奇跡の出会い
「生きているのか?」
「ええ、取引を見られましたからこれから処分するつもりです」
「そうか、証拠は残すなよ…なんか焦げ臭いな。っぐ!貴様何を!」
「残念ですがここで消えてもらいます。今までありがとうございましたボス。今打ち込んだのは実弾じゃありません、しばらくの間動けなくなる薬です。火災をその男と一緒に楽しんでください」
「貴様ぁ!クソ!足が動かねぇ!貴様ぁ!逃げる方法を考えないと、おい!そこの男!起きろ!」
焦げ臭い…体が痛い…
「うぅ…助けてくれ…やめろ!来るなぁ!」
「人間じゃないか、よく見たらこんな姿なんだな」
「来るなって言ってるだろ!うわぁ!!」
俺の前で起こっている光景は何とも信じられないものだった。
巨大な蜘蛛が今にも黒い服の男に詰め寄っているのだ。
「うーん、1人ぐらいはいいよなぁ」
「やめろ!俺は動けないんだよ!来るなぁ!」
そしてついには目の前の男を食い始めたのだ。
俺はあまりの恐怖で後退する。
しかし、すぐ後ろには壁があり、出口は反対側…もう逃げれないのかも知れない。
「うわぁ!!こうなったら!!」
黒い服の男は自らの頭を拳銃で撃ち抜いた。
すざましい轟音と同時に、男の体は糸の切れた操り人形のように脱力した。
「……今のはなんだ?すごい音のするおもちゃだな?」
あの男を食べるのに飽きたのか、今度は拳銃で遊び始めた。
「おーい、そこの君これなんだ?」
巨大な蜘蛛が俺に向かって話しかけてきた。
「何なんだよお前!」
「俺か?名乗るような名前はないなぁ、君たちからよく呼ばれる名前はスパイダーかな?それよりここ暑いんだが何でかわかるか?」
「焦げ臭いってことは火事だよ!まずい!相当時間経ってるから!もう来る!」
「来るって何が?」
「火だよ!火!」
「ああ、あの熱くてかったるくなるやつか……ここから出るぞ」
「え?でもどうやって?」
「動くなよこうするんだ」
巨大な蜘蛛は窓ガラスを突き破り、落ちていった。
「そんなことできるわけないだろ!そもそもここは何階なんだ!」
俺は窓の外を見下ろす、ざっと10階ぐらいの高さだ…こんなところから落ちたら…
そんな事を考えていたら、ドコォン!と言う音が部屋中に響き渡った。
どうやら、部屋のドアが火によって焼け落ちたようだ。
「こうなったら、もう逃げ道は1つしかない!」
別に狂ったわけではない。
俺は一つの可能性を信じて窓から飛び降りたのだ。
ヒューという、風邪を切る轟音が鼓膜を痛いくらいに刺激する。
「はぁ俺は死ぬかもな……」
「誰が死ぬって?」
さっきまで、俺が怯えていた声が耳元で鼓膜を揺らす。
「へ?俺生きてるの?」
「生きてるもなにも自分の体を見てみればいいさ」
俺は、自分の手を見る。
しかしうまいように、体を動かせなかった。
「俺の巣に助けられたな?……ここは人が集ってくるだろう、他の場所に行くぞ」
…………
「ここならいいだろう」
俺はこのデカイ蜘蛛についていき、ついたところは人通りの少ない一方通行の裏路地だった。
蜘蛛は、ゴミ箱の裏に隠れながら俺に話しかけた。
「さて、大変だったな?」
「お前は全然大変そうじゃなかったけどな」
蜘蛛は何だか楽しそうに、辺りを見回す。
「うーん…やっぱり、お前じゃしっくりこないな…」
「え?どういうこと?」
「だからさぁ、せっかくこの地球にやってきたんだから。ここで活動する名前ぐらい欲しいわけよ?」
蜘蛛は、険しい顔をしながら早口で話し始めた。
「そうだな…今、お前の脳に俺は記憶されただろ?じゃあ俺はRAMスパイダーだな」
「LOVEスパイダー?脈略関係ないな?」
「まあ、いい名前だろう?」
人を食う奴がそんな名前にするのか?
「なかなか、愛らしい名前だな」
「そうか?人間の感性はよくわからんな」
よく分からないのは、お前だよ。
「そういえば、俺は食わないのか?」
「さっき食ったが、あまり美味くなかったんでな。親友から人肉食をお勧めされたんだが…やはり、他のやつに聞いた方が良かったか」
「その話はもういい…俺はもう帰る。」
ポケットから、スマホを取り出し現在位置を確認する。
俺がいる場所は、三軒茶屋の裏路地らしい。
良かった、すぐそこが俺の住んでるアパートだ。
「お前はもういくのか?」
「俺の家が近くなんだ、あとは警察に任せておくよ」
「そうかじゃあな」
俺は、平然と何もなかったのように路地裏から抜け出してアパートに戻った。
その途中、何でこうなったのか思い出そうとするが何も思い出せなかった。
「もう今日は疲れたな」
俺は、吸い込まれていくようにベットに倒れ込む。
………ピンポーン。
誰か来たのだろうか?
どれくらい経ったのだろう、俺はおぼつかない足付きで玄関に向かいドアスコープを覗く。
しかし、ドアの前には誰も立っていなかった。
ピンポンダッシュってやつか?
俺は一応そのままいろんな方向を探してみる。
そして俺が下を見た時絶句してしまった。
何とあの蜘蛛がいたのだ。
なんだ?俺はまだ夢の中にでもいるのか?
………ピンポーン。
駄目だ、音がリアルすぎる…これは夢じゃない。
「おーい、いるんだろ?…開けろよ。なんか変な奴らに追われてんだ」
駄目だ、出てはいけない。
本能的に、そう感じて手が動かなかった。
「おーい?おーい」
………ピンポーン。
「Daisy…Daisy… give me your answer do…」
目の前の蜘蛛は突然デイジーベルのワンフレーズを歌い始めた。
その声は機械音のようで、とてつもなく不気味だった。
「I'm half crazy…all for the love of you…It won't be a stylish marriage……I can't afford a carriage…But you'll look sweet up on the seat of a bicycle built for two……ん?俺何してるんだっけ?ああ、あいつに用があるんだった…とりあえず、ドアでもぶち壊すか…」
その言葉を聞いた瞬間、俺は勢いよくドアを引き蜘蛛と対面した。
「なんだ居るじゃねーか」
…………。
「何で、俺の家知ってんだよ」
「ん?一応、初めて会った人間だったからな、住処くらい知っといていいと思ってな、にしても部屋綺麗だな…天井の隅に巣張っていいか?」
「駄目に決まってるだろ」
俺は、軽蔑の眼差しを向けていると、蜘蛛は何も気にせずにベランダから外を見た。
「何に追われてるんだよ?」
「なんか動きづらそうな、制服着た奴らだよ」
なるほど、警察のことか。
そんな姿なら、当たり前だろう。
「ただ、普通の蜘蛛じゃないか」
「どこがだよ、そんなデカい蜘蛛はこの地球には存在しない」
「そうなのか?」
「そもそも、お前は一体どこから来たんだよ?」
「俺か?俺は、火星に住んでいる蜘蛛さ」
「火星に?何でそんな奴がここにいるんだよ。それに何でこの国の言語喋れるんだよ?」
「ああ、まずそこからか…昔話でも聞かせてやるか」
………
「俺は、いつものように火星を親友と一緒に散歩していたんだ。そしたら、空からいきなり飛行物体が飛んできたのさ。俺たちは興味本位で近づいてみた、そしたら中からお前たちみたいな人が出てきてな。俺らを見た時の顔今でも覚えてるぜ、最高に怯えていたよ。何で怯えているのかその時俺たちは分からなかったな、そんで、だんだんその人間は俺たちが無害だと思ったのか親友を最初に飛行物体の中に連れて行ったのさ。数日後相棒は飛行船から出てきて人間と言うものをいろいろと教えてくれた。数日かかったのは、言語の理解に時間がかかったらしいな」
「よく数日で、うちの言語習得できたな?」
「まあな、俺らの頭にはメモリが入っていてな。人間の言語データをまるまる、掻っ攫ったのさ、そしたらこの通り日本語だろうが英語だろうがペラペラってわけだ。それで、あの人間ども他の火星生物に殺されちまってな…」
「死んだ!?」
「ああ、だからせめて、星の地に埋葬してやろうと思って飛行物体を操作して、ここに来たのさ。そこからが波乱の地球旅行の始まりだったわけだ。地球に来た時早速お出迎えがあったよ、激しい銃撃のな。そこで、俺の親友はやられた、人間にな」
それの恨み晴らしに食ったのか?
「それで、今逃げてきて偶然お前を見つけたんだよ、倒れてるお前をな」
俺は、あそこで何をしていたんだっけ?
何であんなところに…
「いつからあそこにいたんだ?」
「なんか、白髪の変なやつが外に出てからかな。その時にはまだお前は動いてなかったな」
「LOVE、こっからどうすんの?」
「俺か?とりあえず事態が落ち着くまで身を隠すとするかな。とりあえず俺の目的は達したから火星に帰るよ」
「それまでのことを聞いてるんだよ」
LOVEはしばらく考えてから、前足を畳んだ。
「それまでは、ここにいさせてくれ」
「……俺を食うなよ?」
「だから、美味く無いから食わないって」
仕方ない、ここで断ってもこいつなら俺を殺してまでここに居座り続けるだろう。
「そういえば、お前名前は?」
「酒鬼茜」
「茜?なんか、オスらしい名前じゃないな」
「人間の場合はオスメスじゃなくて、大半の場合は女・男だ。あと俺は女だ」
それを言われた瞬間、目の前の蜘蛛は赤い目を俺の体をじっくりと見る。
「……何で男装してんだ?」
「何でって……あれ?何でだ?」
必死に思い出そうとするが、何であそこにいたのか。
その前に何をしていたのか、一切わからなかった。
「なんか変なやつだな」
LOVEはそう言いながら、俺のクローゼットを開ける。
「…?普通の女の服しか入ってないな」
「そりゃそうだろ、ちなみにLOVEの性別は?」
「見たらわかるだろ、俺は女だ」
見てもわかんねえよ…
こうして、俺と異常にでかい蜘蛛の生活が始まった。




