何が起きているんだ?
配信を辞めたことで、半年前と同じようにただ保険用の動画を撮影しながらダンジョンに潜るだけの生活に戻った。
いちいち配信画面のことを気にしなくてよくなったのはすごく楽ではあるが、少し物足りなさも感じている。
「半年続けていた習慣だったからなぁ」
ちょっとした喪失感にむしばまれながら自室に帰還する。
ドラゴニクスから取った魔石はまあまあの値段で買い取ってもらうことが出来た。
毎回のことであるが、魔石の持ち主だったモンスターの素材も買い取りしたいと言われたが断った。あれは俺の食料や趣味に使うために持って来ているのだ。
1体でも相当な肉の量になるのはそうなのだが、ダンジョンに潜るようになってから食事量が爆発的に増えているのだ。自身の体積以上に食べられることに疑問を抱きはするが、同じような症状を持っている探索者も多くいるため深くは考えていない。
おそらく食べた物は体の維持だけでなく、魔力の生成やスキルを発動させるためのエネルギーに変わっているのだろう。
元はそんな機能を持っていない人間だが、ダンジョンが発生したことで適応したということだと考えている。
「そういえば、配信チャンネルをどうするか考えてなかったな」
そのまま放置でもよくはあるのだが、もう触ることもないとすればチャンネルごとアカウントを削除してしまっても問題はない。むしろダラダラと未練を感じるくらいなら、チャンネルだけではなくアカウントごときっぱり消してしまった方がいいのかもしれない。
「これは消した方がいいかもしれないな」
配信者に戻りたいという感覚はもうないが、なくしてしまった方が踏ん切りも付きやすいだろう。
消さなければちょいちょいこのことを思い出すかもしれないからな。
スマホを操作しこれまでと同じように配信用動画サイトにログインする。
ここ一週間一切触れてこなかったが、半年続けた癖はまだ抜けていないようでさっくり自分の配信用アカウントのページに入ることが出来た。
「もうこのサムネやヘッダーの画像ともお別れか」
寂しい気持ちもあるが、使っていた画像は別で保存しているのでなくなったりはしない。さすがに低予算で依頼した物とは言え、お金を出して購入した物だ。これまで消すつもりはない。
「あん?」
そろそろ消すかとアカウントの設定ボタンを押そうとした際、ある部分が目に飛び込んできた。
チャンネル登録者数:168,725
見間違いかと思い、一度目元のマッサージをしてから再度確認する。
「どういうことだこれ」
本当に何がどうしてこのような数が表示されているのか。
何をしたわけでもない。他の人のチャンネルに間違えてログインしてしまったのかと焦るが、どう見ても俺が作ったチャンネルである。
何が起きているのか。表示ミスという線も捨てきれないが、このようなバグがあったという話を聞いたことはない。
元の登録者は3桁もいっていなかったはずだ。異常なまでに登録者が増えた理由がわからない。
ただ、アーカイブを確認してみれば全体的にPVが増えていることが分かる。とはいえ、それでも数百PV程度ではあるが。しかし、その中でも最後の配信したアーカイブだけ50万PV以上を表示しており、異質を放っていた。
「なんでこれだけ無茶苦茶PV回っているんだ?」
配信終了する旨をタイトルに書いておいたので、他に比べればPVが多くなるかもな、とは思っていた。しかし、ここまで行くとは一切想定していなかったため、驚きよりも今は恐怖が勝っている状態だ。
「理由がわからねぇ」
さすがにここまでくればご祝儀視聴なわけがない。PVだけならBOT攻撃を受けた可能性もあるが、登録者も異常なほど増えていることを考えればその線は薄そうだ。
一度、最後の配信アーカイブにある感想欄を確認してみるが、[配信再開希望][嘘つき野郎][どうやって編集したんですか?][素材ください][エアプ乙]みたいな感想で溢れかえっていた。
とくに配信を再開してほしいという感想が多いように感じたが、そもそもどうして登録者数が増えたのかが分かるような感想は見つけることが出来なかった。
「いや、でもここまで感想が来るってことは、一度配信してみれば何かしらわかるかもしれないな」
もう配信するつもりはないが、さすがにこれだけの登録者がいる状態では確認無くこのチャンネルを消すこともできない。
「ここまでいれば今から配信しても多少は集まるだろうな。そこで理由を聞けばいいだろう」
視聴者が0でなければ問題はない。さすがに昼間にいきなり配信しても見に来る奴は少ないだろうが、ここまでいれば0ってことはさすがにないだろうしな。
若干誰かの嫌がらせで実際はほとんどいなくて配信を始めたら誰も来ないとか…………、さすがにないか。いくら何でも嫌がらせでここまで数を増やす馬鹿は居ないだろうし。
若干の不安を抱きながらも、このまま1人で考えていてもらちが明かないため、さっそく配信を開始する準備を始めた。
配信通知を出すためにSNSを見てみればこちらもフォロワーの数が異常なほどに増えていた。
本当に何があったのかわからないが、困惑したことを書き込んでから配信する旨を書いた投稿をし、そのまま配信を開始した。




