第65話:ウリエルの審判の炉
雲の上の、とある静かな朝。ガブリエル嬢が、一通の手紙を読んでいました。
「……ノエル」
「はい」
「ウリエルから、お茶会のお誘いです」彼女は、手紙を見せます。「今日の午後、いかがですか」
ノエルは、少し驚きました。ウリエルのお茶会は、いつも完璧だと聞いています。
「光栄です」
「では、参りましょう」ガブリエル嬢は、優しく微笑みました。
こうして、二人はウリエルの私室へと向かいます。扉をノックすると、すぐに返事が返ってきました。
「どうぞ」
部屋の中は、整然と整理されていました。本棚には、法規の書物が並んでいます。でも、一角には——美しい茶器が、丁寧に飾られていました。
「いらっしゃいませ」ウリエルが、冷静な表情で迎えます。「お待ちしていました」
「お招き、ありがとうございます」ガブリエル嬢が、小さくお辞儀をします。
部屋の中央に、小さなテーブルが用意されていました。白い布がかけられ、繊細な茶器が並んでいます。お菓子も、美しく盛り付けられていました。
「どうぞ、お座りください」ウリエルの声が、穏やかに響きます。
二人は、席に着きます。ウリエルが、丁寧にお茶を淹れ始めました。その動作が、とても優雅です。
「このお茶は、天界の南部で採れたものです」ウリエルが、説明します。「香りが、とても良いのですよ」
茶器から、ふわりと良い香りが立ち上ります。ノエルは、その香りに心が落ち着きました。
「素敵な香りですね」ガブリエル嬢が、嬉しそうに言います。
「ありがとうございます」ウリエルは、微笑みました。普段の冷静な表情とは、少し違います。お茶のことを話す時は、彼女の目が輝いていました。
お茶が、静かに注がれます。美しい琥珀色の液体が、茶碗を満たしていきました。
「どうぞ」ウリエルが、二人に茶碗を差し出します。
ガブリエル嬢が、そっと茶碗を手に取りました。一口、飲みます。
「……美味しい」小さな声が、聞こえました。
ウリエルの表情が、ふわりと和らぎます。「そう言っていただけると、嬉しいです」
ノエルも、お茶を飲みました。確かに、とても美味しい。香りが口の中に広がって、心が温かくなります。
「お菓子も、どうぞ」ウリエルが、皿を勧めます。
小さな雲菓子が、綺麗に並んでいました。一つ一つが、丁寧に作られています。
ガブリエル嬢が、一つを手に取ります。小さく、口に運びました。
「……これも、美味しいです」彼女の顔が、幸せそうです。
ノエルは、その様子を見ていました。お茶とお菓子を楽しむガブリエル嬢の表情。とても、穏やかで。
尊い、と。心の中で、そっと呟きます。
「ガブリエル様は、お茶がお好きですか」ウリエルが、尋ねました。
「ええ」ガブリエル嬢は、優しく頷きます。「こうして、ゆっくりお茶を飲む時間が好きです」
「私も、同じです」ウリエルの声が、温かく響きました。「お茶の時間は、心が落ち着きます」
二人の会話が、静かに続きます。お茶の種類、淹れ方、お菓子との組み合わせ。ウリエルの知識は、とても深いようでした。
「この茶器は、とても古いものです」ウリエルが、茶碗を見せます。「代々、受け継がれてきました」
繊細な模様が、描かれています。ガブリエル嬢が、それを丁寧に見つめていました。
「美しいですね」
「ありがとうございます」ウリエルは、嬉しそうに微笑みます。「大切に、使わせていただいています」
お茶会の雰囲気が、とても穏やかでした。普段は冷静で知的なウリエル。でも、お茶のことを話す時の彼女は、とても優しい表情をしています。
「ウリエルは、いつからお茶を」ガブリエル嬢が、尋ねます。
「昔からです」ウリエルは、少し遠くを見る目をしました。「審判の仕事は、時に心が疲れます。そんな時、お茶が心を癒してくれるのです」
「そうなのですね」ガブリエル嬢は、優しく頷きます。
「正義と慈悲のバランスは、難しいです」ウリエルの声が、静かに響きます。「でも、お茶を淹れる時間があると、また頑張れます」
ノエルは、その言葉に深く頷きました。誰にでも、心を休める時間が必要なのだと。
「ノエルさんは、どうですか」ウリエルが、こちらを見ます。
「とても、美味しいです」ノエルは、素直に答えました。「こんなに丁寧に淹れられたお茶は、初めてです」
「それは良かった」ウリエルは、微笑みます。「お茶は、心を込めて淹れることが大切なのです」
その言葉が、温かくて。ノエルは、ウリエルの優しさを改めて感じました。
お茶が、もう一杯注がれます。ガブリエル嬢が、それを嬉しそうに受け取りました。
「ウリエルのお茶会は、いつも素晴らしいですね」彼女の声が、優しく響きます。
「ありがとうございます」ウリエルの表情が、ふわりと和らぎました。「また、いつでもいらしてください」
「はい」ガブリエル嬢は、小さく頷きます。
お茶会は、静かに続きました。三人で、ゆっくりとお茶を楽しみます。時々、雲海の話や、天界の日常の話。会話は、穏やかに流れていきました。
やがて、ガブリエル嬢が小さくあくびをします。
「あら」彼女は、少し照れたように笑いました。「すみません」
「いえ」ウリエルは、優しく微笑みます。「お茶を飲むと、眠くなりますよね」
「ええ」ガブリエル嬢は、正直に頷きます。「とても、リラックスしてしまって」
「それは、良いことです」ウリエルの声が、温かく響きました。「心が、休まっている証拠ですから」
ノエルは、その会話を微笑ましく聞いていました。ガブリエル嬢らしい。お茶会でも、眠くなってしまう。
でも、それを優しく受け入れるウリエル。二人の友情が、とても美しく見えました。
「では、そろそろ」ガブリエル嬢が、立ち上がります。
「ありがとうございました」ウリエルが、深くお辞儀をします。「また、お越しください」
「はい」ガブリエル嬢は、優しく微笑みます。「とても、楽しかったです」
「ノエルさんも、ありがとうございました」ウリエルが、こちらを見ます。
「こちらこそ」ノエルは、お辞儀をしました。「素晴らしいお茶会でした」
部屋を出ると、廊下がありました。二人で、ゆっくりと歩きます。
「ウリエルのお茶会、良かったですね」ノエルが、言います。
「ええ」ガブリエル嬢は、嬉しそうに微笑みます。「ウリエルは、お茶のことになると、とても情熱的です」
「そうですね」
「普段は冷静なのに」ガブリエル嬢は、くすりと笑います。「そのギャップが、可愛らしいです」
ノエルは、その言葉に微笑みます。確かに、ウリエルの新しい一面を見ることができました。
しばらく歩いて、執務室に戻ります。ガブリエル嬢は、すぐに雲クッションに座りました。
「……ふう」小さな息が、聞こえます。
「お疲れですか」ノエルが、尋ねます。
「少しだけ」ガブリエル嬢は、優しく微笑みます。「でも、良い時間でした」
そして、目を閉じます。お茶の余韻が、まだ心に残っているようでした。
「……おやつの時間になったら」いつもの言葉が、聞こえます。「起こしてくださいね」
「はい」ノエルは、優しく答えました。
窓の外では、雲海が穏やかに流れています。静かな午後が、ゆっくりと過ぎていきました。
ウリエルのお茶会での、穏やかな時間。丁寧に淹れられたお茶。美しい茶器。そして、ウリエルの優しさ。
全てが、ノエルの心に温かく残っています。今日も、良い一日でした。そう思いながら、ノエルは自分の仕事に戻りました。
## あとがき
完璧なお茶会での、静かで優雅な時間。ウリエルの情熱と優しさに触れて、心が温まる午後となりました。お茶の香りが、まだ心に残っています。




