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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

師匠と弟子とケジメ

作者: ケンゼン
掲載日:2026/09/07

とある師匠と弟子のお話でございます。

私には、弟子がいた。

阿含という、いかつい顔をした少年だった。

彼は私を師匠と慕うわりに、なんでもできた。

できてしまった。


あやかしをひとりで退治したのは、弟子入りからわずか一月ほどであった。

得物は木刀とわずかな呪符。それも攻撃ではなく、捕縛用のものである。


家事を一通りこなし、また飯が美味い。

半端な店には通えなくなるほどの美味さであった。


料理屋でも、商人でも、用心棒でも、あやかし殺しでも、とにかく何の世界に言っても、阿含は成功するように思えた。


それも生半な成功ではない。

歴史書に名を残すような、そのような類の成功だ。


阿含よ。


ある日、私は訊ねた。


お前さん、どうして弟子入りなんぞした。

お前さんほどの実力なら、最初っからひとりで立派にやっていけるだろう。


できますよ。


たっぷりと間を置いて、阿含は答えた。


なら、なぜ。


それはね、お師匠。


阿含が、にぃっと笑ってみせた。

これまで一度も見せたことがない、あやかしのような笑みだった。


当代随一の実力持ちのあんたを、腑抜けにして殺すためでさぁ。


言うなり、阿含の手が動く。

私もとっさに動かしたが、鈍い。


美味い飯の喰いすぎで肥え太り、あやかし退治は任せきりで勘が鈍っている。


阿含っ。


呪符が四肢に絡みつく。

即座にねじ切られ、どぅっ、と畳敷きにうつ伏せに倒れる。


背中を踏んづけられた。


阿含っ。


あんたに生きてられちゃあ、あやかしが平和に暮らせない。


阿含が私の背中を踏む。踏む。踏んづける。


くそ……鈍ったね。

お前さん、あやかしだったとは。


そうだよ、お師匠。

あんたが育てていたのは、あやかしだったのさ。


……育てた覚えはないよ。

お前さんは、勝手に育ったのさ。


そんなさみしいことを言わんでください。

俺はあんたに育てられた。親父だと思ってますよって。


私も息子同然だと思っていたがね。

まったく。やれやれどうして……。


私は、わずかに躊躇うあやかしの息子の息遣いを感じる。


おい、息子よ。

やるならとっととやるべきだった。

教えてやるのはもっと先だからね、お前さん知らなかったろう。


何を言っているんですか、お師匠。


術師ってのはね、安易に傷つけるもんじゃないのさ。

なにせ俗世ではなく、あやかし相手を生業にするいかれた連中さ。

自分の身体に呪符を何百と仕込むことも躊躇わない。


お師匠っ。


遅いよぉ、阿含。


阿含が私の首を落とす。

同時に、私の術は完成する。


日々、身体に埋め込み続けたいくつもの自爆する呪符。


いかれた術師の、いかれた呪法。

倒したあやかしの墓代わりに、自らの腹に呪符を埋め込む術。


首がごろりと落ちたから、私の背中を踏んづけたままの阿含が見えた。


焦り、恐怖し、飛び退こうとする。


ふっふ、甘いねぇ。

そういうところは、私譲りなのかねぇ。

だとしたら、嬉しいなぁ。


私の身体が吹っ飛ぶ。

その先はわからない。

阿含がどうなったのか。その先は──。


私には弟子がいた。

息子同然の弟子だった。


教えることがないようで、手のかかる未熟な弟子だ。


そうなれば、良いことも悪いこともぜーんぶ、師匠であり親代わりである私の責任。


けじめは、つけなくちゃあねぇ。


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― 新着の感想 ―
いい味わいでした……哀しいねぇ(ニチャア)  野暮いコト言いますと、伝記物は【文芸 歴史】が適当ではないかなぁ、と。
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