第42話:季節と共に巡る役割
雲の上に、やわらかな春の光が降り注いでいました。
天界の庭園では、雲菓子の花が一斉に咲き始めています。
ノエルはその光景を見つめながら、ガブリエル嬢の近侍として初めて迎える春を実感していました。
「今年の春も、美しいですね」
つぶやきに、隣のガブリエル嬢が静かに頷きます。
「ええ。春は良いものね」
天界の四季については、ノエルも当然知っていました。
でも、ガブリエル嬢の側で実務として体験するのは初めてです。
会議室で配られた年間行事の資料を見て、ノエルは身が引き締まる思いでした。
知識としては知っていた行事を、今年は実際に近侍として支えることになります。
「春は、新しい命の見守りが中心です」
ミカエルが説明します。
「夏は成長の加護、秋は収穫への祝福、冬は休息と癒し」
季節ごとの役割は知っていましたが、改めて聞くと責任の重さを感じました。
「ガブリエル嬢を、しっかりお支えしないと」
ノエルの決意に、ラファエルが優しく微笑みます。
「そうですね〜。でも焦らず、優しく、着実に」
春の最初の任務は、新芽の祝福でした。
人間界で芽吹く植物たちに、天界から光の祝福を送ります。
ノエルはガブリエル嬢の補佐として、祝福の儀式に参加しました。
これまでも儀式は見たことがありましたが、近侍として参加するのは別物です。
「ノエル、書類はそこに」
ガブリエル嬢の指示に、素早く応えます。
儀式の進行を支え、必要な道具を準備する。
実務としての年中行事は、想像以上に細やかな気配りが必要でした。
儀式が終わると、天界では春祭りの準備が始まりました。
春の訪れを祝い、一年の豊穣を願う儀式。
毎年行われる大きな行事です。
「今年は、ガブリエル嬢の側でお手伝いできる」
その喜びを胸に、ノエルは準備に取り組みました。
会場の設営、装飾品の製作、祝詞の準備。
天使たちが総出で動いています。
ノエルは雲の装飾づくりに参加しました。
子供の頃から見てきた春祭りの装飾を、今年は自分の手で作ります。
「春らしい色合いで」
ウリエルの指示に従って、ノエルは丁寧に作業を進めました。
完成した装飾は、会場を華やかに彩ります。
祭りの当日、天界は賑やかな雰囲気に包まれていました。
「懐かしいですね」
ノエルの言葉に、ガブリエル嬢が首をかしげます。
「懐かしい?」
「子供の頃から見てきた春祭りですが、今年は特別で」
近侍として参加する春祭り。
見る側から支える側へ、立場が変わったことを実感していました。
二人で雲菓子を味わいながら、祭りを見守ります。
春の光が降り注ぐ中、天界全体が祝福に満ちていました。
やがて春が過ぎ、夏がやってきました。
夏の主な任務は、成長の加護です。
人間界で育つ作物や生き物たちに、力強い光を送ります。
「夏の儀式は、力が必要なのですね」
以前から知っていた夏の特徴を、実際の業務で体感します。
ガブリエル嬢を補佐しながら、強い光の加護を学んでいました。
夏至の日には、光祭りが開かれました。
天界中に光が満ち、美しい輝きが広がります。
「やはり綺麗ですね」
ノエルの感想に、ガブリエル嬢が微笑みました。
「毎年、同じように美しいわ」
子供の頃から見てきた光祭りも、近侍として参加すると新鮮でした。
同じ行事でも、立場が変わると見え方が変わります。
秋になると、また役割が変わります。
収穫への祝福が中心になりました。
人間界の豊作を祝い、感謝の光を送ります。
「秋の儀式は、何度見ても良いものです」
ノエルの言葉に、ラファエルが頷きます。
「実際に担当すると、また違った良さがありますよね」
秋の収穫祭では、天界でも実りを分かち合います。
天使たちが持ち寄った雲菓子や光蜜水を、みんなで楽しむのです。
「これ、作ってみました」
ノエルが差し出した雲菓子を、ガブリエル嬢が受け取ります。
「ありがとう。いただくわ」
その笑顔に、ノエルは嬉しくなりました。
自分の作ったものを喜んでもらえる幸せを、噛みしめています。
そして冬がやってきました。
冬は休息と癒しの季節です。
人間界の生き物たちが休む時期に、天使たちも静かに過ごします。
「冬は、少しゆっくりできますね」
ガブリエル嬢がそう言いながら、雲クッションに身を預けました。
冬の穏やかな時間は、ノエルも子供の頃から好きでした。
冬至祭では、温かな光を分かち合います。
寒い季節に心を温める、優しい儀式です。
「温かいですね」
ノエルの言葉に、ガブリエル嬢が静かに答えます。
「冬の光は、優しいの」
二人は暖炉のような光に包まれながら、穏やかな時間を過ごしました。
一年を通して、ノエルは多くのことを学びました。
春の祝福、夏の加護、秋の感謝、冬の癒し。
知識として知っていた季節の役割を、実務として体験することで理解が深まります。
「見る側と、支える側では、こんなに違うんだ」
そう実感したノエルは、天使としての自分の成長を感じていました。
再び春が巡ってきた頃、ノエルは去年とは違う気持ちで新芽を見つめます。
「去年は、まだ近侍になる前でしたね」
ガブリエル嬢への言葉に、彼女が微笑みました。
「そうね。あっという間だったわ」
一年という時間の中で、ノエルは近侍として成長していました。
季節ごとの役割を実務で体験し、責任の重さと喜びを学んでいます。
「次の春も、しっかりお支えします」
ノエルの言葉に、ガブリエル嬢が優しく頷きました。
「ええ、頼りにしているわ」
季節は巡り、天使の役割も変わっていく。
でも、変わらないものもある。
ガブリエル嬢と過ごす時間、仲間たちとの絆、天界での日々。
それらは季節を超えて、ずっと続いていくのでしょう。
雲の上に、また新しい春の光が降り注いでいました。
ノエルは深く息を吸い込み、近侍として二度目の春の始まりを感じています。
知っていたことと、実際に体験すること。
その違いを理解できたのも、大きな成長でした。
## あとがき
知識として知っていることと、実際に体験することは全く違いますね。ノエルも近侍として年中行事に参加することで、天界の営みをより深く理解していきました。見る側から支える側へ、その変化が彼を成長させています。




