いビニールの袋。
「その袋の中は見せてくれないよね?」
半分冗談で、白抜きで店のロゴが入った袋を指してみた。
「嫌です。」
即座に拒否する葵ちゃん。
「見たいですか? いいですよ。」
ノリのいい美晴ちゃん。
あの店なら、さぞかしかわいらしい下着が入っているんだろうな・・・。
「美晴、それは女の子としてどうかと思うよ?」
すかさず葵ちゃんが止めに入った。
「んー別に中身が無いんだから、どっちでもいいって思うんだけど、駄目?」
「駄目。」
美晴ちゃんらしいけど、美晴ちゃんらしくない。
あっさりOKする彼女に違和感がある。
赤くなって激しく動揺するか、交換条件を提示してくるか、
その辺りの返事を予想していた。
なるほど、少し免疫がつくとこんなに変わるのか。
「まぁ、一番最初に見るのは誰かさんに悪いから、二番目でいいや。」
こっそりとそう耳打ちすると、美晴ちゃんはかなり驚いたようで、
ちょっとこっちと、俺を引っ張って葵ちゃんから離れた。
葵ちゃんは不思議そうにこちらを窺っている。
余所見をしていると、襟首でも掴まれそうな勢いで詰め寄られた。
「・・・文紘さん、何を知ってるんですか?」
いいなぁ~、この反応。
「んー宮原くんが彼氏だって事くらいかな~?」
予想以上の反応に気を良くして、次の言葉を用意していると違う所に食いついてきた。
「くん? 気安い呼び方しますね?」
「あー、小中高と一緒だったよ。2個下だけど・・・そこ気にするんだ?」
「嘘!?」
美晴ちゃんは絶句した。
「嘘ついても仕方無いでしょ?」
事実だが、特別仲が良かったとかでは無い。
家も結構近い、だからまぁ、知っている・・・その程度だ。
そしてそれ以上に彼は有名だった。
結構大きな病院の息子だ。本人がどう思うかは知らないが、
どうやってもそういう目で見られる。
・・・何で美晴ちゃんが? 二人の会話に聞き耳を立てて、まずそう思った。
立場や家に惹かれるような子だとは、絶対に思えない。
「ねぇ、美晴ちゃん、ちょっと聞いてみたいんだけど?」
「・・・何ですか?」
赤い顔で口を尖らせる。
「前から宮原くんの事・・・家とか、そういうの知ってたの?」
「はい? そんなの知りませんよ、だって本名最近知ったんですよ?
下の名前は偶然聞いた事あるけど、ずっとペンネームで呼んでたんだから。」
は? 何だそれ?
「その話、詳しく聞きたいんだけど。」
まったく話が見えない。
「文紘さんこそ、何知ってるんですか?」
何を? ・・・あぁ、誤解があるんだな。
「情報ソースは、君のお母さんとじーちゃんが話してたのを
ちょっと聞いただけだから、僕は何も知らないよ。」
両手を挙げて潔白を示した。
「なっ・・・相手までバレてるのか?」
美晴ちゃんは何やら考え込み、そして顔を上げた。
「あーじゃぁ、話すだけ損じゃないですか。」
「えー、じゃあもう一つだけ。
宮原くんが・・・えっと、宮原の家じゃなかったとしても、彼がいい?」
「それ質問おかしいですよ?」
・・・俺もそう思う。
美晴ちゃんは、ひとしきり笑って続けた。
「でもまぁ、言いたい事は分かりました。
あそこで育って、今の彼があるわけだから、切り離せないとは思うんだけど、
だけど、家がどうとかは関係ないですよ、逆にあの病院は苦手だし。
でも、いつの間にか惚れてたんだから仕方ないじゃないですか。」
少し開き直り気味で腕組みをし、目を逸らした彼女を見て何だかホッとした。
やっぱり美晴ちゃんは美晴ちゃんだ。
だけど、ペンネームの話はやっぱり気になる。
面白そうだからいつか絶対聞き出そう。
午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、今日もお昼の休み時間になった。
「和歌ちゃん、和歌ちゃん、また今日も交換する?」
理佐ちゃんが持って来たイスに座り、目を輝かせている。
もうこの所ずっと私は理沙ちゃんのお弁当を食べている。
最初のうちは珍しかったものの、もう慣れてしまった。
やっぱり、お弁当はお弁当だ。
だから、なぜそこまで期待しているのか理由がさっぱり分からない。
「美晴さんのご飯好きって言ったじゃん。ね、いい?」
と、更に聞いてきた。
「ねぇ、理佐ちゃん。好きって何で?」
私にとってはただのお弁当で、夕飯の残り物がメインだ。
理佐ちゃんの反応はよく分からない。
「何でって、美味しいじゃん。いつもちゃんと作ってあるし、
うちの母さんなんか冷凍物ばっかだよ? 和歌ちゃんが羨ましい~。」
羨ましい?
私にとってはただのお弁当で、おねぇちゃんが作ってくれるのが当たり前で、
・・・私は何とも思って無くって、でも、毎日当たり前のように作ってくれて・・・。
お母さんは『美晴には美晴の生き方がある』って言っていた。
おねぇちゃんは、ちゃんと自分らしくしてきたのかな?
かなり個性的で変わった人だけど、最近また違う所が見えてきた。
どっちが本当のおねぇちゃんなのか、よく分かんない。
「ねぇ、和歌ちゃん、交換しよ~?」
「あぁ、うん。いいよ。」
寸前で書き換えたお話。
しっくりこなくて。
文紘さんのとこなんですが、もっとお気楽な会話だったんですが、違うな~と、
せっかくなので、今後の布石に利用です。