第96話:競技を通じた真の交流
雲の上の、とある爽やかな午後。
訓練場に、天使と悪魔が一緒に集まっていました。
ノエルは、ガブリエル嬢と共に見学に来ています。
今日は、競技祭の練習日でした。
「あら、賑やかですね」
ガブリエル嬢が、小さく言いました。
訓練場では、飛行速度の練習が行われています。
天使たちが、空を勢いよく飛び回っていました。
「速いですね」
ノエルは、感心します。
「ええ」
ガブリエル嬢は、頷きました。
「でも、私には無理そうです」
その正直な言葉に、ノエルは思わず微笑みます。
「ガブリエル嬢は、魔力制御の方ですよね」
「そうですね」
彼女は、少し眠そうに答えます。
「ゆっくりできる種目が良いです」
二人は、訓練場の端に座りました。
木陰が、ちょうど良い涼しさでした。
「では、飛行速度競技の練習を始める」
ミカエルの声が、響きます。
若い天使たちが、スタート位置に並びました。
その中に、魔界の者も数人います。
「よーい……」
ミカエルが、手を上げます。
「スタート!」
一斉に、飛び立ちました。
雲を蹴って、空へと舞い上がります。
ノエルは、その速さに目を見張りました。
あっという間に、遥か上空へ消えていきます。
「すごい……」
隣を見ると、ガブリエル嬢が少し目を閉じていました。
「……ガブリエル嬢?」
「見てますよ」
小さな声が、返ってきます。
「目を閉じた方が、よく見えるのです」
その不思議な理屈に、ノエルは首を傾げました。
でも、彼女らしいと思います。
やがて、選手たちが戻ってきました。
魔界の一人が、最初にゴールします。
「おお、ベルフェゴールが一位か」
ミカエルが、驚いたように言いました。
「努力の成果です!」
ベルフェゴールは、元気に答えます。
「毎日練習しました」
怠惰の悪魔なのに、誰よりも努力している。
ノエルは、その姿が微笑ましいと思いました。
次は、魔力制御の練習です。
的が、空中に浮かんでいます。
「魔力を集中させて、的に当てる」
ウリエルが、説明していました。
「強さではなく、正確さが大切です」
ガブリエル嬢が、少し姿勢を正しました。
「これなら、私でもできそうです」
「見てみますか」
ノエルが、尋ねます。
「ええ」
彼女は、立ち上がりました。
ゆっくりと、練習場所へ向かいます。
ウリエルが、気づいて手を振りました。
「ガブリエル嬢も、やってみますか」
「少しだけ」
彼女は、小さく頷きます。
ウリエルから、魔力の球を受け取りました。
手のひらに、光が宿ります。
ガブリエル嬢は、眠そうに的を見ました。
それから、ふわりと手を動かします。
光が、ゆっくりと飛んでいきました。
まるで、風に乗るように。
的の中心に、静かに当たります。
「お見事です」
ウリエルが、拍手をしました。
周りの天使たちも、拍手します。
ガブリエル嬢は、少し照れたように微笑みました。
「ありがとうございます」
「でも、少し疲れました」
そう言って、また木陰に戻ってきます。
ノエルの隣に、座りました。
「お疲れさまでした」
ノエルが、水を差し出します。
「ありがとう」
ガブリエル嬢は、それを受け取りました。
一口飲んで、小さく息をつきます。
その仕草が、とても優雅でした。
「……尊い」
ノエルは、心の中で呟きます。
次は、戦術シミュレーションの説明でした。
サリエルが、前に出ます。
「この種目は、チーム戦です」
彼女は、真面目な顔で説明します。
「天使と悪魔が、混合チームを作ります」
ノエルは、興味深く聞きました。
天使と悪魔が、一緒に戦うのです。
「作戦を立てて、実行する」
サリエルは、続けます。
「コミュニケーションが、とても大切です」
「面白そうですね」
ガブリエル嬢が、小さく言いました。
「ええ」
ノエルは、頷きます。
その時、レヴィアタンが近づいてきました。
ミカエルと、一緒です。
「ガブリエル様、ノエル」
レヴィアタンは、明るく挨拶します。
「こんにちは」
ガブリエル嬢が、優しく答えました。
「ミカエルさんの飛行、見ましたか」
レヴィアタンの目が、輝いています。
「すごく速かったんです」
「そ、そんなに褒めるな」
ミカエルが、視線を逸らしました。
頬が、少し赤くなっています。
ノエルは、その様子を微笑ましく見ていました。
「でも、本当にすごかったです」
レヴィアタンは、まだ興奮しています。
「私も、あんな風に飛べたらいいのに」
「練習すれば、できるようになる」
ミカエルが、少し優しい声で言いました。
「貴殿なら、すぐに上達するだろう」
「本当ですか」
レヴィアタンが、嬉しそうに尋ねます。
「ああ」
ミカエルは、小さく頷きました。
二人の様子を見て、ガブリエル嬢が微笑みます。
「良い光景ですね」
彼女は、静かに言いました。
「ええ」
ノエルも、同意します。
かつての敵同士が、こうして自然に話している。
それは、とても素敵なことでした。
午後の練習が、続きます。
様々な種目で、天使と悪魔が一緒に汗を流していました。
アスモデウスとサリエルが、戦術の相談をしています。
ラファエルとサタンが、魔力制御のコツを教え合っていました。
「みんな、仲良しですね」
ガブリエル嬢が、嬉しそうに言います。
「そうですね」
ノエルは、温かい気持ちになりました。
競技を通じて、関係が深まっている。
それが、よく分かります。
「ノエル」
ガブリエル嬢が、こちらを向きました。
「あなたも、参加してみませんか」
「僕がですか」
「ええ」
彼女は、微笑みます。
「良い経験になると思いますよ」
ノエルは、少し考えました。
それから、頷きます。
「そうですね」
「やってみます」
「頑張ってください」
ガブリエル嬢は、優しく言いました。
「私は、ここで応援していますから」
その言葉に、ノエルは勇気が湧きました。
練習に参加します。
最初は、飛行速度から。
スタート位置に並ぶと、隣に魔界の者がいました。
マモンです。
「一緒に頑張りましょう」
マモンが、気さくに言います。
「はい」
ノエルは、笑顔で答えました。
「スタート!」
ミカエルの声で、飛び立ちます。
風を切って、空へ。
速く飛ぶのは、難しい。
でも、楽しい。
ゴールすると、マモンが笑顔で待っていました。
「お疲れさま」
「お互い、よく頑張りましたね」
「ありがとうございます」
ノエルは、嬉しくなります。
木陰に戻ると、ガブリエル嬢が拍手してくれました。
「お疲れさまです」
彼女は、優しく微笑みます。
「ありがとうございます」
ノエルは、隣に座りました。
「どうでしたか」
「楽しかったです」
ノエルは、正直に答えます。
「魔界の方々と、一緒に競技するのは新鮮でした」
「そうでしょう」
ガブリエル嬢は、頷きます。
「競技は、心を近づけてくれますから」
夕方になりました。
練習が、終わりに近づいています。
「では、今日はここまで」
ミカエルが、宣言しました。
みんなが、集まってきます。
天使も、悪魔も。
「お疲れさまでした」
ラファエルが、穏やかに言います。
「はい、お疲れさまでした」
サタンが、答えます。
みんなの顔が、充実感に満ちていました。
ノエルとガブリエル嬢も、訓練場を後にします。
ゆっくりと、執務室へ向かいました。
「今日は、良い日でしたね」
ガブリエル嬢が、静かに言います。
「ええ」
ノエルは、頷きました。
競技を通じて、心が通い合う。
その様子を、たくさん見ました。
執務室に着くと、ガブリエル嬢は雲クッションに向かいます。
「たくさん見て、疲れました」
彼女は、横になりました。
「ゆっくり休んでください」
ノエルは、優しく言います。
「ええ」
ガブリエル嬢は、目を閉じます。
「でも、とても良い疲れです」
その言葉に、ノエルは微笑みました。
窓の外では、夕日が雲海を染めています。
美しい光景でした。
今日見た、たくさんの笑顔。
天使と悪魔が、一緒に汗を流す姿。
競技祭は、きっと素晴らしいものになる。
ノエルは、そう確信していました。
## あとがき
競技の練習を通じて、自然に育まれる友情。天使と悪魔が共に汗を流す姿に、平和の形が見えてきます。ガブリエル嬢の優雅な的当ても、素敵でした。




