第70話:次なる扉の前で
雲の上の、とある静かな午後。ノエルは、執務室で書類を整理していました。
「ノエル」ガブリエル嬢の声が、聞こえます。
「はい」
「今日、評議会があります」彼女は、窓辺から振り返ります。「一緒に来てくださいね」
「わかりました」
大聖堂の評議会室へ向かうと、7大天使がすでに揃っていました。いつもより、少し緊張した雰囲気です。
「では、始めよう」ミカエルが、静かに言います。
全員が、席に着きます。ノエルは、いつものように傍聴席に座りました。
「本日の議題は」サリエルが、書類を開きます。「天魔平和協定記念式典の開催について」
ノエルは、少し驚きました。魔界との式典。それは、大きな出来事です。
「協定が結ばれてから、長い年月が経った」ミカエルの声が、威厳を持って響きます。「今こそ、本格的な交流を始める時だ」
「賛成です」ラファエル師匠が、穏やかに言います。「平和は、育てていくものですから」
「式典の準備は、大変でしょうね」ウリエルが、冷静に言います。
「ええ」サリエルが、頷きます。「でも、やる価値があります」
ガブリエル嬢が、静かに口を開きます。
「魔界との交流」彼女の声が、穏やかに響きます。「それは、大切なことです」
全員が、彼女の方を向きます。
「かつて、私たちは戦いました」ガブリエル嬢は、続けます。「でも、今は違います。共に、未来を作る時です」
「その通りだ」ミカエルが、力強く頷きます。
「では、式典の開催を決定します」サリエルが、記録を取ります。
「異議なし」全員の声が、揃います。
評議会は、続きます。式典の日程、準備の分担、魔界との連絡方法。一つ一つ、丁寧に決めていきました。
ノエルは、その様子を見ていました。みんな、真剣です。平和のために、力を尽くそうとしています。
やがて、評議会が終わります。
「お疲れさまでした」ガブリエル嬢が、立ち上がります。
執務室に戻る道。ノエルは、少し緊張していました。
「魔界との交流」ノエルが、小さく呟きます。
「どうかしましたか」ガブリエル嬢が、優しく尋ねます。
「いえ、その」ノエルは、正直に言います。「魔界のこと、あまり知らなくて」
「そうですね」ガブリエル嬢は、微笑みます。「では、少しお話ししましょうか」
執務室に戻ると、二人で窓辺に立ちます。ガブリエル嬢が、ゆっくりと話し始めました。
「魔界は、天界と同じように、秩序のある世界です」
「同じように、ですか」
「ええ」彼女は、頷きます。「7大悪魔が統治していて、それぞれに役割があります」
「悪魔」ノエルは、その言葉に少し緊張します。
「怖がらなくても、大丈夫ですよ」ガブリエル嬢は、優しく笑います。「みんな、良い方々です」
「そうなのですか」
「ええ」彼女の声が、温かく響きます。「名前に惑わされないでください。大切なのは、その人自身ですから」
ノエルは、その言葉に頷きました。確かに、そうかもしれない。
「ガブリエル嬢は、魔界の方と会ったことがあるのですよね」
「ええ」彼女は、遠くを見る目をします。「昔、戦いました」
「それは、聞いていました」ノエルは、頷きます。「では、今も会われることがあるのですか」
「時々」ガブリエル嬢の声が、優しくなります。「今は、友人です」
その言葉に、ノエルは胸が温かくなります。かつての敵が、今は友人。
「きっと、ノエルも仲良くなれますよ」ガブリエル嬢は、微笑みます。
「そうでしょうか」
「ええ」彼女は、力強く頷きます。「ノエルは、優しい人ですから」
ノエルの胸が、温かくなります。彼女の言葉が、勇気をくれました。
その日の夕方。パヌエルが、執務室を訪ねてきます。
「ガブリエル嬢、ノエルさん」彼は、嬉しそうに言います。「式典の準備、手伝ってください」
「もちろん」ガブリエル嬢が、答えます。
翌日から、準備が始まります。会場の設営、飾り付け、プログラムの作成。みんなで、協力して進めていきました。
「こっちの飾りは、どうでしょう」パヌエルが、尋ねます。
「良いですね」ガブリエル嬢が、微笑みます。
「魔界の方も、喜んでくれるかな」若い天使が、少し心配そうに言います。
「大丈夫ですよ」ガブリエル嬢は、優しく答えます。「きっと、喜んでくれます」
ノエルも、準備を手伝います。書類の整理、物品の運搬。一つ一つ、丁寧に。
作業の合間に、ミカエルと話す機会がありました。
「ノエル、魔界のことは知っているか」
「少しだけです」ノエルは、正直に答えます。
「そうか」ミカエルは、少し考えます。「では、一つだけ言っておこう」
「はい」
「魔界の者たちも、我々と同じだ」ミカエルの声が、真剣になります。「それぞれに、役割があり、誇りがある」
「はい」
「だから」彼は、続けます。「対等に、接すること。それが大切だ」
ノエルは、深く頷きました。ミカエルの言葉が、心に残ります。
また別の日、ラファエル師匠とも話しました。
「ノエル、緊張していますか」
「少しだけです」ノエルは、正直に答えます。
「そうですか」師匠は、優しく微笑みます。「でも、大丈夫。焦らず、優しく、着実に」
「はい」
「新しい出会いは、楽しいものですよ」師匠の声が、温かく響きます。
準備は、順調に進みました。みんなが、力を合わせて。
ある日の午後。ノエルは、ガブリエル嬢と一緒に会場を見に行きます。
飾り付けが、ほぼ完成していました。天界と魔界、両方のシンボルが並んでいます。
「綺麗ですね」ノエルが、言います。
「ええ」ガブリエル嬢は、嬉しそうに微笑みます。「みんな、頑張りました」
二人は、しばらく会場を眺めていました。
「ノエル」ガブリエル嬢が、ふと言います。
「はい」
「これから、色々なことがあると思います」彼女の声が、優しく響きます。「でも、一緒に乗り越えましょうね」
「はい」ノエルは、心から答えます。
ガブリエル嬢の言葉が、温かい。どんなことがあっても、彼女と一緒なら。そう思えました。
尊い、と。心の中で、そっと呟きます。
執務室に戻ると、ガブリエル嬢は窓辺に座ります。
「……少し、疲れました」小さな声が、聞こえます。
「お昼寝なさいますか」
「ええ」彼女は、微笑みます。「でも、その前に」
「はい」
「ノエル、ありがとう」ガブリエル嬢の声が、温かく響きます。「いつも、そばにいてくれて」
「いえ」ノエルは、照れます。「こちらこそ」
「これからも」彼女は、優しく微笑みます。「よろしくお願いしますね」
「はい」
ガブリエル嬢は、雲クッションに体を預けます。そして、目を閉じました。すぐに、穏やかな寝息が聞こえてきます。
ノエルは、そっと見守ります。新しい出会いが、待っています。魔界との交流。それは、きっと新しい世界の始まり。
でも、ガブリエル嬢がそばにいる。それが、何より心強い。
窓の外では、雲海が穏やかに流れています。新しい扉の前で、ノエルは静かに決意を固めました。
今日も、良い一日でした。そう思いながら、ノエルは自分の仕事に戻りました。
## あとがき
新しい出会いへの準備。少し緊張するけれど、みんなと一緒なら大丈夫。そんな温かい気持ちに包まれた一日でした。




