無意識に課されたもの
10話目です。
・・・ではどうぞ。
「葵おはよー、少し遅いぞ!」
マンションの下で美晴が手を振り叫ぶ。その彼女は横断歩道の向こうだ。
どしたの? 今日は何かテンションが違わない???
信号が変わり彼女の元に行くと、
「遅い!」
と、そう一言一喝された。
「美晴? 確かに少し遅れたかもしれないけど、少しよ少し!
聡太と少し話してただけだもん。それより今日何か違わない?」
「葵の薦めてくれた本のおかげかな?」
あー、読んでくれたんだ。
この晴れやかな顔は、確かに昨日とは全然違う。
「いい本でしょ?」
美晴もあの本のおかげでで元気になれたのねと、喜んだものの、
「さぁ? 数ページしか読んでないから知らない。」
完全に否定された。
「何よそれ? あの本読んで元気になったんじゃないの?」
私はそう思っていたのに。
少し迷ったり、元気が無くなった時にあの本を読むと、何か前向きになれる気がする。
私の取って置きの本なのに・・・。
彼女は黙って私を見た後、前を向いて口を開いた。
「怪我の功名ってヤツだね。」
「吉田先生が風邪でお休みのため、三時限目の数Ⅲ取ってる生徒は自習となります。
ちゃんとプリントあるからフケるなよ。あと、進路希望調査書の提出期限は
金曜日ですので、くれぐれも忘れないように。じゃ先生からは終わりな。」
担任の岡崎先生は言う事が終わると、窓辺に寄りかかった。
「何か言っとく事あるやついるか?」
特に行事も無いこの時期、連絡事項のある生徒は普通いない。
「じゃあ、朝のHR終わり。」
先生が教卓に戻ると日直が声を上げる。
「起立、姿勢、礼、着席。」
進路の紙はとっくに出した。葵はどうなんだろう?そういえば葵の将来の夢を
聞いた事がない。その手の話になると、いつも途中で切り上げる。
配られた日には、笑って誤魔化そうとしていた。
今日は聞いてみようと葵の席に向かうと、片肘をついて幸せそうな顔をしている。
・・・これは何も聞いてなさそうだ。
そういえば、今朝聡太くんと話をしてきたって言ってたな。
聡太くんと理佐ちゃんに恩があるし、そろそろ動いてみようか。
葵は私が近付いても気付かなかった。机の横から覗いてみても気付かない。
こんな状態は、絶好のチャンスだ。
「葵どしたのさっきからニヤニヤして、気持ち悪いよ?」
声をかけるとさすがに気付いたらしく、ハッとした様子で私を見上げた。
「何かいい事でもあった? 聡太くんにでも告白されたか?」
いきなり核心をつく質問を浴びせてみた。
「はぁっ???」
赤い顔でいい反応だ。よしよし、これで様子を見よう。
「まぁいいや、ところで進路・・・」
「良くないっ!!」
急に大きな声を出し、少しびっくりした。
「何で聡太の名前が出てくるの?」
予想以上の効果があったらしい。
しかしまだ自覚がない。
本人に気付いてもらわなければ、どうにもならない。
「あれ? 気付いてない?」
葵は一瞬固まり、何を考えているのか、
「・・・えーと、聡太に告られる事は、良い事なの?」
「あーらあら、天然さん? 葵、聡太くんの話してる時楽しそうじゃん」
客観的な意見を述べるが、未だ本人は疑問の顔だ。
仕方が無い、まずは危機感を持ってもらおう。
「その様子じゃ当然知らないだろうけど、彼の株上がってるよ~」
「へ?」
「入試の成績かなり良かったらしいし、見た目も可愛らしいしさ、
冷めてるっつーかちょっと大人びた雰囲気あるじゃん?
それで同級から年上まで、満遍なく狙ってる子いるらしいよ~」
だから私達の商売が成り立ったんだ。
まぁ、これで二人がくっついたらそれも終わりだけどさ。
「・・・誰が? 聡太が???」
やっと希望通りの反応が返ってきた。
見るからに動揺し、目と口を開け放して頭をフル回転させているようだ。
さてとトドメだ。
「幼馴染って安心してると、誰かに持ってかれちゃうよ~」
葵の顔から赤味が消えて行く。
正面を向いているが、どこも見ていない。
「で、本題なんだけどさ、進路どうすんの?」
当然返事は無い。よしよし、しっかり考えてくれ。
お昼の休憩に入った。ガヤガヤと賑やかになり、机やイスを引きずる音が響く。
とりあえずカバンからお弁当を出したものの、何となく開けて食べる気になれない。
お弁当から目を逸らし大きく息を吐き出した。
「和歌ちゃん食べないの?」
お弁当とイスを運んできた理佐ちゃんが覗き込んできた。
「んー、何か食べたくない。」
「どっか具合悪いの?」
おでこに手を当てて、心配そうに気遣ってくれる。
「大丈夫、そういうんじゃないんだ。」
あわててそう否定すると、突然真面目な顔になり、
「じゃぁ、ダイエットしてるとか?」
私太ってるとは思ってないよ? え?それとも太ってるのかな???
ごはんもおやつも美味しく食べてるけど、そうなの?
ショックを受けていると、理佐ちゃんがおかしそうに笑い出した。
やられた!?
「ち、違うの! おねぇちゃんの作ったお弁当が食べたくないだけっ!」
勢いで言ってしまった。
毎日おねぇちゃんがお弁当を準備してくれる。いや、お弁当だけじゃない。
ほとんど毎日のご飯も、その他の事だって何でもこなしてしまう。
今まで当然のように思っていたが、今はそれが癪に障る。
「あれ? 喧嘩でもしたの?」
理佐ちゃんは、自分のお弁当の包みを解きながら言った。
「別に・・・そういうんじゃないんだけどさ・・・」
自分でもよく分からない感情を持て余して言い澱むと、
「じゃ、私のと交換しようよ。私美晴さんのご飯好きなんだ。」
目の前にオレンジ色のお弁当が突き出された。
ここから「求める者。」の裏開始です。
美晴の口調が違ってて焦りました。
セリフは替えられないので、そのままですが、
なんとなくあったイメージのまんまのキャラなので、
行動には困らなかったのですが、全体的に時間が無くて困りました。
経験者の設定で書いてたもので・・・
「不思議な人。」の終わりから、「求める者。」の開始まで
一週間しか無くて、その間にくっつけるのか~と、
だから、美晴が短気な行動に・・・意外と違和感なかったんですが。