その先で
ダンジョンの中に空はない。
それは当然のことで、当たり前のことだ。
そもそもダンジョンは何処に存在しているのかという部分もかなり曖昧で、ある種の異世界のような場所である。
あれだけ広大な空間が地下にあるというのはおかしいのだ。誰が掘ったわけでもなく突然現れた空間であり、さらに入り口以外からは侵入できない不思議な空間である。
過去にダンジョンの近くに深い穴を掘り、侵入できるのかという実験が行われたが、侵入できなかったどころか、地中にダンジョンがあるという形跡すら発見できなかったのだ。
そこに存在していて、同時にそこに存在していない。それがダンジョンという存在である。
さて、ここで最初に戻るが、ダンジョンの中には空は存在していない。それっぽい見た目の階層は存在しているが、それもあくまで空のように見える天井である。
空とは天であり、宇宙までつながり限界のないものである。
ダンジョンの中には必ず天井が存在し、宇宙に繋がることはない。あのドラグーンたちと戦った階層であっても天井は存在している。
しかし、今いる空間……そう断言していいのかわからないが、少なくとも今見えている空に天井らしきものは確認できない。
「どうなっている?」
あまり状況が理解できていない中、考えたところで答えが出るわけでもないのだが、いつもの癖で深く考え込んでしまう。
[マジでどこなのここ]
[俺らも知りたい]
[何かスゲーことが起きた感はあるけど、状況が分からなすぎる]
[空がってみんな言ってるけど、何かあんの?]
[コメントみろー]
[このコメントあいつ側でも見れんのか?]
スマホを確認すれば、転移する前と変わらず配信上のチャット欄に大量のコメントが爆速で流れているのが見えた。
コメントの内容を確認する限り、ドローンのカメラは正常に動き動画配信サイトまで映像を届けられているようだ。
そうなると、この場所はダンジョンの一部である可能性が高い。
少なくともドローンやスマホの通信が正常に行われている以上、ここがダンジョンに繋がっている空間だという証明になるのだから。
「空を見ても雲以外何も見えないのが問題なんだよ。普通ダンジョンの階層は全て天井が存在しているから、それが見えないってことはここがダンジョンの中ではないかもしれないという話だな」
およそある程度の状況を理解している視聴者が多そうだが、そうでない視聴者もいたようなので軽く説明をした。
[コメント見れているな]
[通信できるってことはダンジョンの中なのかね]
[何とも言えないな]
[空がどうなっているのかが気がりである]
[ダンジョンの中であれば天井が存在するわけだけど、それらしき物は一切見えないんだよね]
正直、このまま帰れなかったところで死ぬようなことはないと思うが、帰れなかった場合、面倒なことになるのは間違いないので、調査する前に帰れるのかの確認は済ませておくべきだろう。
「とりあえず、チャットの反応からしてお前らが映像を見れているようだから、ここがダンジョンに繋がっているのは間違いなさそうだ。あれこれ確認したいことも多いが、まずはここから戻れるのか、その確認をしないとな」
まずは手っ取り早く、スマホの通信で使用している魔力波を辿り、それが何処に繋がっているかの確認をする。
[帰れないと駄目だよなぁ]
[別にこいつ1人でも生きていけそうだけど?]
[余程のことがないと死なんでしょこいつ]
[普通の人なら絶望的な状況なのに、こいつの場合何とかなるやろって思えるんだよなぁ]
[今日こいつのこと知ったばかりだけど、その意見には同意できる]
割と辛辣なコメントが流れてきているが、先ほど俺も同じことを考えていたので否定することが出来ない。
どうコメントを返すか悩みながら魔力波を辿っていけば、その先が何処に繋がっているのかはすぐに判明した。
「ここか?」
背後にあった森林の少し手前、そこには石碑のようなものがあり、その石碑の中心あたりにスマホから出される魔力波が繋がっているのが見えた。
[石碑?]
[墓かなぁ]
[それっぽい何か]
[これがどうしたんよ]
[何だろこれ]
あっさり見つかったが、転移されてからほとんど動いていないのだから、その起点となる場所の近くに居るのはおかしいことではない。
「身に着けていない物も転移していて通信可能。そうなると転移トラップではなく、ここに飛ばされたのは正常な挙動ってことになりそうだな」
おそらくこの石碑に触れれば元の場所へ戻ることが出来るだろうな。ただ、戻れたとしてまたこの場所に来られるのかはわからない。
「一回空の確認だけしておくか」
またここに来れる確証がないため、一番気になっている空の確認をすることにした。
地面にころがっていた拳より少し小さい石を拾い上げ、それを自分の上、上空へ向かって全力で投げた。
[何するん?]
[なんで石]
[え?]
[上に投げたぁあ!?]
[天井の確認かな。にしてはデカめの石だったが]
全力で投げた石を目で追う。一気に砂粒以下のサイズになって行ったが、投げた石が何かに当たったような動きは見えなかった。
今の俺があのサイズの石を身体強化して全力で垂直方向に投げた場合、最低でも500メートルは飛ぶはずなので、当たった様子がないということはその高さまで天井は存在していないということになる。
「本当に天井はあるのか?」
ここの二つ前の階層、ドラグーンの居た階層でも天井は200メートルほどの高さだった。それに比べても相当高い位置に天井があるのかもしれない。
[あの、投げた瞬間から見えなかったんですが]
[腕振ったときの音がエグかったが、大丈夫なのか?]
[どんだけ飛んだんだろう]
[あの石、空気抵抗とかで消し飛んでいたりしてない?]
「さすがに消し飛んではいないと思うぞ。ただ、断熱圧縮で高温になっている可能性はあるし落下した後どうなるかはわからないが」
天井の高さを確認することが出来なかったが、一旦この石碑に触れてどうなるかの確認をしておこう。
「これが正解なら楽でいいんだが」
そう言いながら石碑に触れる。その瞬間、先ほどと同じように視界が暗転し、転移している感覚を全身に受ける。そして数瞬の後、暗転していた視界が変わり、目を開けて入ってきた光景を見てダンジョンコアがある空間へ戻って来られたことを理解した。
「戻ってこられたな」
別の場所へ送られる可能性もあったため、何事もなくここへ戻ってこられたことに安堵する。
[いきなり暗転するの心臓に悪いねん]
[やるなら一言注意してからやってくれよ]
[戻れたのよかった]
[何だつまらん]
[戻れるのか]
「こうやって戻ってくることが出来るなら、問題なく次の階層の調査することが出来るな」
調査用の道具の中にはその場で作るのが難しい物も多い。可能なら拠点と調査する階層を行き来できた方がいいので、戻ってこられるというのはかなり大きい。
[待ってダンジョンコア無い!?]
[マジじゃん!?!?]
[これまずいのでは]
[逃げろ逃げろ!]
すでに一度同じ体験をしているので俺は大丈夫なことを理解しているから焦ることはないが、それを知らない視聴者たちはダンジョンコアが台座の上からなくなっていることに気づいたことで、チャット欄に流れるコメントのほとんどが焦りを見せていた。
「まあ、次の場所に移動したんだろう。前の時も気づいたら無くなっていたしな」
ダンジョンコアが無くなっていることに気づいた視聴者たちがざわめいているが、俺はそう言ってからもう一度、奥の壁に触れて次の階層へ転移した。
先ほどと同じように視点が暗転し転移の感覚を受けながら、次の階層へ移動することが出来た。
「よし問題ないな」
すぐ周囲を見渡し、しっかり先ほどと同じ場所に転移してきたことを確認した。
[おおー]
[マジでここどこなんだろうな]
[ランダム転移じゃないってことは正規ルートなんだろうなこれ]
[これ本当に世紀の大発見だろ]
[コアの先はないという固定概念をぶっ壊した男]
行き来が可能なのがわかったからこれからはこの空間の調査を進めていくことになりそうだな。まあ、ギルドというか国がどういう判断をして他のダンジョンで調査を進めるかはわからないがね。
「早速調査を、と言いたいところだが時間的にも調査用の道具的にも一度戻ってから再開するのがいいだろうな」
今回の配信を始めてすでに10時間近く経過している。それに今回はあくまでダンジョンコアがある部屋の調査をするために来ていたので、フィールド調査用の道具はあまり持って来ていない。準備不足で調査するのは良くないため、ここは一度戻って次回調査をすることにした方がいいだろう。
[ええー]
[まあ、もう相当時間過ぎてるからな]
[気づいたら10時間近いという]
[調査する時もちゃんと配信しろよ]
「いやしないが?」
今回が最後と言った以上、次の配信はない。一度言った以上それを覆す気はない。
「ただまあ、他の奴が配信する分にはいいんじゃないか。おそらく俺以外も調査に入るだろうし。そんなわけでこの配信を見に来てくれてありがとうな。それじゃあな」
配信しろと叫ぶ沢山のコメントを無視しながら、そう言って俺は配信終了ボタンを押し配信を終了した。
次話は掲示板回になります。
また、こちらでの更新は次話で最後となります。
最後までお付き合いしていただけたら幸いです。




