踏み出した初めの一歩
14話目です。
・・・ではどうぞ。
「・・・しぁき、芳彰、いつまで寝てるの? 起きなさいって、ほーら。」
久しぶりに聞く声に起こされ・・・って、
「母さん? 何で!?」
驚いて飛び起き、慌てて布団を手繰り寄せた。
「何でって、親が子供の様子を見に来て何か悪いの?」
母は一向に気にした様子は無い。
「・・・勝手に入って来るなよ、鍵閉めてたろ?」
「勝手にここに住んでるのはあなたよ。鍵は持ってるんだから開けて入りますよ。」
・・・そうだよな、家主なんだから当然だよな。
「分かった。起きて着替えるから、とりあえず部屋から出てくれ・・・」
そう言って部屋から母を追い出すと、盛大な溜息がもれた。
簡単に身支度を済ませてリビングに向かう。跳ねた髪はとりあえず気にしない。
母は勝手にお茶を淹れて寛いでいた。
「芳彰も飲むでしょ?」
「あぁ」
その短い返事も待たず、既に急須からカップへ注いでいる。
空いているソファに勢いよく腰を下ろすと、スプリングの反発が眠い頭に響き、
一瞬後悔した。
ちらりとこちらを見た母が、すぐに口を開く。
「髪跳ねてるわよ?」
「・・・知ってる。」
不機嫌に答えるとしばらく沈黙が続いた。
それを破ったのは母だった。
俺からは話す事が無いのだから当然なのだが。
「芳彰? あなたいつもこんな時間まで寝てるの?」
母の言葉は痛い。
「たまたまだ。昨日は遅くまで勉強してたんだ。」
そこは嘘じゃない。
「そう、あなたは集中すると時間を忘れるから・・・ご飯はちゃんと食べてるの?」
「食ってる。」
毎食とはいかないが、美晴のおかげで随分マシになった。
「どうせお店のものばかりなんでしょ? そんなんじゃ体壊すわよ? 家に帰って・・・」
「嫌だ!」
途中で拒絶し、話を打ち切ろうとした。
「嫌って言っても、ここに居たって生活のリズムがおかしくなるだけでしょう?
食事だってそうだし、掃除や洗濯だって・・・」
無性にイライラする。
「そんなもの自分でできる」
「そんな事あなたがしなくたって、家にいれば母さんがやってあげるのに。」
「そうじゃない。」
昔から変わらない調子の母に心底腹が立った。
「母さんは俺の事、人形か何かだと思ってんのか?」
「芳彰?」
「俺は何もでき無いわけじゃ無い。小さい子供のままじゃないんだ! ましてや
兄貴の分身でもない、俺は俺だ!
いつもそうだ、俺の決めた事が自分の意見に合わないと、
話も聞かないで頭ごなしに否定する。
頑張ったっていつでもできて当たり前。もっと頑張れってどこまでだ?
・・・俺はどうすりゃいいんだ?」
「芳彰・・・。」
「俺は・・・俺はそういうのが嫌で家を出たんだ。」
一気にぶちまけてしまった。
勢いで口から出たが・・・母の顔は見られない。
顔を背けたまま、どうにもできなくなった。
心臓がドキドキする。
母は何も喋らない。
重苦しい時間がしばらく続き、ようやく母が口を開いた。
「わかった。」
溜息とともに紡がれたそれは、全てを受け入れたような言葉だった。
「とりあえず母さん帰るわ。」
立ち上がって拗ねたようにそう言い、こちらを見ないで玄関へと向かう。
ただ途中で立ち止まり、こう付け加えた。
「・・・もう、そういう事はもっと早く言ってよね。」
ガチャリと扉が閉まる音で緊張が一気に解け、ソファに寄りかかる。
・・・ついに言ってしまった。
体中から変な汗が吹き出てきそうだ。
カラカラになった喉に一口お茶を流し込むと、飲み慣れたいつもの味だった。
美晴の淹れてくれた方のが美味いな、ふとそんな事を思った。
おねぇちゃんは手際がいい。最近は帰って来るなり、すぐにご飯の準備を始める。
私はそれを洗濯物を畳みながら見ていた。
正直な所、前よりやる事が増えたんじゃないかって思う。
だけどおねぇちゃんは、前よりずっと楽しそうだ。
そのうち、色々と詰めたタッパーを手に、
「行ってきます。」
と出て行ってしまった。
そしていつも一時間くらい帰ってこない。
私の前には、まだ畳まれていない洗濯物が転がっている。
おねぇちゃんのあの力の源は、一体何なんだろう?
芳彰の母登場です。
最初は、あんまり性格考えてなかったんですが(オイ)
先の話書いててできました。
宮原医院の元看護婦さんで、婦長の千佳子さんと仲良しです。
父親の幸広さんが手を出した形で・・・(笑)
実は結構可愛い性格してるんです。
この後、あまりのショックにいじけて帰って、千佳子さんに愚痴ります。
見所は、寝起きに慌てて布団を手繰り寄せるとこ。
ここは絶対外せないシーン。
・・・そんな人の悪い私。