魔王になんてなりたくない 1(サティ視点)
魔王とは一体なんのためにいるのか。
魔族をまとめ上げるための尊い存在と言われているが、ただの貧乏くじじゃないかと日々悶々と考えている。
魔王は血筋で選ばれるものではなく、魔力が多かったり戦闘力のある者が選ばれる。魔力持ちは歴代魔王の血筋に近いほど多く現れるが、その者たちが戦闘力も兼ね備えているかといえばそんなことはない。得意な魔法や剣技によって変わるし、やはり戦闘に関するセンスも問われるからだ。
毎年、十五歳から現魔王に挑戦するチャンスが与えられる。挑戦人数が多い場合は挑戦者同士が戦い、魔王に挑戦する権利は優勝者に与えられる。年に一度の大きな祭りに商人たちも気合を入れる。活気に溢れた街をぼんやりと見て回るのが好きだった。誰も私のことを気にしないから。
私は魔王になりたくなかったし、挑戦する気がまるでなく、他人の試合にも興味はなかった。
それなのにこうして魔王になっているのは、家の者に嵌められたからだ。
父は正妻の他に四人の側室がいて、その一番下位の側室が母だった。正妻と他の側室から疎まれ嫌がらせをされていた母は、自分のことだけで精一杯で私のことにまで気が回らなかった。
私は私で嫌がらせを受けても図太く適当に生きていたから、私に関心のない母も気にならなかった。けれど、嫌がらせは陰湿で見ていて気分が悪い。いつか死んでしまうのではないかと思うほどだ。それは母がされている側だから、そのように感じたのかもしれない。
ある日、私の能力に気付いて父が言った。もし魔王になれることができたら、母への嫌がらせをやめるように言おうと。それは私に条件として掲示するのではなく、お前の問題なんだからさっさと対処しろよ、と思う。今まで放置していることこそおかしいのだ。揉めるのが分かっていて、何人もの妻を娶ったのはお前だろう。
尊敬するところが欠片もないため、胸の内では父のことをいつもお前とかあいつと呼んでいた。
けれど、この家では父の言うことが絶対だ。反論は許されない。
とりあえず試合に出なければ、母の処遇は今のままなのだろう。母を連れて家を出ることも考えたが、母が父に依存しているためそれも難しかった。自分だけ家を出ても良かったが、そのことにより母が責任を問われるのは違う気がする。何もしてくれなかったが、母であることは間違いない。どうでもいいと思っていても、肉親に何かされるのは嫌だった。
私に残されたのは、挑戦する道だけだった。
そして仕方なく挑戦し、あっさりと魔王の座を手に入れてしまった。拍子抜けするほど簡単に前魔王を倒すことができた。
ちやほやと持て囃され、父は自分が権力を手にしたかのように浮かれていた。その時、悲劇が起きた。
自分たちの息子や娘が私を出し抜けなかったことに怒った正妻と側室が、母をいたぶって殺したのだ。
私は母を生かすために、魔王の座を手に入れたというのに。
ふつふつと湧き上がる怒りを、私は迷い無く解放した。その怒りは正妻と側室を包み込み、その子どもたちも捉えた。浮かれている父ももちろん対象だ。約束を違えたのだから。
死よりも強い苦痛を与えよ、と私は全員を一ヶ月ほど死なない程度にじわじわと芯まで焼き、治しては焼くことを繰り返した。十五年以上もしつこく母と私をいたぶってきたのだ。それでも足りないくらいだろう。
悲鳴に飽きてきた頃、死なない呪いをかけて地下へと幽閉した。膿んだ傷は治ることなく痛み、それでも死ねないことに気づいて弱い者から発狂するだろう。
それでもまったく気は晴れないし、何もかもがつまらない。
魔王になってからは責任とやることが増え、非常に面倒くさい。そもそも他人や社会に興味のない私が、他者のことまで目を光らせなければならない状況が嫌だった。なりたくてなったわけではないし、その目的だったものも失われた。もはやただの貧乏くじである。
何もかもどうでもよくて、何かと理由をつけては逃げ回っていた。しかし、魔王の座をさっさと譲りたくても、その挑戦を受けるまであと一年あるのだ。勝手に放棄するのは許されないことだった。
そんなある日、たまたま人間の街をフラついていたら気になるものを見つけた。おそらく人間だが人間とはどこか異なる存在。魂が輝いていて、とても良い匂いがする。それを嗅いでいると心がむずむずとした。
何にも興味を持てなかった私が、初めて欲しいと思った。そのくらい、その人間は強烈に私を引きつけた。
私は何にでも姿を変えられる。今だって人間にうまく擬態できているはずだ。それなのに、目の前にいる輝く人間は、恐ろしいものを見たように慌てふためいて顔色を悪くしている。それすらも興味深くて、私はより一層その人間に興味を持ったのだった。




