捜索前の腹ごしらえ
ドラグーンと戦ったことでだいぶ腹が減ってきていため、淡々と調理器具を取り出していく。
折り畳みのテーブルを出し、バーベキュー用のコンロを設置する。
[いや待ってなんでいきなり]
[準備良くて草]
[それダンジョンの中で使うものじゃないでしょ]
[というかこの場で食べるのかよ]
[できれば何も干渉しないところでしてほしい。マジで怖い]
[というか、どこのダンジョンで潜っているか教えてくれ。何かあったときのためにギルドに連絡しておくから]
今の俺がしていることに対してツッコミを入れるコメントと、未だにダンジョンコアのことを気にして騒いでいるコメントをしり目にコンロの中に燃料をセットし、問題なく稼働するのかを確認していく。
「よし、これでいいな」
[よしじゃないんだわ]
[まあ、ダンジョンの中で何するかはそいつ次第だし、法に触れなければ大丈夫でしょ]
[さっきからダンジョンコア気にしまくっている奴ら多くてうざいわ]
[割と距離取ってるし、大丈夫でしょこれなら]
[コンロ出したってことは、何を焼くつもりなんだ?]
調理するための準備も終わったことで、改めてコメントを確認する。
どうやら俺があまり反応しなかったことで、大半の視聴者はいちいち指摘することを諦めたらしく、チャット欄に流れるコメントの勢いは先ほどよりも多少落ち着いていた。
「今から焼くのはさっき倒したドラゴニクスの尻尾だな」
そう言ってドラゴニクスの尻尾だけ鞄の中から取り出す。
そして今回食べる分だけ尻尾肉を輪切りにして取り分け、残りはそのまま鞄に戻した。
ドラゴニクスの肉はかなり旨い。牛肉に比べれば少し硬めの肉ではあるが、部位によってはかなり柔らかいところもある。今回焼く尻尾肉はドラゴニクスの肉の中でも中間くらいの柔らかさの肉だ。
[ドラゴニクス!]
[食うのあれ!?]
[うまいのかね。肉食っぽかったし、筋張って不味そうだが]
[うおっでか]
[尻尾だけでもだいぶデカいな]
「皮は焼いても硬すぎて食えないので下処理の段階で切り落とす。骨も邪魔なので取るっと」
少し厚みのある皮の部分を取り除き、中心にある骨と四方に伸びる筋は焼くと硬くなるため取り除き、肉を扇形の形に4つに切り取っていく。
ここまでやれば後は魔力処理をして焼くだけになる。
[マグロのテールみたいな感じか。いい感じに差し入ってて旨そう]
[そのまま焼いた方が見た目は良さそうだけどな]
[単にデカくてそのままだと焼けないのでは]
[モンスターの肉ってそのまま食えないんじゃなかったっけ?]
[皮分厚いなぁ]
「ああ、残留魔力の処理はこれからやるぞ」
モンスターの肉には残留魔力と言われる、モンスターが生きる上で体に蓄えている魔力が存在し死んだ後もそれが残り続けている。この魔力はモンスターの核とされる魔石から全身に巡らせている物で、この魔力は人間の体にとってあまりいい物ではない。
この魔力を体の中に少し取り込んだところで腹を下す程度ではあるが、大量に取り込むと意識障害にまで至る可能性があるため、食肉としてモンスターの肉を販売する場合は、しっかりその残留魔力を処理しなければならない決まりになっている。
なお、当然ではあるが個人でモンスターの肉を処理し、勝手に食べる場合は何が起きても自己責任である。
[時間かかるんじぇね?]
[すぐできるものではなかったと記憶しているが]
[ワイ強いからそのまま食っても大丈夫だぞってこと?]
[食中毒はフィジカルでカバーか]
事前に取り出していた残留魔力を吸収処理するための機械を、下処理を済ませてある肉の近くに置く。そしてスイッチを入れて機械を稼働させた。
この機械は周囲に漂う残留魔力を動力として動くもので、周囲の残留魔力が無くなれば動きを止める。なので、この機械が止まれば残留魔力の処理が終わったとわかるのだ。
[何その機械]
[見たことない奴来たな]
[個人で残留魔力を処理できる機械が開発されたって聞いたことないぞ]
[もしかして水の発生装置と同じ感じかこれ]
「ああ、そうだな。これも俺が開発した機械だな。こっちはもう知り合いに情報を流しているから、近いうちに売り出されるんじゃないか」
水発生装置とは違い残留魔力の処理技術自体はすでに存在している物だ。なので、そこまで情報は秘匿していない。
[もうこいつ今後働かなくても生活できるだろ]
[水の発生装置だけで一生暮らせるはず]
[売れないわけないんだよなぁ]
[ダンジョンに潜る必要なくなってくさ]
「金は正直どうでもいい。特許を申請しているのは勝手にコピーされたりするとむかつくからだしな」
そもそも金についてはすでにかなり蓄えているからマジでどうでもいい。それに水発生装置で金を稼ごうとは最初から思っていないからな。
[金持ち発言うぜぇwww]
[金なんてどうでもいいって言ってみたい人生だった]
[まあ、ドラゴニクス1体売るだけでも相当な金額に成るからなぁ]
[今食おうとしているテール肉だけでも数万とかしそうだし]
[数万で足りるのかね]
「おっ、終わったな」
残留魔力吸収処理機の動きが止まったので、これで処理は完了だな。後は肉に下味をつけて焼くだけだ。
コンロのスイッチを入れて上に置かれた鉄板を熱する。そして普段から常備していた油を薄く引く。そして下処理を終えた肉に軽く塩コショウで味付けし、そのまま鉄板の上に置いた。
[にくー!]
[音がヤベェ]
[なんで肉の焼ける音ってこんなに腹がすくんだろうか]
[油薄くしか伸ばしてなかったのに、焼き始めた途端めちゃくちゃ出て来てんじゃん]
[飯テロは許されない]
鉄板の上で肉が焼かれる音と共にドラゴニクスの肉の匂いがあたりに漂う。
すでにかなり空腹状態になっていたため、すぐにでも目の前の肉にかぶりつきたいところだが、まだ片面すら焼けていない。
一応牛肉同様、生状態でも食べることはできるが、ドラゴニクスの肉は生で食べるよりもしっかり目に火を通した方が旨い。
ただ、少し欲張ったことで切り分けた肉が分厚くなってしまい、少し工夫をしながら焼いて行かないと中まで熱が入らない。
じっと肉を見つめ、焼き加減を確認する。鉄板の上に置かれた4枚の肉で焼きむらが出ないよう気を付けつつ適宜、焼く位置を調整しながら火を通していき、良い感じの焼き目になったところで側面に焼き色を付けた後、裏返してもう片面を焼いていく。
[肉が焼ける音ー]
[良い焼き色だ(о'¬'о)ジュルリ]
[油のテカリがすごいな]
[バーベキュー用のコンロでここまで焼くとか、こいつ慣れてやがる……!]
[肉食いたくなるから飯テロやは止めろ!! 今は夜なんだよ!!!]
鉄板に肉を押し付けつつじっくり焼いていく。
「尻尾はミディアムレアくらいがちょうどいいんだよな」
完全に火を通してしまうといくら柔らかい肉でも少し硬くなってしまう。
ある程度焼き目がついたところでコンロの火力を弱くし、肉の上にカバーを乗せて余熱で蒸し焼きにしていく。
[こいつ凝り性だ!]
[ああああああああ]
[ステーキ買ってきまああぁす!]
[なんでダンジョンの中でこんな調理してんだよ]
[絶対うまい奴]
「肉だけじゃ物足りないから適当に野菜でも出しておくか」
肉を蒸し焼にしている間、手持ち無沙汰になったため、鞄の中に入れておいた野菜を取り出し、それを切っていく。
白米も欲しいところだがさすがに炊く時間までは待てないので、今回はお預けだ。
[こいつ最初からここで飯食うつもりでいたのか?]
[サラダまで準備し始めてて草]
[マジで視聴者に喧嘩売ってんだろ]
[食事のバランスは大事だからな(◎_◎)]
[肉が圧倒的に多いけどな]
[ソースはどうするんだ]
「そのままでも十分旨いからソースは使わない。ま、単純に作るのが面倒ってのもあるが」
適当に作ったサラダの準備も終わったので、肉の状態を確認する。
「いい感じだな」
軽く肉を押し中の状態を確認すれば十分熱が通っていることが分かったので、コンロの火を止める。
[もう絶対うまいやん]
[焼き色完璧]
[見ているだけでもよだれ出てくる]
[ここに来てドローン君の肉ドアップ撮影]
[ドローン君わかっているけど分かってない(# ゜Д゜)]
焼いた4枚の肉の内、半分を食べやすいように切り分け、残りはそのままの状態にしておく。
「我ながら完璧だな」
肉の切り口から覗く焼き色と、しっかり熱が通っていながら肉らしい赤色の対比がちょうどいい焼き具合だ。
[マジで腹が減る]
[匂いなんて来ないのに何か肉の匂いがする気がする]
[断面が美しい(о'¬'о)]
[絶対うまい(絶対うまい)]
[焼き面の脂というかテカリ方がやばい]
[切っていないやつはかぶりつき用か?]
肉はさらに移さず鉄板の上に置いた状態にして、先ほど作ったサラダを片手に椅子に座り、さっそく食事を始める。
「そんじゃ、いただきます」
初めにサラダに手を付けてから肉を食い始める。
程よい食感と肉汁、軽く塩コショウで味を付けただけにもかかわらず強いうまみを感じる。
黙々と何を話すわけでもなく肉を食べていく。
[食レポはよ]
[人が旨そうに飯食っているだけの映像を30万人以上が見ているってどういう状況なんだ?]
[飯作り始めてから多少減ったけど、それでも30万以上いるという恐怖]
[ああああ、厚めのステーキかぶりつきとか羨ましすぎるううう]
[というか、これ全部食べるつもりなのか? 体積からして全部は無理な気がするが]
「問題なく全部食えるぞ。それと肉はうまい。切ってなくても簡単にかみ切れるくらい柔らかいし、かむたびに肉汁というかうまみがあふれてきて最高」
食べつつチャット欄のコメントを確認し、口の中に物が無くなったタイミングで言葉を返していく。
肉の合間につまむサラダもなかなかに旨い。地上の自宅にある畑で栽培した物だが、収穫して時間も経っていないため新鮮だ。自画自賛になるが最高の出来である。
[フォークで刺した途端にあふれ出る肉汁。持ち上げただけで滴る肉汁。噛むことでより溢れる肉汁兼うまみ……やばい]
[想像させんじゃねぇええええ]
[野菜もなかなか美味そうなのよね]
[ちゃんと野菜も食べているのはいいんだが、肉が多すぎるw これ全部で何キロあるんだよ]
[サイズ見れば1枚1キロくらいだろうから、4キロちょい? いや厚みを考えると倍近いか?]
ちょこちょこコメントに対して反応しつつ視聴者の反応を見ながら、快調に食事を進め、ドラゴニクスの尻尾ステーキを最後まで堪能した。
明日から昼のみの更新になります。




