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第43話:看病という名の愛情

雲の上の、とある静かな朝。


ノエルは執務室への廊下を歩いていました。

でも、いつもと様子が違います。

足取りが重く、頭がぼんやりしていました。


「おかしいな……」


つぶやきながら、額に手を当てます。

熱っぽい気がしました。


執務室に入ると、ガブリエル嬢が振り向きます。


「おはよう、ノエル」

「おはようございます、ガブリエル嬢」


いつものように挨拶を交わしました。

でも、声が少しかすれています。


ガブリエル嬢の表情が、わずかに変わりました。


「ノエル、顔色が悪いわ」

「え? 大丈夫です」


強がってみせましたが、実際はふらついていました。

書類を取ろうとした手が、うまく動きません。


「無理しないで。座りなさい」


ガブリエル嬢の声に、いつもとは違う響きがありました。

ノエルは素直に椅子に座ります。


ガブリエル嬢が近づいてきて、ノエルの額に手を当てました。

冷たくて気持ちの良い感触です。


「熱があるわね」

「すみません……」


謝ろうとするノエルに、ガブリエル嬢は首を振ります。


「謝ることじゃないわ。今日は休みなさい」

「でも、仕事が……」

「私がなんとかするから」


その言葉に、有無を言わせない優しさがありました。

ノエルは抵抗する気力もなく、頷きます。


「では、失礼します」


立ち上がろうとしたノエルが、よろけました。

すぐにガブリエル嬢が支えます。


「一人で大丈夫?」

「はい、なんとか……」


でも、実際はふらついていました。

ガブリエル嬢は少し考えてから言います。


「私が部屋まで送るわ」

「そんな、申し訳ないです」

「良いから。腕を貸して」


ガブリエル嬢の肩を借りて、ノエルは自室への廊下を歩きました。

いつもは眠そうなガブリエル嬢が、今日はしっかりしています。


自室に着くと、ガブリエル嬢はノエルをベッドに寝かせました。


「ここで休んでいなさい」

「ありがとうございます」


横になると、体の重さが楽になりました。

でも、頭のぼんやりは続いています。


「少し待っていて」


ガブリエル嬢がそう言って、部屋を出ていきました。

ノエルは天井をぼんやり見つめます。


なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

ガブリエル嬢の手を煩わせてしまって……。


しばらくして、ガブリエル嬢が戻ってきました。

手には冷たいタオルと、温かい飲み物があります。


「額を冷やしましょう」


タオルを額に乗せてくれます。

ひんやりとして、気持ちが良い感触でした。


「これ、飲んで」


差し出されたのは、光蜜水でした。

温かくて、優しい甘さが体に染み渡ります。


「ありがとうございます……」


ノエルの言葉に、ガブリエル嬢が微笑みました。


「良いのよ。ゆっくり休んで」


その笑顔を見ながら、ノエルは不思議な気持ちになります。

いつも自分が世話をしているのに、今日は逆です。


ガブリエル嬢は部屋を出ていこうとしました。


「仕事がありますから、また後で様子を見に来るわね」

「すみません……」

「謝らなくて良いの」


そう言い残して、ガブリエル嬢は静かに扉を閉めました。


一人になったノエルは、じんわりと温かな気持ちになっていました。

ガブリエル嬢の優しさが、体の芯まで届いています。


しばらく眠っていたのでしょうか。

ノエルが目を覚ますと、部屋に誰かがいました。


「あら、起きた?」


ガブリエル嬢でした。

椅子に座って、静かにノエルを見守っています。


「ガブリエル嬢……仕事は?」

「一段落したから」


ガブリエル嬢が近づいてきて、額のタオルを取り替えてくれました。

新しいタオルは、また冷たくて気持ちが良い。


「熱は、少し下がったみたいね」

「ご心配をおかけしました」


ノエルの言葉に、ガブリエル嬢は首を振ります。


「心配するのは当然よ。あなたは大切な人だもの」


大切な人――。


その言葉の響きが、ノエルの耳に残りました。


「何か食べられる?」


ガブリエル嬢の問いかけに、ノエルは考えました。


「少しなら……」

「じゃあ、持ってくるわね」


またしても部屋を出ていくガブリエル嬢を、ノエルはぼんやり見送ります。

こんなに細やかに世話をしてくれるなんて。


しばらくして、ガブリエル嬢が戻ってきました。

手には、雲菓子と温かい飲み物があります。


「これなら、食べやすいと思うわ」


小さく切られた雲菓子を、ノエルに差し出します。

ノエルは起き上がって、ゆっくりと口に運びました。


優しい甘さが、体に染み渡ります。


「美味しい……」

「良かった」


ガブリエル嬢が嬉しそうに微笑みました。

その表情を見て、ノエルは胸が温かくなります。


食事が終わると、ガブリエル嬢は枕を整えてくれました。


「もう少し休んで。夜まで様子を見るから」

「そんな、ガブリエル嬢にそこまでしていただくわけには……」

「良いのよ」


その言葉に、不思議な優しさがあるように感じられました。

職場の上司としての気遣いとは、違うような……。


ノエルは素直に横になりました。

ガブリエル嬢が、そっと毛布をかけてくれます。


「ありがとうございます」


小さな声でそう言うと、ガブリエル嬢が微笑みました。


「どういたしまして」


その後も、ガブリエル嬢は部屋に残っていました。

椅子に座って、静かに本を読んでいます。


時々、ノエルの様子を確認する視線が向けられました。

その度に、ノエルは安心感に包まれます。


ガブリエル嬢が側にいてくれる。

それだけで、体が楽になる気がしました。


「ガブリエル嬢」


ノエルが呼びかけると、彼女が本から顔を上げます。


「何?」

「なぜ、こんなに世話をしてくださるんですか」


素直な疑問でした。

ガブリエル嬢は少し考えてから、答えます。


「あなたが、大切だからよ」


大切な人――。


「僕も、ガブリエル嬢は大切です」


ノエルの言葉に、ガブリエル嬢が優しく微笑みました。


「ありがとう」


シンプルな返事でしたが、その声には温かさがありました。


夕方になって、ノエルの熱は大分下がっていました。

体も楽になり、頭のぼんやりも消えています。


「良かった。安心したわ」


ガブリエル嬢がほっとした表情を見せました。

その顔を見て、ノエルは改めて気づきます。


ガブリエル嬢は、本気で心配してくれていたのです。

職務としてではなく、それ以上の何かとして。


「本当にありがとうございました」


ノエルの感謝に、ガブリエル嬢は首を振ります。


「当然のことをしただけよ」


でも、ノエルにはわかっていました。

これは、当然以上のことです。


一日中付き添って、細やかに世話をしてくれた。

その優しさが、胸に深く残っています。


「では、もう大丈夫そうだから」


ガブリエル嬢が立ち上がります。


「明日は、ゆっくり休んで。無理しないでね」

「はい」


扉の前で、ガブリエル嬢が振り返りました。


「おやすみなさい、ノエル」

「おやすみなさい、ガブリエル嬢」


扉が静かに閉まりました。

一人になったノエルは、今日一日のことを思い返します。


ガブリエル嬢の優しさ、細やかな気遣い、温かい世話。

本当にありがたいことでした。


自分は、ガブリエル嬢にとって大切な人なのだと。

そして、ガブリエル嬢も、自分にとって大切な人なのだと。


雲の上の夜は静かに更けていきました。

ノエルの心には、温かな気持ちが満ちています。


明日からまた、頑張ろう。

ガブリエル嬢のために、そして自分自身のために。


そんな決意を胸に、ノエルは深い眠りについたのでした。

## あとがき


体調を崩した時に見せる相手の優しさって、普段とは違う特別なものを感じますね。看病という行為には、いろいろな想いが込められているのかもしれません。回復したノエルは、また元気に働けることでしょう。

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