人間じゃない!? 2
困ったように見つめても、僕がなんでそんな顔をしているのか分からないのだろう。サティは首を傾げている。
目が離せないくらいの美形なのに仕草がお子様なの、本当に心臓に悪い。擬音で、こてん、ってつくよね、その傾げ方。
そんな内なる萌えと戦いながら、僕はサティに何を伝えるか考える。
人間であること、一緒に行くことはできないというこの二つだけは理解してもらいたい。だって、一緒に行ったらサティもろとも勇者たちに討伐されるよね?
討伐対象に人間のモブは入れないでほしい。
ただ、こんな短い時間だけど情が湧いているのも確かで、サティが討伐されてしまうのは嫌だなぁと思っている自分がいる。だって、美しくて可愛い生き物がなぜか僕に懐いてるんだよ。たとえそれが世界から悪と呼ばれる魔王でも、居なくなってしまうのはなんとも言えないものがあった。
なんと伝えると角が立たないのかと考え口を開こうとした瞬間、何もない空間からコウモリの翼を背に生やした魔族が現れた。
「やー、もう魔王様ってば勝手にあちこち行くのやめてもらえますー?」
そっぽを向いて聞いてませんのポーズをしている魔王様、良いのかそれで。
お小言をしばらく言い続けたそいつは、ようやく僕の存在に気づいたのか、糸目だった目を見開いて僕の周りをくるくる飛び回る。サティも似たようなことを出会ったときにしていたなと思いだして、少し遠い目をしてしまった。これは魔族あるあるなんだろうか。
「はぇー、なんだろうこれ。面白いの見つけましたね、魔王様」
よし味見、と僕に近づいてきたそいつから遠ざけるように、僕を抱きしめるサティ。強く引き寄せられて背中がサティに当たる。そして、僕の唇にはサティの手が当てられ、多分侵入者からのキスをガードされていた。魔族の味見とは、多分キスのことだからだ。
「おやおやー? ふむふむ、なるほどー……って、魔王様何しちゃってんですか?」
「私のだ」
「それは良いとして」
良くないが。勝手に僕を所有物にしないでいただきたい。声を大にして言いたかったけれど、侵入者の慌てっぷりはすごかった。
「え、なんで少し目を離した隙にこんなことが。天下の魔王様ですけど?」
我が道を行くタイプのトップに従う部下って、振り回されていて可哀想だよね。案外苦労性なのかな、この
糸目のコウモリ男。
何が大変なのかいまいち分からなかったから、とりあえずサティの拘束から抜け出ようと頑張っていたけれど、まったく動かないこの筋肉だるま。見た目では分からない着痩せするタイプの細マッチョだった。
けれど、身動き取れずに項垂れていた僕の耳に、とんでもない言葉が飛び込んできた。
「魔王様、なんで従魔契約しちゃってるんですかー!」
今までは自分とは関係ないだろうとコウモリ男の話を流していたけれど、驚いたまま背後のサティを見上げる。
「じゅうま……けいやく……」
それは僕とですよね。え、なんでぇ? 僕が魔王様のペット?
「しかも、この多分人間ってやつの従魔に魔王様がなってるんですか!」
わぉ。まさかの魔王様がペット枠だった。これはあれか、ステータスオープンって僕のステータス見たら従魔の枠に魔王って書かれているやつか。
あと、多分人間って言われてるけれど、人間です。異世界の記憶を持ってますが、確実に人間です。
そんなツッコミを言えないまま、僕は二人のやり取りを見つめる。
「私が気に入ったからだ」
「だったらせめて逆にしておきなさい!」
苦労症のコウモリ男は魔王様のママなの?
不貞腐れたサティは、僕の頭にグリグリと自分の頭を擦りつけてくる。猫みたいだなーと現実逃避しながら、僕はとんでもないことに巻き込まれてこれはもう修正不可能なんじゃないかと頭を抱える。
一緒に行けないと言っても、従魔契約しているなら一緒にいるのは避けられない。勇者に駆逐される僕たちの未来が見える。そんな馬鹿な。
あ、でも魔王って初めて聞きましたという顔をして、話を聞いてみるのもありではないか。だって、サティって名前しか知らないことになってるし。一回も魔王って言ってないし。
人間を滅ぼす気があるのかないのかだけでも聞いておきたい。少なくとも家族が被害に合うのは嫌なので。
「従魔契約も気になるんですけど、魔王って? サティという名前しか知らないんですけど」
言っちゃったー!
そんな僕に、信じられないって顔をしたコウモリ男が言う。
「こちらは魔王様です。ただの人間が会えるはずないんですよ。それなのになんで何もかもすっ飛ばして従魔契約してんですか、あんぽんたんー!」
「いや、それについては僕も知りたいんですけど」
小さく呟いた声は無視され、早口のお小言が続く。それを僕に言ったところで何かが変わるだろうか、いや変わらない。無駄である。
サティは自由なので背後で欠伸してるからね。こんなホワホワした生き物が、世界中から憎まれる存在なんだろうか。それが不思議でならない。
「あのー、一ついいですか? 魔王様なのは分かったんですが、僕が聞いた話だと勇者が辺境の方に行っていて魔王討伐目前って言われていて。サティ、こんなんですけど本当に人間に何かしたんです?」
「そう、それですよ、それ! うちの魔王様がそんな役にも立たないことするわけないじゃないですか。本能のままに生きてますけど、他人に興味ないんですよ、この魔王。なので、下っ端の馬鹿どものやらかしが魔王様のやらかしにされていて、勇者たちに付け狙われてる感じですね」
なにそれ。ゲームでの討伐も冤罪だったんだろうか。うーん、なんかそんな感じがしてきた。
すごく迷惑そうな感じで相手されていた気がするし、倒したことになっていたけれどそれも怪しい。
「それ、ちゃんと抗議するか、下っ端の馬鹿どもをどうにかした方が良いのでは?」
「それ、魔王様に言ってないと思います? 何百何千と言ってるんですけど、面倒、の一言で終わらせられるこの気持ちが分かりますー?」
やっぱり苦労症の人だった。頑張れ。
事情がなんとなく掴めてきたし、僕も死にたくないからなんとか良い方に持っていきたい。
モブはモブらしく表舞台には出ずにいきたいんだけれど、もう従魔契約のせいでなにもかもが駄目すぎる。何度目か分からないため息を吐きながら、僕はサティに提案をすることにしたのだった。




