第68話:冬至の光祭り
雲の上の、とある賑やかな朝。廊下を歩くと、あちこちで準備の声が聞こえてきました。
「こっちの飾りは、もう少し高く」
「光の球は、もっと必要かな」
今日は、冬至の光祭り。天界で最も大切な行事の一つです。
執務室に戻ると、ガブリエル嬢が窓辺に立っていました。外を、じっと見つめています。
「ガブリエル嬢」ノエルは、声をかけます。
「あら、ノエル」彼女は、振り返って微笑みます。「準備、進んでいますね」
「はい。みんな、張り切っています」
「そうですね」ガブリエル嬢の声が、優しく響きます。「一年で一番大切な日ですから」
その時、扉がノックされました。パヌエルが、弾んだ様子で入ってきます。
「ガブリエル嬢、ノエルさん」彼は、嬉しそうに言います。「飾り付け、手伝ってもらえますか」
「もちろん」ガブリエル嬢は、すぐに頷きました。
中央広場へ向かうと、すでに大勢の天使が集まっていました。ミカエル、ラファエル師匠、ウリエル、サリエル。みんな、準備を手伝っています。
「おお、ガブリエル嬢も来たか」ミカエルが、高いところで飾りを吊るしながら言います。
「お手伝いに来ました」ガブリエル嬢が、答えます。
「では、こちらをお願いできますか」ウリエルが、光の球を持ってきます。「これを、あちらに並べていただけると」
「わかりました」ガブリエル嬢は、光の球を受け取ります。
ノエルも、飾り付けを手伝います。色とりどりの光の飾り。雲で作られた装飾。全てが、美しく配置されていきました。
「サリエル、そっちは右だ」ミカエルが、上から声をかけます。
「え、右ですか」サリエルは、慌てて向きを変えます。「こちらでしょうか」
「そうだ」
みんなが、わいわいと話しながら作業をしています。賑やかで、楽しい雰囲気でした。
ガブリエル嬢が、光の球を丁寧に並べています。一つ一つ、きちんと配置していきました。
「ガブリエル嬢、お上手ですね」若い天使が、感心しています。
「ありがとう」彼女は、優しく微笑みます。
ノエルは、その様子を見ていました。みんなと一緒に作業をする彼女。楽しそうで、穏やかで。
尊い、と。心の中で、そっと呟きます。
昼になって、準備が一段落しました。みんなで、お昼休憩を取ります。
「お疲れさまでした」パヌエルが、みんなにお茶を配ります。
「ありがとう」ガブリエル嬢は、お茶を受け取りました。
みんなで、輪になって座ります。準備の話、祭りの話。会話が、弾んでいきました。
「今年の飾り付けは、特に綺麗だな」ミカエルが、満足そうに言います。
「みんなで頑張りましたからね」ラファエル師匠が、のんびりと答えます。
「夜の光祭り、楽しみです」サリエルが、嬉しそうに言いました。
ガブリエル嬢は、お茶を飲みながら微笑んでいます。でも、少し眠そうな様子です。
「ガブリエル嬢、大丈夫ですか」ノエルが、心配そうに尋ねます。
「ええ」彼女は、小さく頷きます。「今日は、最後まで起きていますから」
「本当ですか」パヌエルが、驚いたように言います。「珍しいですね」
「冬至の光祭りですから」ガブリエル嬢は、真面目な顔で言いました。「最後まで、ちゃんと見ます」
みんなが、温かく笑います。ガブリエル嬢らしい決意表明でした。
午後も、準備は続きます。最終確認をして、細かい調整をして。全てが、完璧に整っていきました。
やがて、夕暮れ時。空が、オレンジ色に染まっていきます。
「そろそろ、始まりますね」ウリエルが、静かに言います。
天使たちが、中央広場に集まり始めました。みんな、正装をしています。祭りを、心待ちにしているようでした。
ガブリエル嬢とノエルも、広場に立ちます。周りには、たくさんの天使たち。
「綺麗ですね」ガブリエル嬢が、小さく言います。
準備した飾りが、夕暮れの光に照らされて輝いていました。まるで、星空のようです。
やがて、空が暗くなっていきます。冬至。一年で最も光が弱まる日。
その時、ミカエルが前に出ました。
「では、冬至の光祭りを始める」彼の声が、威厳をもって響きます。
全ての天使が、静かになります。そして、一斉に手を掲げました。
光が、生まれます。一人一人の手のひらから、小さな光の球が浮かび上がりました。
ノエルも、手を掲げます。温かい光が、手のひらに現れます。
ガブリエル嬢の手にも、美しい光が灯りました。その光が、とても優しくて。
無数の光の球が、空に浮かんでいきます。広場中が、光に包まれました。
「綺麗……」あちこちから、声が聞こえます。
光の球は、ゆっくりと舞い上がります。そして、空に大きな円を描きました。
その光景が、息を呑むほど美しい。ノエルは、ただ見上げていました。
ガブリエル嬢も、光を見上げています。その横顔が、光に照らされて輝いていました。
やがて、音楽が始まります。竪琴の音色。優しいメロディが、広場に響きました。
天使たちが、歌い始めます。光を讃える歌。伝統的な旋律。みんなの声が、美しく重なっていきました。
ガブリエル嬢も、小さく歌っています。その声が、優しくて温かい。
ノエルも、一緒に歌います。周りのみんなと、声を合わせて。
歌が終わると、拍手が起こりました。そして、また新しい歌が始まります。
祭りは、賑やかに続きました。歌、踊り、光の演出。全てが、美しく調和していきます。
「さあ、みんなで輪になって」パヌエルが、嬉しそうに言います。
天使たちが、大きな輪を作ります。ガブリエル嬢も、その中に入りました。ノエルも、隣に立ちます。
音楽に合わせて、みんなで踊ります。簡単なステップ。でも、みんなで踊ると楽しい。
ガブリエル嬢も、笑顔で踊っています。いつもより、ずっと活発です。
「ガブリエル様、お上手ですね」若い天使が、嬉しそうに言います。
「ありがとう」彼女は、少し照れたように笑います。
踊りが終わると、また拍手。みんなの顔が、喜びに輝いていました。
「では、光の献上を」ウリエルが、静かに言います。
中央に、大きな台座が置かれました。そこに、一人ずつ光の球を置いていきます。
順番に、天使たちが光を献上していきます。台座が、どんどん明るくなっていきました。
やがて、ガブリエル嬢の番になります。彼女は、静かに前に出ました。
そっと、光の球を置きます。その瞬間、台座が一層明るく輝きました。
みんなから、静かな拍手が起こります。ガブリエル嬢は、深くお辞儀をして戻ってきました。
ノエルの番も来ます。緊張しながら、光の球を置きました。
台座は、もう眩しいほどに輝いています。全ての天使の光が、一つになって。
「美しい」ガブリエル嬢が、小さく呟きます。
全ての天使が、光を献上し終わりました。台座の光が、空高く昇っていきます。
そして、大きな光の花になって、空に咲きました。
「わあ」歓声が、あちこちから上がります。
光の花が、ゆっくりと広がっていきます。無数の光の粒になって、降り注ぎました。
その光が、みんなを優しく包みます。温かくて、柔らかい光。
「冬至の光祭り、大成功ですね」ラファエル師匠が、嬉しそうに言います。
「ああ」ミカエルも、満足そうに頷きます。
祭りは、深夜まで続きました。でも、ガブリエル嬢はまだ起きています。
「ガブリエル嬢、眠くありませんか」ノエルが、心配そうに尋ねます。
「少しだけ」彼女は、正直に答えます。「でも、大丈夫です」
「すごいですね」パヌエルが、感心しています。「いつもなら、とっくに眠っているのに」
「今日は特別ですから」ガブリエル嬢は、微笑みます。
やがて、祭りも終わりに近づきました。最後の歌が、静かに歌われます。
みんなで、声を合わせて。光を讃えて。一年の感謝を込めて。
歌が終わると、静寂が訪れます。そして——
「冬至の光祭りを、これで終わる」ミカエルの声が、静かに響きました。
拍手。大きな拍手が、広場を満たします。
みんなの顔が、満足そうです。良い祭りだった。そんな思いが、伝わってきました。
「お疲れさまでした」ガブリエル嬢が、周りの天使たちに言います。
「ガブリエル様も、お疲れさまでした」みんなが、嬉しそうに返します。
ゆっくりと、天使たちが帰っていきます。ノエルとガブリエル嬢も、執務室へと戻りました。
部屋に入ると、ガブリエル嬢はすぐに雲クッションに座ります。
「……ふう」大きな息が、聞こえました。
「お疲れですか」ノエルが、尋ねます。
「とても」彼女は、正直に答えます。「でも、楽しかったです」
「最後まで起きていましたね」
「ええ」ガブリエル嬢は、嬉しそうに微笑みます。「頑張りました」
ノエルは、微笑みます。彼女が、こんなに長く起きていたのは初めて見ました。
「綺麗でしたね」ガブリエル嬢が、窓の外を見ます。「光の花」
「はい」ノエルも、頷きます。
「来年も」彼女の声が、優しく響きます。「また、みんなで祝いたいですね」
「はい」
ガブリエル嬢は、そのまま目を閉じました。すぐに、穏やかな寝息が聞こえてきます。
ノエルは、そっと毛布を掛けます。今日は、本当によく頑張りました。
窓の外では、まだ光の余韻が残っていました。冬至の光祭り。みんなで作り上げた、美しい祭典。
ガブリエル嬢と一緒に、最初から最後まで。その時間が、とても温かくて。
尊い、と。心の中で、そっと呟きます。
今日も、良い一日でした。いえ、特別な一日でした。そう思いながら、ノエルは静かに微笑みました。
## あとがき
一年で最も大切な祭り。みんなで作り上げた光の祭典。珍しく最後まで起きていたガブリエル嬢の姿が、心に残る特別な夜となりました。




