第63話:ミカエルの訓練場
雲の上の、とある爽やかな朝。
ガブリエル嬢が、窓辺で何かを見ていました。
「ノエル」
彼女が、振り返ります。
「はい」
「今日は、訓練場へ行きませんか」
ガブリエル嬢は、小さく微笑みます。
「訓練場ですか」
「ええ」
彼女は、頷きました。
「ミカエルの訓練を、見に行きたいのです」
ノエルは、少し意外に思いました。
でも、すぐに頷きます。
「わかりました」
こうして、二人は訓練場へと向かいました。
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天界の端、広々とした空間に訓練場はありました。
若い天使たちが、真剣に鍛錬をしています。
「おお、ガブリエル嬢」
ミカエルが、こちらに気づきました。
「見学か。ちょうど良い」
「お邪魔しても、よろしいですか」
ガブリエル嬢が、尋ねます。
「もちろんだ」
ミカエルは、頷きました。
「あちらの席でご覧いただきたい」
見学席に、二人は座ります。
訓練場が、よく見える場所でした。
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訓練場の中央で、若い天使が剣を構えていました。
その動きを、ミカエルが真剣に見ています。
「構えが甘い」
ミカエルの声が、響きます。
若い天使は、慌てて姿勢を直しました。
「そうだ。足の位置を、もう少し広く」
ミカエルが、指示を出します。
若い天使は、真剣な顔で従います。
再び、剣を振りました。
「うむ、良くなった」
ミカエルが、頷きます。
若い天使の顔が、ぱっと明るくなりました。
ノエルは、その光景を見ていました。
厳しいけれど、的確な指導。そして、認められた時の喜び。
「ミカエルは、良い先生ですね」
ガブリエル嬢が、小さく呟きます。
「はい」
ノエルは、頷きました。
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別の場所では、飛行訓練が行われていました。
若い天使が、空中で静止しようとしています。
でも、バランスを崩して揺れてしまいました。
「焦るな」
ミカエルの声が、冷静に響きます。
「呼吸を整えろ。翼は心を映す」
若い天使は、深呼吸をします。
もう一度、挑戦しました。
今度は、少し安定しています。
「そうだ。その調子だ」
ミカエルが、励まします。
若い天使の表情が、自信に満ちていきました。
「すごいですね」
ノエルが、小さく言います。
「ええ」
ガブリエル嬢は、優しく微笑みます。
「みんな、一生懸命です」
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訓練が一段落したようです。
若い天使たちが、休憩を取り始めました。
ミカエルが、こちらに歩いてきます。
「どうだった」
彼が、尋ねました。
「素晴らしい訓練でした」
ガブリエル嬢が、答えます。
「そう言ってもらえると、嬉しいな」
ミカエルは、少し照れたように笑います。
その時——
訓練場の隅から、小さな鳴き声が聞こえました。
「ん?」
ミカエルが、すぐに反応します。
見ると、小さな子犬がいました。
迷い込んできたようです。
「おお」
ミカエルの表情が、一瞬で柔らかくなります。
彼は、そっと子犬に近づきました。
優しく、抱き上げます。
「こんなところに、一人で」
ミカエルの声が、とても温かい。
ガブリエル嬢が、くすりと笑います。
「相変わらずですね」
「……仕方ないだろう」
ミカエルは、少し照れます。
「放っておけない」
子犬が、ミカエルの腕の中で尾を振っています。
とても、嬉しそうです。
ノエルは、その光景を見ていました。
厳格な戦士長が、こんなに優しい顔をする。
そのギャップが、微笑ましくて。
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「訓練を、少し見せてもらえますか」
ガブリエル嬢が、尋ねます。
「もちろん」
ミカエルは、子犬を優しく地面に降ろしました。
「では、模範演舞を」
彼は、訓練場の中央に立ちます。
剣を、構えました。
一瞬の静寂——
そして、ミカエルが動きます。
剣が、美しい軌跡を描きました。
速く、正確で、力強い。
ノエルは、息を呑みます。
これが、戦士長の実力。
ガブリエル嬢も、静かに見ていました。
演舞が終わると、若い天使たちから拍手が湧きます。
「すごい」
「さすが、ミカエル様」
ミカエルは、少し照れたように剣を収めました。
「まだまだだ」
彼は、謙虚に言います。
「日々、鍛錬あるのみ」
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「お二人も、少し体を動かしてみるか」
ミカエルが、尋ねます。
「え」
ノエルは、驚きました。
「良いですね」
ガブリエル嬢が、嬉しそうに言います。
「久しぶりに、体を動かしたいです」
「本当ですか」
ノエルは、少し驚きます。
「ええ」
彼女は、微笑みました。
「たまには、良いでしょう」
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簡単な体操から、始まりました。
若い天使たちと一緒に、体を伸ばします。
ガブリエル嬢が、ゆっくりと体を動かしていました。
その動きが、とても優雅です。
「ガブリエル嬢、お上手ですね」
若い天使が、言います。
「そうですか」
彼女は、少し照れたように笑います。
次は、軽い飛行訓練です。
低空で、ゆっくりと飛びます。
ガブリエル嬢の飛び方が、とても滑らかでした。
翼の動きが、美しい。
ノエルは、思わず見とれます。
普段は、あまり飛んでいる姿を見ません。
尊い、と。
心の中で、そっと呟きました。
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「ガブリエル様、素晴らしいです」
ミカエルが、感心したように言います。
「いえ」
ガブリエル嬢は、地面に降りました。
「久しぶりで、少し疲れました」
彼女は、少し息を切らしています。
でも、嬉しそうな表情でした。
「楽しかったです」
ガブリエル嬢が、微笑みます。
「また、いつでもいらしてください」
ミカエルが、言いました。
「はい」
彼女は、小さく頷きます。
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訓練が終わり、みんなが集まってきました。
「お疲れさまでした」
若い天使たちが、口々に言います。
「お疲れさま」
ガブリエル嬢が、優しく答えます。
「ガブリエル様が来てくださって、嬉しかったです」
一人の天使が、言いました。
「私も、楽しかったですよ」
彼女は、温かく微笑みます。
若い天使たちの顔が、ぱっと明るくなります。
ノエルは、その光景を見ていました。
ガブリエル嬢の言葉が、みんなを幸せにする。
そんな彼女の優しさが、また心に響きました。
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訓練場を出る時、ミカエルが見送ってくれました。
「また、来てくれ」
彼が、言います。
「はい」
ガブリエル嬢は、微笑みます。
「また、訪ねますね」
「ノエルも、いつでも歓迎だ」
ミカエルが、ノエルを見ます。
「ありがとうございます」
ノエルは、お辞儀をしました。
二人は、訓練場を後にします。
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執務室への道。
ガブリエル嬢が、ゆっくりと歩いていました。
「楽しかったですね」
ノエルが、言います。
「ええ」
彼女は、嬉しそうに頷きます。
「久しぶりに、体を動かしました」
「お疲れではありませんか」
「少しだけ」
ガブリエル嬢は、優しく笑います。
「でも、気持ちの良い疲れです」
しばらく歩いて、執務室に着きました。
ガブリエル嬢は、すぐに雲クッションに座ります。
「……ふう」
小さな息が、聞こえました。
「お茶を、お持ちします」
ノエルが、言います。
「ありがとう」
彼女は、嬉しそうに微笑みました。
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お茶を飲みながら、ガブリエル嬢が窓の外を見ています。
「ミカエルの訓練場、良い場所ですね」
彼女が、小さく呟きます。
「はい」
「みんな、一生懸命で」
ガブリエル嬢の声が、温かく響きます。
「見ていて、元気をもらいました」
「そうですね」
ノエルは、頷きます。
「たまには、ああいう場所も良いですね」
彼女は、優しく微笑みました。
そして、雲クッションに体を預けます。
「……少し、お昼寝します」
小さな声が、聞こえました。
「はい」
ノエルは、優しく答えます。
ガブリエル嬢が、目を閉じます。
穏やかな寝息が、静かに響き始めました。
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ノエルは、そっと見守ります。
今日のガブリエル嬢は、いつもと少し違いました。
体を動かして、楽しそうにしていた姿。
若い天使たちと、自然に話していた様子。
そんな彼女の、新しい一面。
また一つ、素敵なところを見つけてしまった。
そう思いながら、ノエルは微笑みます。
窓の外では、雲海が穏やかに流れています。
静かな午後が、ゆっくりと過ぎていきました。
訓練場での賑やかな時間。
ミカエルの優しさ。若い天使たちの真剣な姿。
そして——
体を動かして、嬉しそうにしていたガブリエル嬢。
全てが、ノエルの心に温かく残っています。
「……おやつの時間になったら」
眠りながら、小さな声が聞こえました。
「起こしてくださいね」
「はい」
ノエルは、優しく答えます。
今日も、良い一日でした。
そう思いながら、ノエルは自分の仕事に戻りました。
## あとがき
厳しくも温かい訓練場で、体を動かすガブリエル嬢の新しい一面。ミカエルの優しさと、若い天使たちの真剣な姿が、心に残る一日となりました。




