第64話:ラファエルの治癒の間
雲の上の、とある静かな午後。
ガブリエル嬢が、窓辺でお茶を飲んでいました。
「……ノエル」
彼女が、ふと呟きます。
「はい」
「今日は、ラファエルのところへ行きませんか」
ガブリエル嬢は、優しく微笑みます。
「たまには、治癒を受けに」
「治癒を、ですか」
ノエルは、少し驚きました。
「ええ」
彼女は、小さく頷きます。
「疲れた時は、ラファエルのところが一番ですから」
こうして、二人は治癒の間へと向かいました。
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温かい光に満ちた、静かな部屋です。
扉を開けると、柔らかい香りが漂ってきました。
「やあ、いらっしゃい」
ラファエル師匠が、穏やかに迎えてくれます。
「こんにちは」
ガブリエル嬢が、微笑みます。
「今日は、お疲れですか」
師匠が、優しく尋ねました。
「少しだけ」
彼女は、正直に答えます。
「昨日、訓練場で体を動かしましたから」
「それは、それは」
師匠は、微笑みます。
「では、ゆっくりしていってください」
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治癒の間には、いくつかベッドが置かれていました。
ガブリエル嬢が、一つに座ります。
「どうぞ、横になってください」
師匠が、優しく言いました。
「はい」
彼女は、ゆっくりと横になります。
師匠が、そっと手をかざしました。
温かい光が、ガブリエル嬢を包みます。
「……気持ち良い」
小さな声が、聞こえました。
ノエルは、少し離れた場所で見守っています。
治癒の光が、とても優しくて。
「ノエルも、どうですか」
師匠が、こちらを見ます。
「え」
「せっかくですから」
師匠は、微笑みました。
「治癒は、疲れを取るだけではありません。心も、癒すものです」
ノエルは、少し考えます。
そして、頷きました。
「では、お願いします」
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別のベッドに、ノエルは座ります。
「では、リラックスしてください」
師匠の声が、穏やかに響きました。
ノエルは、目を閉じます。
温かい光が、体を包みました。
不思議と、体の緊張がほどけていきます。
「どうですか」
師匠が、優しく尋ねます。
「とても……温かいです」
ノエルは、素直に答えました。
「そうですか」
師匠は、嬉しそうに微笑みます。
「それなら、良かった」
しばらく、静かな時間が流れます。
温かい光の中で、ノエルの心が落ち着いていきました。
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治癒が終わると、ノエルは目を開けます。
「……すっきりしました」
思わず、そう言いました。
「それは良かった」
師匠が、微笑みます。
隣を見ると、ガブリエル嬢がまだ横になっていました。
目を閉じて、穏やかに眠っています。
「あら」
師匠が、小さく笑います。
「眠ってしまいましたね」
「いつものことです」
ノエルは、微笑みます。
「ガブリエル様は、よくここで眠られます」
師匠が、優しく言いました。
「治癒の後は、特に」
ノエルは、彼女を見ます。
安らかな寝顔。穏やかな呼吸。
尊い、と。
心の中で、そっと呟きました。
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「少し、お茶でもどうですか」
師匠が、誘ってくれます。
「はい」
治癒の間の隅に、小さなテーブルがありました。
師匠が、お茶を用意してくれます。
「ノエルは、近侍の仕事、順調ですか」
師匠が、尋ねました。
「はい」
ノエルは、頷きます。
「ガブリエル嬢のおかげで」
「そうですか」
師匠は、嬉しそうに微笑みます。
「ガブリエル様も、ノエルが来てから、より穏やかになられました」
「そうなのですか」
「ええ」
師匠は、お茶を飲みます。
「前よりも、よく笑われるようになりました」
ノエルは、少し驚きます。
自分が、そんな影響を与えているなんて。
「ガブリエル様は、優しい方です」
師匠の声が、温かく響きます。
「でも、時々寂しそうにされていました」
「寂しそう……」
「ええ」
師匠は、頷きます。
「でも、ノエルが来てから、違います。いつも、楽しそうです」
ノエルの胸が、温かくなりました。
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その時、ガブリエル嬢が目を覚ましたようです。
「……あら」
彼女が、ゆっくりと目を開けます。
「眠っていましたか」
「はい」
師匠が、微笑みます。
「少しだけ」
ガブリエル嬢は、起き上がりました。
少し、髪が乱れています。
ノエルが、そっと近づきます。
「髪が、少し」
「あら」
彼女は、照れたように笑います。
「直してもらえますか」
「はい」
ノエルは、優しく髪を整えます。
師匠が、それを微笑ましく見守っていました。
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「ありがとうございました」
ガブリエル嬢が、師匠にお礼を言います。
「いえいえ」
師匠は、優しく微笑みます。
「また、いつでもいらしてください」
「はい」
彼女は、小さく頷きました。
「ノエルも、疲れた時はどうぞ」
師匠が、言います。
「ありがとうございます」
ノエルは、深くお辞儀をしました。
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治癒の間を出ると、廊下がありました。
ゆっくりと、二人で歩きます。
「治癒、良かったですね」
ノエルが、言います。
「ええ」
ガブリエル嬢は、嬉しそうに微笑みます。
「ラファエルの治癒は、いつも気持ち良いです」
「師匠の温かさが、伝わってきました」
「そうですね」
彼女は、優しく頷きます。
「ラファエルは、本当に優しい方です」
しばらく歩いて、ガブリエル嬢が立ち止まります。
「ノエル」
「はい」
「髪を直してくれて、ありがとう」
彼女の声が、温かく響きました。
「いえ、当然のことです」
「当然でも」
ガブリエル嬢は、優しく微笑みます。
「嬉しかったです」
その笑顔が、とても美しくて。
ノエルは、また心が温かくなりました。
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執務室に戻ると、ガブリエル嬢は窓辺に座ります。
「……今日は、良い一日でした」
彼女が、小さく呟きます。
「はい」
ノエルは、頷きます。
「治癒を受けて、すっきりしました」
ガブリエル嬢は、嬉しそうに微笑みます。
「また、頑張れそうです」
「お疲れではありませんか」
「少しだけ」
彼女は、雲クッションに体を預けます。
「でも、気持ちの良い疲れです」
そして、目を閉じました。
「……おやつの時間になったら」
いつもの言葉が、聞こえます。
「起こしてくださいね」
「はい」
ノエルは、優しく答えました。
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窓の外では、雲海が穏やかに流れています。
静かな午後が、ゆっくりと過ぎていきました。
ノエルは、師匠の言葉を思い出します。
「前よりも、よく笑われるようになりました」
自分が、ガブリエル嬢を笑顔にしている。
そう思うと、胸が温かくなります。
これからも、彼女のそばにいたい。
そんな気持ちが、自然に湧いてきました。
治癒の間での、穏やかな時間。
師匠の優しさ。ガブリエル嬢の笑顔。
全てが、ノエルの心に深く残っています。
今日も、良い一日でした。
そう思いながら、ノエルは自分の仕事に戻りました。
## あとがき
温かい治癒の光に包まれて、心も体も癒される時間。師匠の優しい言葉が、ノエルの心に新しい想いを芽生えさせていきます。




