大人にならないと気付けない事もある
16話目です。
・・・ではどうぞ。
ピロロロロロロ・・・
携帯が鳴った。
目覚ましでは無く、通話の着信を知らせる音だ。
誰だよこんな朝っぱらから、誰からかも確認せず手探りで通話ボタンを押す。
「・・・はい、誰?」
眠い意識の中ようやく声を絞り出すと、
「おぅ、芳彰。今からそっち行くから出られる準備しとけ。」
「は?」
「じゃ、動きやすい格好しとけよ。」
切れた。
・・・父さん?
そう確かにそれは父の声だった。
今からって何だよ、そのまま携帯で時間を確認すると『7:32』と表示されている。
あぁもう、まだ眠いに決まってんじゃないか・・・
髪にドライヤーを当てていた時、チャイムが鳴った。
玄関の鍵を開けようと、2歩踏み出したところで扉が開いた。
そうだよな、母さんが入って来るんだ、父さんだってそうだよな・・・
「準備できたか?」
上がりこんだ父が廊下から顔を覗かせた。
「まだだ」
それだけ言って再びドライヤーを動かした。
まだ何か言っているようだが聞こえはしない。
支度が終わってリビングに行くと。
レモン色のポロの上に紺色のジャケットを着た父が、寛いでテレビを見ていた。
どこだか知らないが、ヨーロッパの町並みが映っている。
「どこに連れてく気だ?」
先日の母との一件が頭にあり、あれから何を話したのか?
そして今日父は、何の目的があって来たのか?
それがとても気になって落ち着かない。
父は何の未練も無くテレビを消すと、立ち上がって腰を伸ばした。
「まーそんな顔してないで付き合え、俺の憩いの場だ。」
ニッと笑って、さっさと玄関に向かって行った。
車で連れて行かれたのはボーリング場だった。
営業開始時間の8時きっかりに、正面の扉から中に入った。
休日の早朝からこんな場所に来るとは、思いもしなかった。
もっとも、平日も休日も今の俺の生活にはあまり関係がない。
父は馴染みの人物に会う度に、挨拶しては二言三言交わす。
その度に俺は所在ない気分を味わうことになり、
目的のレーンに着いた頃には、精神的な疲労でぐったりしていた。
「何を疲れた顔してんだ、これからだぞ?」
やたらと機嫌のいい父にバンバンと背中を叩かれた。
「父さんは、朝から元気だな?」
「何言ってんだ、これがあるから元気にしてられるんだ。」
真顔でそう言った後、持っていたカバンのファスナーを開けた。
青と白のてらてらと光る丸い物がチラリと覗く。
「ひょっとして、それ・・・マイボールにマイシューズってやつか?」
「当然だ。」
シルバーフレームの眼鏡を中指で押し上げながら鼻で笑い、
靴を取り出した。
最初のゲームは、完敗だった。
自販機で買った缶コーヒーを啜りながら、
「お前下手だな」
と、大いに笑われている。
仕方ないだろ? 久しぶりにやったんだし、おまけに寝不足で空腹だ。
最悪のコンディションとしか言いようが無いが、どうせ全部言い訳だ。
「父さんみたいに通いつめて無いからな。」
憮然としてそれだけ言った。
「ま、他に楽しい事があるならそれでいいじゃないか、俺の趣味はこれくらいだ。」
どこか含みのある物言いに引っ掛かる所があるが、とりあえずは聞き流した。
「ふーん。健康的でいいんじゃないか?」
本当にそう思った。酒や女遊びで発散すると大抵問題が起きる。
スポーツで解消できるなら健全でいい。
もっとも父は酒に弱いので前者の心配は無いと思うが。
「昔はみんなやってたもんだ。・・・最近になってまた始めるやつらが増えた。」
目を細めて、コーヒーを傾ける。
確かに。この場にいるのは父と同年代、
あるいはもう少し上の年代の人ばかりが目に付く。、
他にはプロを目指していそうな親子連れが、ハイペースで投げ込んでいるくらいだ。
遊びに来たような若いやつらの姿はまだ無い。
昔一緒にやっていた仲間が戻ってきて嬉しいのだろう。
・・・そう思っていたのだが、それは違ったらしい。
「ブランクは甘くないぞ、酒の席での借りが返せて、こんな楽しい事は無い。」
目だけ置いていかれた笑顔に、ゾッとした。
・・・父はこんな性格だったか?
自分の記憶を探るがどうも合致しない。
「どうかしたか?」
「あ、いや、何でもない。」
そういえば、これまで父とまともに話をした事があっただろうか?
それも記憶には無い。
『父さんは今日もお仕事よ。』母がいつもそう言っていた。
珍しく家にいる時は、姉が張り付いていた。
大きくなってからは、気にも留めなくなっていた。
どうせ忙しいんだろう。と、そう端から諦めていたのだろう。
結果、これほどボーリングにのめり込んでいる事や、
今日みたいに強引な誘い方をする事も知らなかった。
今まで見てきた父は一体何だったのだろう?
・・・いや、きっと何も見ていなかったのだ。
考え事に浸っていると、唐突に話が変わった。
「で? 高校生の彼女ってのはどんな子だ?」
やたらとニヤニヤして、からかう気満々の口調だ。
・・・そうか、姉さんのあの性格は父譲りだったのか。
妙に納得がいって力が抜けた。
・・・ちなみに、次のゲームも完敗だった。
私はボーリングとは縁が無い様で、未だにやった事がありません。
レーンには何度も行ってるんですけどね、
学生時代には、多いから他のとこ行こうか?という流れで、結局やらず
以降は妊娠中ばっかで、重い物駄目!って・・・
旦那と友人達のゲームを眺めておりました。
今は行く事すらなくなり、
Wiiリゾートでしかやった事がないです。
というわけで、今回は父親登場。
初メガネキャラ!(?)
・・・あれ?担任の岡崎先生もメガネ設定だったかも(文章に無いので意味がない)
大人になって親を観察すると、新しい発見が!?
という実話からの話。
ちなみに、前回の抱き枕も実話が元です。