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ぼくたちの しっぽの せかい

掲載日:2025/09/21

この世界では、しっぽは心のかたちをしている。

うれしいとき、しっぽはやさしくゆれ、

かなしいとき、しっぽは静かにたれ、

だれかを思うとき、しっぽはそっとぬくもりを探す。

森も、風も、空も、海も、みんな心を持っていて、

だれかが泣けば、いっしょに泣き、

だれかが笑えば、いっしょに笑う。

これは、とうちゃんと、サリーと、ミックと、

そして、たくさんのいのちが出会いながら、

「生きていることの意味」を探して歩いた、

小さくて、やさしい旅のはなし。

どうか、ゆっくりページをめくってください。

ぼくたちのしっぽのせかいへ。

プロローグ:サリーとミックと、とうちゃん


サリーは、チャトラ。男の子猫。

少しこわがりだけど、心はとてもやさしい。


ミックは、白黒のぶち柄。男の子猫。

ちょっぴり強がりだけど、ほんとうは仲間思い。


ふたりは、「とうちゃん」といっしょにくらしている。


とうちゃんは、小さいころに高い熱を何日も出して、

それから足が不自由になっちゃったんだって。

この間、話してくれたの。


立つことも、歩くこともできないけれど、いつも明るくてやさしい人。

ときどき電動車いすでぼくたちと散歩してくれるんだ。


サリーとミックは、そんなとうちゃんが大好きだった。


でも、ときどき――。

とうちゃんは、ふとさみしそうな目をするときがある。


それは、たぶん……ふたりが知らない、

「だれか」のことを思い出しているような目だった。


ある夜のこと。 空は、厚い雲がひろがり、外はサーっという雨の音。


とうちゃんはテレビも消して、ひざにサリーとミックをのせ、

シーンとした部屋の中で窓の外をじっと見ていた。


遠くで雷さんの音が聞こえてくる……ゴロゴロゴロ〜ォ。

厚く広がる雲が白く光った。


ゴロゴロ〜……ピカーッ!


サリーやミックのかげが、いつもより黒く見えた。

ふたりともとうちゃんにしがみつきふるえている……。


すると――。


「……あれ?」


とうちゃんの後ろの古い本棚が、

ぼんやりと青白く光っているのをサリーが見つけた。


そこから、“コトコト、コトン”という音がきこえて、

まるで、何かで本が押しだされたように本棚の前でたおれた。


それを見ていたサリーは、思わず耳の先からしっぽの先まで、

電気でも走ったかのようにピーンッとなって、

とうちゃんの膝から落ちそうになった。


サリーが「ほ、本棚から勝手に本が出てきたー!」とおびえたように言う。

ミックととうちゃんがふり向いた。

その本は、床に倒れたまま、青白い光をじんわりと放っていた。

風もないのに、ぺらり……ぺらり……とページがひとりでにめくれて、

やがて、ゆっくりと動きが止まった。


とうちゃんとミックがのぞき込むと……

「今日、少なくとも一人の人に、少なくとも一つの喜びを

与えてあげられないだろうか。」と書いてあった。

とうちゃんは「ふーん」と言って、あごひげをなぜている。


サリーがもそもそっとミックのところにきて……

「何が書いてあったの?」と聞くが、わからないようだった。

でもサリーは覚えていた。

「あれさぁ、かあちゃんがよく読んでいたという本だニャ……」

ミックも「うんうん、確かに……」と、うなずいた。


その本の間から、風のような光がフワッと漏れてくる。


「ニャ? ……ニャンだよ、これ……!?」

サリーとミックの耳がピクリと動いた。


サリーの耳がだんだんとペッタンコになり、しっぽをお腹に丸め、

押し入れにかくれようとした。


でも、そのとき……。


光がフワッとふくらんで、まるで、お月さまのように部屋いっぱいに広がった。


と、――とつぜん、ぱちん! ……。


かわいた小さなおとがして、世界がくるりと、ひっくりかえった。



第1章:しっぽのある人たち


目をさますと、そこは家の中ではなく、知らない場所だった。

見たことがあるような、でも、ちょっとちがう町。


いつものベンチや道があるのに、なんだかへんだ。

ベンチの下では、花が風に揺れながら、ふたりでおしゃべりしている!


「おはよう」 「きのうはケンカしてごめんね」


まるで人みたいに、ていねいに話している。


ふりかえれば……お花屋さんのおじさんも、パン屋さんのおねえさんも……。

町をいきかう人たちの背中にしっぽがあった。


ミックは新しい風景に興味津々で、サリーに話しかける。


「あの人のしっぽピーンと立ってるね。何かきんちょうしてるのかな?」

「あの犬耳のカップル、しっぽをすごく振っているぅ。うれしいのかなぁ」


指をさしながら楽しそうに言うミックに、とうちゃんが注意した。


「いくらめずらしいからといって、そんなに指さしたらダメだよ。

もしミックも知らない人から指さされたら恥ずかしいだろう?」


けれどミックはこうふんしていて、ますます目をかがやかせる。


「ニャ、ニャンだこれはー!?」


サリーも心の中でとびあがっていた。


「うっそだろ……ここ、ぜったいおかしいニャ」


ミックはさらに不思議そうに目をほそめながらまわりをクルリと見る。

とうちゃんは、目のまえの光景にびっくりしながらも、ふと気づいた。


――あれれ? 車いすが、う、浮いている!

とうちゃんがふと足元を見ると、

車いすの車輪が、ゆっくりと抜け落ちていくのが見えた。

「……えっ?」と、とうちゃん息を飲んだ

コトン、と静かな音を立てて地面に転がった車輪は、

その瞬間、きらりと光って銀色の輪に変わった。

輪はふわりと浮き上がり、

まるで息を吹きかけたシャボン玉みたいに空へ舞い上がる。

青と紫がまざった瑠璃色の光の中へすうっと消えていった。

その不思議な光景を見ながら、――少し不安でもあるが、

とうちゃんは、これで便利になると……笑った。

その小さな変化を、サリーもミックも見逃さなかった。


サリーの「とうちゃんー!」という声に冷静になったとうちゃんは、

いつもと同じ笑顔で手を振った。

車輪がないのに、すうーっと滑るように動いている。

「操作が難しいぃ」と言いながら、とうちゃんは楽しそうだ。

からだをすこし動かすと、ふわりと、そのほうこうにすすんでいく。

空をとぶみたいに、なめらかで、気持ち良さそうに……


サリーもミックもとうちゃんを見つめていたが、


ミックがふと足を止め、鼻をひくひくさせた。


「……ねぇ、なんか甘い匂いがしない?」



その声に応えるように、どこからか柔らかな風が吹き抜け、

足元の草花をさやさやと揺らした


サリーととうちゃんも、つられて顔を上げる。

目の前の空は、現実の世界にはない、

透き通ったすみれ色から、淡いみかん色へとかわり、

そこにはキラキラとした光の粒が、まるで粉雪のように舞っていた……。


あたりは、小鳥のさえずりさえも遠くに消え、

胸の音が聞こえるほどの静かになった。



その、静けさの向こう側から、一人の女性がゆっくりと姿を現した。

背中にはハートの形をしたピンク色のしっぽが揺れている。


「あなた……お久しぶり。でも……はじめまして、かもしれないわね」


声はたしかに、とうちゃんが知っている声だった。

でも……その背中には、長くてふわふで輝くしっぽがある。


とうちゃんを見つめる目は、とても あたたかかった。


「サリーも、ミックも。ようこそ、この世界へ」


「ど、どうして……ぼくたちのこと、知ってるんだニャ!?」

サリーが、びっくりして、まんまるの目をもっとまるくする。


「あ、ああぁ! ……とうちゃんのベッドのところに、

置いてある写真の人に似ているーぅ……!?」


ミックは地面にふせ、片目で見上げるように……

「かあちゃん……?」とつぶやいた。


その人は、何も言わずに、ミックを見つめてうなずき、

ふわりと長いしっぽをのばして、とうちゃんの車いすにそっとふれた。


サリーが思わずさけんだ。 「や、やっぱり……かあちゃんだ!」


ミックも大きな声を上げた。

「ほんとニャ、しかもしっぽがピンク色のハートの形だニャ!」


そのハートの形のしっぽは、風にやさしく揺れている。

とうちゃんは、胸がジーンと熱くなるのを感じていた。


「ここは、“もしもの世界”。きみたちの大切な思いが、まだ 生きている場所よ」


とうちゃんはそっとかあちゃんを抱き寄せ、目からぽろりと涙があふれた。


そのとき――。


とうちゃんの背中に、小さなしっぽが、スウっと生えてきた。

そのしっぽは、月あかりのように、やさしくゆれている。


遠くから、低く、やさしく心に語りかけるような声が聞こえてくる。


「ようこそ、旅人たちよ。ここからが、ほんとうの冒険のはじまりじゃ」



第2章:もくもくさんの学校


「……その声は、もしかして……夢でよく見た……もくもくさん?」


サリーが、またもまんまるな目をさらにまるくさせた。

ミックも思わず、しっぽの先をピックンと動かした。


とうちゃんの前に立っているのは、かあちゃんだった。


かあちゃんは、春の風みたいにやさしくほほえんだ。


少しだけうつむいて、静かな声で言う。

「あなた、この森に認められたのよ……

私も最初は、どうしたらいいのか、ずいぶんこまったわ……」


「えっ! かあちゃんは、ここにいつからいるの?」

ミックがたまらずたずねる。


かあちゃんは不思議そうに目を細めた。

「そうね……ずっと昔からいたような気もするし、

昨日ここへ来たばかりのような気もするの」


ふわりとしっぽがゆれる。

「この世界では、すべての命が言葉をもっているの。

そして、声がなくても、心で通じ合えるのよ」


サリーもミックも、おもわず“ゴックン”とのどをならした。


ミックがそっととうちゃんの肩にのると、

とうちゃんは、そのぬくもりをたしかめるようにミックの背をなでた。


サリーも白い足で、とうちゃんのひざに“ぴょん”とのる。


「なんか……ふわふわしてる。でも、へんじゃないよ。

とうちゃん……しっぽ、似合ってる。本当に」


その言葉に、とうちゃんはふと気づいた。


自分の背中で、

月あかりのような、やわらかな小さなしっぽがそよいでいる。


自分がしっぽを持つ日がくるなんて、

これまで一度も思ったことはなかった。


「さあ、私についてきて」


かあちゃんは、ふわりと長いしっぽをのばしてとうちゃんたちを導いた。


その先にあったのは町のはずれ。

見慣れたようでいて、何かがちがう風景。


建物のかたちはおぼえているのに、屋根の上にとまる鳥がしゃべっていたり、

窓辺の草花が「おはよう」と笑いかけてきたり。


「やっぱり、ぜったいおかしいニャ……」


「いや、これは“すごい”んだよ、サリー。

おれ、こういうの、わりとすきかも」


ふたりのやりとりに、とうちゃんはふっと笑った。

昔から、サリーとミックは正反対で、でも一番のなかよしだった。


町の先を進むと、やがて足元の石畳が消え、

やわらかな草の感触がつたわってきた。 そこは、森の入り口。


木々の葉はやさしくカサカサとこすれあい、

どこからともなくささやくような声が聞こえてくる。


「こんにちは」 「お元気?」 「今日は空がいい色だねぇ」


サリーがこそこそとミックにささやいた。


「ミック、今しゃべったのって……葉っぱ?」

「たぶん……草か、風か、そのへん……」


進むにつれて、木々の幹に緑のコケが深く息づき、

あちこちで淡い光をこぼしていた。

森はますます深く、しずかになっていった。

やがて、目の前がぱっとひらける。

そこに立っていたのは、天に届きそうな、とんでもない大きな木だった。


枝のひとつひとつが、まるで別の世界をもっているかのように。

長くのびたツルはブランコになり、小さな動物たちが楽しそうに遊んでいる。


その幹のまんなかに、仙人顔のような模様が浮かびあがった。


「わしは、もくもくじゃ。ずっと、きみたちを見ておったぞ」


低くてふかい、体の奥にひびくような声。


「この世界は、心と心が通じ合う場所じゃ。

そして、心がこわれれば、森も、空も、海も、風もすべてが泣き出す」


とうちゃんが、すこし前に体をかがめて“もくもくさん”に聞いてみる。


「もくもくさん……わたしたち、ここで何をすればいいんでしょうか」


「学ぶことじゃ……」


もくもくさんの目のような模様が、ふっと細められたように見えた。


「生きる、しあわせ、戦い、そして、ゆるすとは、どういうことか……」


その言葉を聞いて、サリーとミックは顔を見合わせた。


もくもくさんは、枝にのった動物たちを見あげながらこう言った。


「ここでは、葉も、雲も、命そのものが先生じゃ。耳をすませば、いろんな声が聞こえてくるじゃろぅ?」


ふたりの猫は、その場にぺたんとすわって真剣な顔をしている。

……でも、すぐにちんぷんかんぷんになった。

しばらくみんなが考えていたけれど……


サリーは首を傾げながら「やっぱり、むずかしいニャー」と言い、

しっぽをバタバタとさせている。

「生きるとはって言うけどさ……ただ……産まれてきたから……

生きているだけじゃニャイか……?」と、ミックはやっぱり首を傾げる。


もくもくさんは「ふぁっははぁ、そうかも知れぬのう……」と、

笑いながら枝葉を揺らした。



「ミック、これわかった? 『心に光をともすには、影と向き合え』って、

……どういうこと?」


「たぶん……むずかしいことをむずかしく言っているだけだニャ……ウン」


そんなふうに戸惑いながらも、とうちゃん、かあちゃんといっしょに、

ふたりは森を進んでいく。


そして、サリーが一歩ふみ出そうと振り向いた時、どこからか小さな声がした。

ふと、足もとをみると、たくさんのアリたちが行列を作っている。


「うんとこしょ、うんとこしょ、うんとこうんとこ、どっこいしょ!」って、


すごく重そうな木の実や大きな葉を、みんなで掛け声をかけながら、

軽やかに運んでいるのを見たサリーとミックは、

地べたに頬をこすりつけるようにアリさんたちの動きを見つめた。


すると、アリさんたちの中から、

「おい、そんなギョロとした大きな目が4つもあったら怖いじゃないか!

そ・れ・に、だな、君たち近すぎるって……

鼻息で吹き飛ばされそうだよ。少しはなれてくれない?」

という声が聞こえてふたりは思わず3歩ほどさがった。


それを見いていたとうちゃんはうれしそうに、

「いい体験をしたねぇ。アリさんたちは、すごく小さいけれど、

とても力強くて、とても大きい命を感じなかったかい?」


サリーもミックも大きくうなずいた。


「きっと、見えない、聞こえないだけで、

ここにも、あすこにも大きな命が息づいているんだ。面白いだろうー」と、

微笑みながらふたりに言う。


ミックは「たしかに……もしふんづけてしまったら、ごめんじゃすまないよなぁ」と、とても大事なことを知ったようにつぶやいた。


誰かの笑い声がすれば、空がひらけ、草花がひらく。 けんかの声が聞こえれば、木々はしおれて、風が止まる。


――この世界では、「心」がすべてを映している。


もくもくさんの葉が、さやさやとやさしく風にゆれた。


「さて、旅人たちよ。行くが良い、これからがほんとうの旅のはじまりじゃよ……」



第3章:ぴょん太との出会いと心の魔物



森の奥へと進むにつれ、あたりの空気がすこしずつ変わってくる。


葉をすり抜ける風は冷たく、まるで何かを告げるように草が音を立てている。


“ヒューン、ヒューン、ヒュルルーン”


ミックは背伸びをして辺りを見まわす。

「……おかしいなぁ。さっきまで鳥たちがたくさん歌っていたのに……」


サリーは鼻をくんくんさせて言った。


「……変なにおい。土のにおいだけじゃニャイ……なんかこわい……」


ミックもきょろきょろと辺りを見回して、しっぽがボワンと太くなる。


「ぼく……なんだかイヤな予感がするニャ」


すると、最初にヨロヨロとしげみの中からあらわれたのは、こだぬきだった。

その、こだぬきが倒れた瞬間にどこからともなく、

いろんな動物たちが、ザワザワーとあらわれた。

たおれたこだぬきをひょいと抱えて、あっという間ににげていく。


“いま、何がおこったんだ?” ふたりは思った。


「兄弟でもないのに……あんなふうに……。

だれかが困っているとき助けられるかなぁ」 サリーが小さな声で言った。


「みんなもくもくさんのところにいた子たちだね。

“みんなで”生きると言うことは、楽しいことだけじゃなくて、

大変な時も悲しい時も、みんなといっしょにいれば……大丈夫! ということじゃないかな?」と、とうちゃんがやさしく言った。


「ふーん、みんなといれば……かぁ……」


ふたりとも、また大きくうなずく。


しばらくして、ふたたび静けさが森を包んだ。

そのとき、なにかがきらりと光り、木々の間から白い影がすっと現れた。


「止まれ!」


誰かの叫び声に、ふたりの胸がドキン!とはねた。


「見ない顔だな! 何しに来たんだ!?」


突然、前に立ちはだかったのは、一匹のうさぎだった。


手のひらほどの短い剣を腰に下げている。

片耳は折れ、真っ白だったはずの毛並みには、

ところどころ赤い染みが滲んでいた。


「この森に何をしに来た!? またこの森を汚しに来たのか!?

もう来るなと言ったはずだ。森をこれ以上、よごさせない。

だから……通すわけにはいかない!」


「き、君は……誰?」 ミックがたじろぎながらも声をかける。


そのうさぎは、ぴょん太と名乗った。


ぴょん太の目には不安といかりが宿っていた。


サリーとミックは緊張して、背中の毛が立ち、しっぽがボワッとふくらむ。


「ち、ちがうよー。森をよごす?

もくもくさんのところで“心”を学んで、それを探すために来ただけだい」


ミックが言うと、サリーもその後ろにかくれながら続けた。


「そーだーそーだ、心をさがしているんだーい」


サリーはミックのしっぽをギューッとつかんでいた。


「みんな……そうやってぼくらをだますんだ!

もうイヤなんだよ! こんなの……」


ぴょん太は、ふるえながら叫んだ。

にらみあう彼らの間に、とうちゃんの声が響いた。


「ちょっと、みんな……ケンカは良くない、でも時として、

ちゃんとケンカをしなくてはならない時がある。

それはひくに弾けなくなった時だ。でも、ルールがある。」


ちょっと出鼻をくじかれたミックは、「ルール?」と聞き返す。


とうちゃんは少し笑みを浮かべながら……


「そうだ、いつも言っているけど……

その1、頭は、殴らないこと。

その2、首は噛み付いてはいけない。

その3、石や棒は使わないで素手でやること。

その4、」と言いかけた時、


ミックが「まだあるのー?」と、呆れたようにいう。

とうちゃんはニヤリとしながら続けた……


「その4、いいかここ大事だからよく聞けよ!

決して……は使わないこと」と、

それを言い終わるか終わらないかサリーが真っ赤な顔をして、

とうちゃんの口を抑えに飛んで行く。


nミックは思い出して笑いころげた。


このあいだ、サリーは肉球を蚊に刺され大騒ぎになって、

とうちゃんがかゆくなくなる薬を塗ったら、

家中をひっくり返す騒動になっていたのだ。

サリーはそのことを言われたくなかった。

聞きたくなかった。

思い出したくもない恥ずかしいことだと思っていたから……


ぴょん太は気を取られて少しやる気をなくしながらも、

下からとうちゃんをにらみつけるように。


「な、なんだとー、何が蚊だぁ?……ふざけてるのかぁ!?

それに、その変な椅子に座っているのは人間か?その椅子は武器か?

下りてこいよ、話をしようぜ」と、うたがうように言った。


それを聞いたミックが急に怒り出した。


「この人は、ぼくたちのとうちゃん、お父さん、父、わかる?

それから、とうちゃんは歩けないの!だから……椅子から降りられないの!

本当に失礼なうさぎだな……ぷん」と、自分を押さえながら言った。


ぴょん太は“まずいことを言ってしまった”と思ったのか下を向いた。


「というわけで、ぴょん太くんのところまで行けないんだよ。

でもさぁ……その剣、自分を守るために持ってるんだろう?」と

おもむろに聞くとうちゃん。


その言葉に、ぴょん太の手がわずかに震えた。


そのときだった。

あたりの空気が、すっと冷たくなった。

サリーもミックも、それを感じていた。


とうちゃんも、

「何か嫌なことが起こる」

そんな気がして、まわりを見回した。


鳥たちがいっせいに飛び立ち、風がゴーッと叫んで森が動いた。

森の奥から黒いモヤのような影が現れる。

それはサリーたちにも覆ってくる勢いで「あっ」という間に広がった。


ぴょん太は身を低くかまえ、震える右手が腰の剣をにぎろうとした時!

いつも誰かの影にかくれ、

声も出せないサリーが、とても大きな声で、


「ぴょん太くーん、その剣を抜いちゃダメだよー、

抜いたら……抜いたらみんなが傷ついちゃうよー。

剣を抜かないで、おねがいぃ。ウェ〜ン」と、


泣きながら精一杯の声を出した。

その涙が地面に落ちると、小さな光の輪となって広がった。


それでも、ぴょん太は、いかりに震え、ひとみが炎のように燃えている。

ミックも叫ぶ「やめろーぉ、落ち着けー。剣を抜くなよー!」


ぴょん太はサリーとミックの声が聞こえたのか、一瞬、耳を後ろに向けた。

だけど、ぴょん太は剣をにぎる……。


その時……!


空が黄金に光り、“グォー、ゴゴゴー……ッ!”

“ミシッ!ベキベキべキーッ”というとがった音がして皆が見上げると、

大きな手のような枝が落ちてきた。


「ワーッ」と、皆が頭をかかえて丸くなった。

“バラバラバラー、ドッシーン”という音と共に、

つちぼこりと舞い上がる枝葉で、あたりがまったく見えなくなった。


ミックが周りの土ぼこりを払いのけながら目をこらしてみる。


「あれ?ぴょん太がいない……」


しばらくすると、この「もしもの世界」に来たときに、

とうちゃんの車いすは車輪がとれて、意思で自由に飛び回れるようになっていた。

そのとうちゃんが「ぴょん太君は枝の下じきになっているー」

とうちゃんは瞬間的に車いすで後ろに下がり、皆を見守っていたのだ。


「ぴょん太、ぴょん太ーぁ」とサリーもミックも叫んだ。


すると、「ぐっ、く、苦しい」という、ぴょん太の声が聞こえた。

しかも、勝ち誇ったようにゆらゆらと揺れていた。


サリーが何も言わずに、ぴょん太めがけ、枝のすきまに飛び込み、

ミックもあとを追った。


ミックは落ちてきた枝をしっぽでどけようと太くさせ、

もち上げようとしたが、うまくいかない。


そこに、サリーの上にとうちゃんがスーと飛んで来て、木のツルを落とし、

それを枝の太い部分に結びつけるようにと言った。

とうちゃんのしっぽが、まるで大きなかぎ針のような形になって、

そのしっぽに引っ掛けてツルを力いっぱい引っ張った。


“メッキ!バッキバッキィ!バサバサーァ”と大きな音がして枝は持ち上がった。


ミックは少し太めで、いつも、おいかけっこなど狭いところは、

あきらめてばかりだった。ところがその時のミックはちがった。


まるで水のようにスルスルと隙間という隙間を抜けていく。


「サリー、ぴょん太ぁ、大丈夫?どこにいるのー」とさけびながらミックは進む。

「こっちだよー。ぴょん太が枝に引っかかっていて

取れないよー」という、サリーの声がする。


ミックはサリーの声がする方に向かうが、

枝が針葉樹の葉のように、するどくとがっていて、

自分の毛にからみつくし、体にささるしでなかなか前に進めない。


それでもふたりはぴょん太のところに行こうとした。


「がんばれ!ぴょん太。今、助けるからなー」と、ミック。


その時、ふたりのしっぽが大きくふくらんで金色になると、

ぴょん太のまわりに、まとわりついていた枝がさらに“ふっわ”っと浮いた。


「今だ!ミック!」とサリーはミックの手をつかんだ。


そして、ミックはぴょん太の腕をつかみ、枝の下から抜け出る。


ミックがぴょん太を見ると葉や枝にこすれたのか、白い毛並みは、

さらに、ところどころ赤くにじんでいた。


いまだに魔物は笑いながら、「お前の負けだ……お前の……」

黒いモヤが、ゆらゆらと揺れた。


ぴょん太の耳が、ぴくぴくと動く。

そして、ぎゅっと目をつぶった。


「…だまれ……」


そうつぶやくと、長い耳をぎゅっと折りたたみ、頭に押しつける。


「うるさい……だまれ、だまれぇ!」


ぴょん太は「チッキショー、何を笑っていやがる、

この森を、仲間を……家族を返せよー!」と、

怒りをぶつけ、またも、つかみかかろうとする。


すると、魔物は黒い大きなカーテンを広げたように、

ぴょん太に襲いかかろうとするが、

サリーとミックが力を込めて、ぴょん太を止めようとすると、

魔物は少し小さくなる。


サリーとミックが力を抜いてしまうと魔物は大きくなる。

ミックはもう、これ以上無理かもと「誰か助けて……」と心から思った。


そのときーー


夜空の星くずみたいな光が、ぽつん、ぽつんと生まれた。


光は増えて、増えて、やがてぴょん太のまわりを

くるくる、くるりんと円をえがいている。


その光のまんなかから――

ふわりと、森の妖精があらわれた。


妖精はぴょん太の鼻の先に、ちょこんとすわり、

まるで子守うたをうたうみたいに、やさしく語りかける。


「もう、いいの……森の仲間も、お父さまも、お母さまも、

そして、兄妹たちも、あなたをせめたりしていない……」


「あ、あなたは……誰?……」とぴょん太はたずねる。


「わたし?わたしは……この森の“キルル”……」と名乗り、話続けた。


「きっと、“ありがとう、よくがんばったね”って言っているわ。

だから、あなたは……“あなたを”……許しましょ……

これ以上、傷ついたら皆が悲しむし、傷つく……でしょ?

あなたの心にある嫌な思い出、大変だったことをお友達に話したら、

少しは楽になるはずよ……できるわよね」


ぴょん太は「ともだち?」とつぶやいた。


「そう、今、あなたを枝の下から助けてくれた子たちって、

お友達でしょう?」と、キルルは、ぴょん太にささやいて……

おでこに、そーっとキスして……


ハープの弦を弾かせたような音がして静かに森に消えていった。


それを見ていたサリーとミックは……


「ヨ、ヨヨ妖精が、森の妖精が来たんだー

ぴょん太、お前この森に愛されているんだぞー」と、はしゃぎ、


ぴょん太は、体中の力が抜けていくような気がしていた。


いつの間にか妖精がぴょん太の心に入りこみ、魔物を追い出した。


そして、魔物は静かに春の光で氷がとけ、清らかな水になるように、

光のゆらぎの中にとけていった。


ぴょん太は少し困ったような顔をし、こぶしをにぎりしめながら、

ぽつりぽつりと話し始めた。


「人間たちは、嘘をついたんだ……この森は素敵な場所になる。

生活も食べ物も困らないって……」


サリーがそっと聞いた。「……それで、みんなは信じたの?」


「うん。みんな信じた。だって、その人たちは優しく話していたから……」


ぴょん太の声が小さくなった。


「……でも、それは突然やってきたんだ」


「……何が?」 ミックが自分のしっぽをかたくさせながら聞いた。


「よろいを身につけた人間たちが、大きな鉄の塊を引いて……

木々がなぎ倒され、緑は踏みつぶされ、

仲間の家も、ぼくの家も……なくなってしまったんだ!」


サリーが小さい声で言った。 「……お父さんとお母さんは?……」


ぴょん太の顔に力が入った。


「……みんな、 にげまどいながら…… 人間にとらえられた。

父さんも、 母さんも、 兄妹たちも……」


ミックの目から涙がこぼれそうになった。

「……その日のこと、 まだ聴こえるの?」


ぴょん太は涙が落ちないように……答えた。


「……うん。 雷のような、 あの音が……

ぼくには、まだ聞こえちゃうんだ ぼくには、まだ聞こえちゃうんだ 」


サリーは黒い目をまるくしたまま、 しっぽが震え、何も言えなかった。


「だから…… もうイヤなんだよ! また、 みんなの森にしたいんだ!!!

ただ、ただ、みんながそこにいて、

笑っているだけで……しあわせだったのに……」


ぴょん太は……肩をふるわせている。


「ご、ごめん! ぴょん太のこと、ほんと何も知らなかった。

でも、僕たちもこの森を守るから……」と、

ミックはぴょん太の肩をかたく抱いた。


サリーも、泣きながら声を上げた。


「ぼくもこの森、守るよぉ。だから……ともだちになろう……」


ぴょん太はサリーたちの声を聞いて、スクっと立ち上った。


そして静かに剣を腰に戻し、その腰ベルトをはずして足下に置く。


すると……


足下の草花たちが少し伸びて、その剣を包み込む。


それは剣を隠すというより丁寧に預かるように見えた。


そのとき、かあちゃんがすっと前に出て、

ふわふわの真っ白な長いしっぽで、そっとぴょん太を包んだ。


サリーもミックもかあちゃんのしっぽにもぐりこんだ。

針のような枝葉に傷ついた体がなおっていくのがとても心地よかった。


「だいじょうぶ。もう、ひとりでがんばらなくていいの。」


その言葉は、ふたたび、ぴょん太の小さな心にそっとしみこんだ。


サリーは目をうるませて言った。

「話して、ぴょん太。きみのこと、もっともっと知りたい……」


ぴょん太は、「戦わない」というもくもくさんとの約束を破り、

その結果、さらに多くの仲間を失ってしまったことを悔やんでいた。


それ以来、誰も信じられなくなり、心の魔物が現れるようになったのだという。


とうちゃんがそっと目を閉じた。


「その約束は“戦わないこと”だろう? 辛かったね……。

君の痛みや辛さ、悔しさは、ぼくらにはわからない。」


ぴょん太はその言葉に“はっ”とする。

わからないことをなぜ?言うのかと思った。


「それは、誰のものでもなく、君のものだ……

たぶん、ずーと、わからないままかも知れない。

でもね、君のそばにいることはできる。」


「……わからない、のに……そばに……?」


ぴょん太の声は、今にも消えそうなほど小さかった。

とうちゃんはゆっくりとうなずいた。


「君はもう一人じゃない。友だちもたくさんいるよ。

そのことを信じることが大事なんだよ。

それを失うと、心が弱くなって戦ってしまうんだ。わかるかい?」


「わかっているよ……でも......

仕返しをしたと思うぼく。

もくもくさんと“もう戦わない”と約束した。

だから、もう二度と戦いたくない。

そして、仲間を失いたくない……ぼく。

そして、過去のでき事はしっかりとかみしめて、

忘れないようにしたいと思うぼくがいるんだよ!......


ねえ、おじさん、教えてくれよ。どれがほんとうのぼくなの?

ぼくはどうしたらいいの!?」と、ぴょん太。


「そうだね、いろんなぴょん太くんがいて、どうして良いかわからない……

それはね、君が大人になるということなんじゃないかな?

どれもこれも、ぴょん太くんじゃいけないのかい?


そうして、良くも悪くも思い出がふえて行く……

みんな、かけがえのない大事な経験さ、そう思わない?

だから、おじさんには教えられない。

そのときどき、ぴょん太くんが決めるんだ」と言って、

とうちゃんは、ぴょん太を抱きしめながら、大きな手でぴょん太の頭をなでた。


ぴょん太は思った。この人は人間なんだ……

だけど……信じてもいいかも……と。

ぴょん太は小さの声で言う。


震える声で、言葉を詰まらせながら

「お、おじさん、ぼく生きてみるよ……ウ、ゥゥゥ」と、

涙をとうちゃん胸で吹きとるように顔を埋めた。

とうちゃんの目に森の緑が光って、ぴょん太の白い耳に落ちた。


*****


ミックが「あのデカイ枝、もくもくさんの手のように見えたんだけど……」

サリーもひそひそ声で「ぼくも、そう見えた。……でもねぇ……」

「だよなぁ」と同意はするものの

「偶然だよ!偶然!」と言いながらミックは空を見上げた……


森に明るくあたたかい風が戻り、草花がいっせいに開き、

鳥たちが歌いはじめる。

森の音、風、光が静かに帰ってきた。


******


「……ミック! し、しっぽ! ふわふわになっているよ!」


サリーが叫んだ。 ふたりのしっぽが、かあちゃんのように白く輝いていた。


ぴょん太の毛並みも真っ白に戻り、折れた耳も少しだけ立ち上がっている。


「ぼく……ほんとうに、友だちになっていいの?」

ぴょん太が小さくたずねる。


「もちろん!」

サリーもミックも声をそろえた。


ここまで、ずーと一緒にいた、かあちゃんが、そっとしっぽをふった。

「でも、それに負けない勇気も、きっと誰のなかにもあるのよ。

負けない勇気とは『許す』と言うことかも。相手も自分も……」




第4章:帰還と夢の記憶


森での出来事のあと、みんなすっかり疲れてしまっていた。


ぴょん太は木陰で穏やかな寝息をたて、空は星のきらめきへと変わっていく。


「……ふたりとも、がんばったね」


とうちゃんの声が優しく響いた。

かあちゃんの真っ白なしっぽがゆっくりと伸び、三人をつつみこんでいく。


「……かあちゃんのしっぽ、あったかい……」


ミックが目を細める。

風の音と虫の声が子守唄のように重なり合い、

三人はそのまま深い眠りにおちていった……



目を覚ましたとき、サリーはびっくりした。

そこは見慣れたリビングだったからだ。


けれど、サリーとミックのしっぽは、

銀色とも白とも言えない美しい色に変わっていた。


「……夢じゃなかったんだ……!」


でも、サリーは思った。

「えっとぉ、このしっぽ、いつ、どこで、

なぜこうなったんだっけ?ミック覚えている?」

「って言ったって……???」ミックもはっきり覚えていない。


ふたりは飛び起き、とうちゃんを呼んだ。


「とうちゃん、起きて! すごい冒険してたよね!

それでさ、それでさ、このしっぽどうしたんだっけ?」


とうちゃんはにこっと笑って言った。


「そうだね。大事な体験をしたね。

それはね、ぴょん太くんと友達になった証じゃないかな……

もくもくさんの言葉も覚えてる?」


「うん。心を通わせれば、世界は輝き出すんだよね。」とサリー。

「そっかぁ、ぴょん太くんと友達になったから、

僕たちのしっぽがこんなに輝いているのかぁ」

サリーもミックも目をかがやかせて言った。


窓の外は、夏の雲が光をまとって流れていた。


「幸せになるっていうことは、ときどき、とっても、たいへんなことなんだ。

でもね――それだけ、いま、この時が大事なことなんだよなぁ」と、

とうちゃんは思い出したように言う。


あの旅のあと、不思議なことが起きた。

草木が挨拶をしてくれるようになり、森の声が聞こえるようになった。


一番の変化は、とうちゃんのまなざしだ。

時折遠くを見つめるその瞳の奥には、確かな光があった。


ある日、ぴょん太から風に乗って手紙が届いた。


『ぼく、しっぽを返してもらったよ。新しい友だちもできた。

ときどき泣きそうになるけど、あの言葉を思い出してる。

魔物は誰の心にもいる。

だけど、負けない勇気があることを忘れないで、って』


手紙を読んだサリーとミックは、とうちゃんを見上げた。


「とうちゃん、また旅に出ようね」

「今度は、みんなでもくもくさんの学校に行きたいな」


とうちゃんは静かにうなずいた。


「うん。――いつかまた、あの森で」


窓の外、大きな入道雲が風に流されていく。


でも……。 ミックとサリーは、あることに気づいてしまった。


「あの〜とうちゃんの、しっぽはどうなったんだぁ!?」


急いでとうちゃんの背中を確かめに行ったけれど、

そこにはいつも通りの広くて、あたたかな背中があるだけだった。


サリーとミックは顔を見合わせながら叫んだ。

「もしかして!もしかしてぇー

とうちゃんのしっぽ、向こうの世界に忘れてきたー!?」


おわり……また会おうね。「おーい、しっぽどこー?」


この物語を読んでくれたみんなへ


みんな、物語をさいごまで読んでくれてありがとう!

サリーとミック、そしてぴょん太の冒険はどうだったかな?

みんなには、何でも話せる「友だち」はいるかい?

ちゃんと向き合ってくれる大人はいるかい?

楽しい時に、いっしょに笑いあえる友だちもすてきだけど、もし悲しいことがあった時、こっそり「あのね……」って話せる人がいたら、もっとすてきだよね。

心の中に「魔物」がやってきて、胸がチクチク痛むときは、ひとりでがまんしなくていいんだよ。

ぴょん太がサリーたちにトゲを抜いてもらったみたいに、だれかに話すことで、心はふわりと軽くなるからね。

この世界は、みんなが心を通わせれば、きっともっとキラキラ輝き出すはず。

みんなの背中にも、サリーたちのような、やさしい色のしっぽが見えるかもしれないね。

ところで……あの「とうちゃんのしっぽ」、どこに行っちゃったんだろうね?

もしどこかで見つけたら、こっそり教えてね!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【これを読んでくださった大人の方々へ】


この物語は、もともと紙芝居のようにシンプルな形で、大切なメッセージを伝えたいと思い書き始めました。

しかし書いているうちに、心の中でさまざまな考えが交錯(こうさく)し、いつの間にか長い物語になっていました。

現代では、携帯電話やSNSを通じて簡単にメッセージを発信できます。

でも、その言葉は時に、人を(きず)つける(やいば)にもなりかねません。

親しいと思っていた人が突然牙(きば)をむくような出来事や、信じられない体験をすることもあります。

何が真実で、何を信じればいいのか分からない――

そんな深い悲しみの底なし(ぬま)(おちい)る恐怖を、私はこの物語で描きたかったのです。

この問いを、ぴょん太と、とうちゃんファミリーに(たく)しました。

ぴょん太が抱える「心の魔物(まもの)」は、人を信じることへの恐怖です。

そして、その恐怖は、現代に生きる私たちが直面する「つながりの喪失(そうしつ)」への恐怖とも重なります。

「生きる」ということは、深く支え合うこと。

そして、そのつながりが(こわ)れていくことへの恐怖もまた、私たちの人生の一部です。それこそが、この物語を書いた本当の理由です。

この物語を読んでくださったあなたと一緒に考えたい――

このような恐怖や悲しみに、私たちはどう向き合えばよいのでしょうか。

そして、本当の「生きる」とは何なのでしょうか。

読後に、少しでもその答えを探す手がかりになれば、幸いです。



付録

「みんなの家」とキャラクターイメージ

ログハウス風。

リビング:大きな明るい窓、ソファー、

暖炉=冬:火をつけるとやさしく温かい。

吹き抜けを利用したキャットタワー、古い本棚。

小さなキッチン、壁掛け程度の小さなテレビ。

とうちゃんの部屋:西陽が当たる窓。ベッドと小さなチェストの上に、

かあちゃんの写真。人と動物が自然に共存できる家。


「とうちゃん」

外 見:長髪を後ろで束ね、丸いメガネ、軽く~鼻ヒゲあごヒゲ。

服 装:Tシャツ+ブルージーン。

車いす:電動式、黒いボディにオレンジ色のシート。

“もしもの世界”では意識で“浮く”ように動くこともある。

特 徴:病気で足は不自由。でも心は強く、優しい。

表 情:笑顔が多いけれど、時おりふと「さびしさ」を帯びていたが、

”もしもの世界“でかあちゃんと出会ってから「さびしさ」は消えて行く。

もくもくさんから不思議な力をもらう。自分ではよくわかっていない。


「サリー」

茶トラでハチワレ柄の男の子猫 少し痩せている。四つ足の先が白い。

性 格:少し怖がり、臆病。でも、とてもやさしい心をもつ。

特 徴:表情はまんまるの目が印象的。驚くと耳がピンと立つ。


「ミック」

白黒ブチ柄の男の子猫 少し太っている。

性 格:強がりで負けん気があるが、仲間思い。

特 徴:ときにキリッとした視線、でも愛嬌あり。


「かあちゃん」

人間のような顔(猫耳あり)

長い髪、長く美しい白いしっぽがある。(ときに“ハートの形”にも)

包み込むような母性、優しさと温かさがあふれる。

とうちゃんの大切な女性。パートナー。


「ぴょん太」

本来は真っ白なウサギ。

出会ったとき:赤い傷、目尻も鋭くギラギラしている。小さな剣を腰に下げている。

内 面:人や森を信用できず、心の中に“魔物”を宿している。

かあちゃんに抱かれて涙を流したあと――

傷が癒え、耳も毛並みも元の白うさぎに戻る。瞳に優しい輝きを取り戻す。


「もくもくさん」

天高くそびえる大きな木。森の賢者。

幹に表情のある“仙人のような大きな顔”がある。

顔の位置を上下左右に変えることができる。

葉や根には「知識の実」やエネルギーの源が宿っている。

枝葉のあっちこっちに垂れ下がるツタは子どもたちの遊び場・学校のように使われる。

声:低く優しく、心に響く。


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色やタッチまで指定した挿絵指示書

サリー  :ハチワレ茶色ベースの毛並みに白い足先、しっぽの先が白、

目は琥珀色で少し怯えた表情。


ミック  :白い体に黒いぶち、耳の片方が黒、しっぽは白黒縞模様で少し太め。


とうちゃん:黒とオレンジの電動車いす、頭の後ろで束ねた長髪、丸い眼鏡、

グレーのTシャツにジーパン。


かあちゃん:白猫の長髪女性、薄ピンクのワンピース、猫耳と長く太いしっぽ、

表情は人間っぽく、やさしく包み込む感じ。


ぴょん太   :傷で毛並みが赤く汚れているが、魔物が去った時、真っ白に戻る。


もくもくさん :幹に仙人のような大きな顔を浮かべた巨木、茶をベースとするが所々明るい緑の苔が生えている。温かみのある微笑み、あちらこちらに、つるが垂れている。つるや枝で縄遊び、アスレチック、ブランコ等あそび道具がたくさん。

数百年生きている森の賢者。


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― 新着の感想 ―
久しぶりに読み返しにきたら読みやすくなってて驚きました。 場面ごとの情景やキャラクターの表現がとても伝わってきました。
久しぶりに心がほっこりするような作品だったので感想を残させていただきます。 異世界ものといえば転生した後に最強になって活躍したり、ハーレムでウハウハしたりが多い印象だが、こちらの作品は心に染みるよう…
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