彼にとっての課題
最近シリーズ名つけました。
「Il donc vie... 」日本語で「そんな日々」って所です。
投げやり? これしか思いつかなくて、せめてフランス語に・・・
「不思議な人。」の続きで、「求める者。」とほぼ同時期です。
という事で、今回は全21話あります。
1話は間に合いませんでしたが、以降毎日午前10時更新です。
21日間よろしくお願いします。
「コーヒーもう1杯くれる?」
目の前に座る姉が、空になったマグカップを突き出す。
「はいはい、」
俺はそれを受け取り、台所のコーヒーメーカーに向かった。
「芳彰? あんた帰って来ないの?」
まるで世間話でもするように、そう切り出した。
絵描きになりたかった俺と、医者になれと言う母。
平行した意見のまま当然のように喧嘩して。
父の妥協案によって一年の猶予をもらった。
つまり、大学を休学し一年間は俺の好きなようにやる。
結果が出ればその道も良し、そうでなければ諦めて勉学に励め。と、
最初のうちは家に居た。
しかしそこでは、ちくちくと母の小言を聞かされ気の休まる時が無い。
それに嫌気がさして、丁度空いていた親の所有するマンションに住みついた。
そして、そこでただ色々と模索しながら絵を描いていた。
だから、絵に関して今の所結果は出ていない。
だが、そんな生活をしばらく続けていたが、途中で思い直す出来事があった。
だからもう別に、絵描きには固執していない。
その事に関しては、変な反発心も無い。
親と喧嘩してたのも馬鹿らしくなった。
昔は尊敬する父のようになりたかった・・・という事も思い出した。
だが、それがあるから
「・・・帰りたくはないな。」
サーバーを元の位置に戻し、姉の元に戻りマグカップを手渡した。
姉は一口啜ると・・・鼻で笑った。
「美晴ちゃんから離れたくないって事ね。」
図星を指され、思わず目を逸らす。
そう思えるようになったのは、すべて美晴のおかげだ。
美晴に引っ掻き回され、厳しい事も言われ、そして突然突き放された。
その時にはもう彼女に惚れていて、時間が経つ毎に慌てた。
どうすれば彼女の言う『言い男』になれるのか、
親にどう向かい合えばいいのか、あの時程考えた事は無い。
「まだ一年は過ぎてない。」
ソファに座り逃げの台詞を吐く。
分かってる、いつか言われると思っていた事だ。
だけどこの猶予期間は意地でもここに居座る気だ。
その後は・・・これから考える。
「そうね、9月の復学までにはちゃんと考えてね。」
俺の考えなど見透かしたように姉は言う。
「母さん結構心配してんのよ? あんたがいつまでも帰って来ないからさ、
まぁ、復学するって聞いて喜んではいるんだけどね。」
復学までは決めた。だが、もう二つ問題を残したままだ。
それをクリアしない事には『いい男』にはなれないのだろう。
ぴぴぴっ
いいタイミングでメールの着信音が鳴った。
遠慮無く携帯を開いて中身を確認する。
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From 大垣美晴
Sb (non title)
今日は弁当持って行くね
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「あ、やった。」
さっきまでの話はどこへやら、一気に顔が綻ぶ。
「嬉しそうね、どしたの?」
「美晴が弁当持って来てくれるって、」
ディスプレイに表示されているのは、だった一行。
だけど、それはとても楽しみな事を伝える文章だった。
「あ、上手くいってんだ。」
姉が興味津々に聞く。
「残念ながらこれから。」
でも、こうやってよく弁当を届けてくれる。
そして、そのままこの部屋に留まり色々な話をする。
脈が無いわけではないだろう。
姉はコーヒーを飲み干して、勝手な事を言った。
「そっか、じゃぁ頑張って絶対美晴ちゃんを私の妹にしてよ?」
「おいおい・・・」
そりゃ俺だって、そうなればいいなと思わなくも無い。
でもそれはまだずっと先の事で、学生の俺が簡単に考える事ではない。
向こうだってまだ高校生だ。
「だって美晴ちゃん気に入ったんだもん。」
「・・・オモチャじゃないぞ?」
「分かってるって~。」
絶対嘘だ。
「じゃ、邪魔者は退散するわね。」
そう言って妙にニヤニヤしながら立ち上がった。
まったくこの姉は・・・誰に似たのか、いい性格をしている。
玄関まで送って、そこに置いたままだったダンボールの箱が目に入った。
「あぁ、これありがと。」
箱をポンと叩き礼を言う。
その中身は大学の教材、勉強道具の一式だ。
改めて勉強し直すために、持ってきてもらった。
もちろん重いので、車までは取りに下りたが。
「じゃ頑張ってね。」
何をだ?
姉のあの目は、勉強を頑張れというものではないような気がする。
俺はただ、苦笑するしかなかった。
芳彰のクリアしてない事はいっぱいあります。
こいつは悩んでなかなか動きません。
(2011.07.14)
コーヒーどうやって淹れてたかなって、確認のためにテキスト見たら、今更ながらに誤字発見(^^;