第84話:異文化グルメとの出会い
魔界の農園に、朝の光が降り注いでいます。
「こちらが、私の自慢の畑です」
ベルゼブブが、嬉しそうに案内してくれました。
広い畑には、様々な野菜が育っています。
緑の葉が、風に揺れていました。天界で見たことのない野菜も、たくさんあります。
「全て、無農薬です」
ベルゼブブが、誇らしげに言います。
「有機栽培が、一番ですから」
その声に、情熱がありました。
ノエルは、畑を見渡します。
丁寧に手入れされていました。雑草もなく、土も柔らかそうです。愛情を込めて育てられているのが、伝わってきます。
「土作りから、こだわっているのです」
ベルゼブブが、しゃがみ込みます。
「良い土が、良い野菜を育てます」
その手が、優しく土に触れました。
ガブリエル嬢は、畑の端で立っています。
朝の光を浴びて、少し眠そうでした。でも、穏やかに微笑んでいます。
「収穫してみますか」
ベルゼブブが、ノエルに尋ねました。
「はい」
ノエルは、頷きます。
教えてもらいながら、野菜を収穫していきます。
手に取ると、みずみずしかったです。新鮮な香りが、ふわりと広がります。
「これは、魔界特有の野菜です」
ベルゼブブが、紫色の野菜を手に取ります。
「栄養価が、とても高いのですよ」
その野菜は、不思議な形をしていました。
天界では、見たことがありません。でも、美しい色をしています。
収穫を終えると、次は調理場へ。
「今日は、特別なお料理を」
ベルゼブブが、エプロンを身につけます。
調理が、始まりました。
手際よく、野菜を切っていきます。無駄のない動きです。
鍋に、野菜を入れていきます。
優しい火加減で、じっくりと煮込んでいきました。急がない調理——時間をかけて、丁寧に作っています。
良い香りが、漂ってきました。
ノエルは、その香りに包まれます。体が、ゆるりと温まっていくようでした。
「有機栽培の野菜は、味が違うのです」
ベルゼブブが、満足そうに言います。
「素材の味が、ちゃんと生きています」
料理が、完成しました。
テーブルに、並べられていきます。
色とりどりの野菜料理——どれも、美しい盛り付けです。
「さあ、召し上がってください」
ベルゼブブが、席を勧めてくれました。
三人で、席に着きます。
窓からは、農園が見えました。自分たちで収穫した野菜が、今ここにある——なんだか、不思議な気持ちです。
「いただきます」
ノエルは、最初の一口を食べました。
優しい味——。
野菜の甘みが、口の中に広がります。天界の料理とは、少し違う味付けです。でも、美味しいことに変わりありません。
ガブリエル嬢も、ゆっくりと食べています。
小さな口で、少しずつ。彼女のペースで、丁寧に味わっていました。
「美味しいですね」
ノエルは、心から言います。
「ありがとうございます」
ベルゼブブが、嬉しそうに微笑みました。
食事は、ゆるやかに進んでいきます。
急ぐ必要は、ありません。会話を楽しみながら、料理を味わう——心地よい時間です。
「魔界の野菜は、天界とは違いますね」
ノエルが、言いました。
「ええ」
ベルゼブブが、頷きます。
「土が違うと、味も変わります」
環境——それが、食べ物を作るのですね。
ノエルは、納得しました。魔界の土、魔界の水、魔界の空気。それらが、この味を生み出しているのです。
食事が終わると、お茶の時間です。
「魔界のハーブティーです」
ベルゼブブが、淹れてくれました。
カップから、良い香りが立ち上ります。
一口飲むと、すっきりとした味わいでした。でも、後味は優しくて、体に染み渡っていきます。
ガブリエル嬢は、カップを両手で包んでいます。
温かさを感じながら、うとうとし始めていました。満腹で、眠くなったのでしょう。
「お昼寝、しますか」
ベルゼブブが、優しく尋ねます。
「……少しだけ」
ガブリエル嬢が、小さく頷きました。
ソファに移動して、彼女は目を閉じます。
すぐに、穏やかな寝息が聞こえてきました。
ノエルとベルゼブブは、静かに会話を続けます。
ガブリエル嬢を起こさないように、小声で。
「食文化は、面白いですね」
ノエルが、言います。
「ええ」
ベルゼブブが、微笑みます。
「文化の違いを、一番感じられるのが食事です」
その言葉に、納得しました。
食べ物——それは、その土地の全てを表しているのです。
時間が、ゆっくりと流れていきます。
ガブリエル嬢の寝息が、静かに響いていました。
「楽しかったです」
ノエルは、心から言いました。
「こちらこそ」
ベルゼブブが、嬉しそうに答えます。
「また、来てくださいね」
窓の外では、農園が光を浴びています。
野菜たちが、静かに育っていました。
ノエルは、思いました。
食を通じて、人は繋がるのだと。天界と魔界——異なる世界でも、美味しいものを分け合えば、心は近づくのだと。
ガブリエル嬢が、小さく寝返りを打ちました。
幸せそうな顔で、まどろんでいます。
ノエルは、微笑みます。
こんな穏やかな時間——これも、平和の形なのでしょう。
魔界の午後は、静かに過ぎていきます。
## あとがき
土が違えば、味も変わる。食文化を通じて、世界の多様性を味わいました。美味しいものを分け合う時、心の距離は自然に縮まります。次の物語では、また新しい出会いが待っています。




