目覚めの衝撃
早朝、目覚めて視界に入ってきた光景に、叫び声を上げなかった自分を褒め称えたい。
僕は目覚めたら可愛らしいモフモフがいると思ったんですよ。それなのに、目の前には鍛えられた胸筋という名の壁があって、背中にはがっちりと腕が回っていた。
抱き枕にして良いなんて言ってない。自分の置かれた状況を理解した瞬間、再び僕は声なき声を上げた。恥ずかしいし、まさか人型に戻ってるなんて思わない。成人男性が成人男性に抱きつかれて目覚める朝って、わりと悪夢では?
ただ、ぬくぬくで暖かかったのは確かで、途中で起きることなくしっかりと睡眠をとったからか体が軽い。僕はどうも悪夢を見る頻度が高く、夜中に何度か目が覚めてしまうのだ。けれど、今日は一度も起きなかった。
これがぬくぬく効果なのか、それとも触れていると勝手に互いを行き交う魔力のせいなのかは分からない。魔力が循環すると、ふわふわと心地良くまったりとした気分になる。リラックス効果のようなものがあるのだろうか。
その辺りを色々調べてみたいけれど、目覚めた瞬間に見える景色が胸筋の壁っていうのは、もういらないかなって思う。
それから何度か腕の中から脱出しようと試みたけれど、すべて失敗に終わる。完全な力量差に、僅かに鍛えられた僕の筋肉は崩れさった。
おとなしくしていることにしたけれど、そのままだと見えるのは胸筋。少し見上げればサティの整った顔が見えて、僕はそちらを観察することにする。
長い睫毛だなー、寝るときは髪下ろすんだー、鼻筋が通ってて彫は深めで薄い唇。あれが僕とキスしてた唇かーっとぼんやり考えたところでフリーズした。
流石に思考がおかしい。あの時はパニックで嫌いとか好きとか考える余裕がなかったけれど、今は落ち着いている。そう、落ち着いているときに考えて、嫌悪感もなくそれを受け入れているのはどういうことだろう。
そんなことを考えていたらサティの目がゆっくりと開いた。赤に近い桃色の瞳が眠たそうに何度か瞬きをする。やっぱり、鏡で見る僕の瞳に似てるかもしれない。
寝起きのぽやんとした表情は幼さを感じさせるけれど、サティは年上のはずだ。聞いてないから正確なところは分からないんだけれども。
まだ覚醒してないのか、夢だと思ってるのか。嬉しそうに微笑んで、僕を引っ張りあげて額をくっつけ合う。至近距離で美形の繰り出すとびきりの笑顔は、心底照れるのでやめてほしい。それと、寝ぼけたままでの行動は、本心から行ってる可能性があると聞いたことがある。ということは、サティは僕と一緒にいることを喜んでいるのだろうか。無意識の好意に触れ、顔が赤くなってくる。
うぉぉ、と胸の内で叫んでいると、サティがようやく覚醒したのか、少し驚いたように現状を把握し微笑む。
朝から美形の極上スマイルありがとうございます。至近距離でダメージを喰らう。眩しい。
「おはよう」
何事もないように挨拶をしてくるサティに、僕は恨めしそうな声で応える。
「おはよう。猫の姿だと思ったのに。もふもふじゃなかった……」
僕はもふもふを所望する!
そんな僕を笑いながら、サティは額をグリグリと合わせた。
「触れ合う場所が多いほうが魔力の循環がしやすい。うなされている時は、魔力循環をすると落ち着く」
「えっ、あぁ、そうなのか。ありがとう」
「そのほうがいい」
なんのことだろうと思ったけれど、多分口調かな?
微妙な距離感で敬語混じりにくだけた感じで話していたけれど、これからはサティと暮らすんだから少し壁を取っ払おうと思った。関係は良いほうがいいもんね。
「じゃあ、これからはこの口調で。サティが猫の姿をしているのに、敬語で話してたらおかしいって思われるし、な、仲良くしたいし」
頷きながら満面の笑顔になるサティを見て頬が熱くなる。熱くなった頬を手で仰ぐけれど、しばらくは元に戻りそうにない。
諦めた僕は、じゃあ帰る用意をしよう、とサティと共にベッドを降りた。




