表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/100

第36話:「温もりへの配慮」

午前の執務室は、いつもより少し涼しく感じられました。


季節の変わり目なのか、雲海から流れ込む風が冷たくなっています。ノエルは書類整理をしながら、ガブリエル嬢の様子を気にかけていました。


「(寒くないかな...)」


雲クッションで微睡んでいる彼女は、いつもより少し縮こまっているように見えます。


「ガブリエル様、室温を調整いたしましょうか?」


そっと声をかけてみました。


「いえ...大丈夫...です」


眠そうな声で答えていますが、少し震えているような気がします。


ノエルは窓際の温度調整装置を確認しました。確かに、いつもより2度ほど低くなっています。


「(やっぱり寒いんだ)」


でも、ガブリエル嬢は我慢しているようでした。


そんな時、午後の光が雲の切れ間から差し込んできました。暖かい光が執務室を照らすと、ガブリエル嬢の表情が穏やかになりました。


「あら...温かい...」


小さく呟いて、光の当たる場所に移動します。まるで猫のように、自然に暖かい場所を求めていました。


「(温かい光がお好きなんだ)」


ノエルは重要な発見をした気がしました。


しばらく観察していると、ガブリエル嬢は明らかに光の当たる場所を好むようでした。影になった部分では少し居心地が悪そうにしています。


「(これは...環境を整えてあげなければ)」


ノエルは立ち上がりました。


まず、窓の角度を調整します。光がより室内に入るように、雲の流れを計算して開き具合を変えました。


「あら...明るくなりました」


ガブリエル嬢が気づいて、満足そうに微笑みました。


「はい、午後の光がよく入るようにしました」


ノエルの気遣いに、彼女は嬉しそうに頷きました。


でも、雲の動きによって光は変化します。常に温かい光を保つのは難しそうでした。


「(他に方法はないかな...)」


ノエルは執務室を見回しました。そして、光を反射させる装置があることを思い出します。


「少しお待ちください」


ノエルは天界の設備管理室に向かいました。


「光調整装置を借りたいのですが」


管理担当の天使が、親切に説明してくれました。


「これを使えば、自然光を集めて、柔らかく拡散できますよ」


小さな水晶のような装置を貸してもらいました。


執務室に戻って、装置を窓際に設置します。すると、外からの光が室内全体に、温かく均一に広がりました。


「まあ...」


ガブリエル嬢が驚いたような、でも嬉しそうな声を上げました。


「どこにいても...温かいです」


光調整装置の効果で、執務室全体が柔らかな温もりに包まれています。


「お気に召しましたか?」

「ええ...とても...気持ち良いです」


ガブリエル嬢は雲クッションに深く沈み込んで、満足そうに目を閉じました。


「(良かった...)」


ノエルは安堵の表情を浮かべました。


それから数日間、ノエルはガブリエル嬢の様子を注意深く観察しました。


確かに、温かい光のある環境では、彼女はより穏やかに過ごしています。仕事の集中力も、微妙に向上しているような気がしました。


「温かい光が...好きなんですね」


ある日、ノエルが素直に感想を述べると、ガブリエル嬢は少し照れたような表情を見せました。


「昔から...そうなのです」

「どうしてでしょう?」

「わからないですが...安心するのです」


その答えには、深い理由があるような気がしました。でも、詮索するのは野暮でしょう。


「これからも、温かい光を保つようにしますね」

「ありがとう...ノエル」


彼女の感謝の言葉に、ノエルの胸が温かくなりました。


それからというもの、ノエルは毎朝最初に光の調整をするようになりました。天候や雲の動きに合わせて、常に最適な光環境を維持します。


「今日は少し曇り気味なので...」


装置の設定を微調整しながら、ノエルは独り言を呟きました。


「(ガブリエル様が快適に過ごせるように)」


その努力は、確実に実を結んでいました。ガブリエル嬢は以前より安らかに過ごし、おやつの時間もより楽しそうです。


「最近...とても...居心地が良いです」


ある日の午後、彼女がぽつりと呟きました。


「それは良かったです」

「ノエルが...色々と...気を遣ってくれるから」


その言葉に込められた感謝に、ノエルは少し照れました。


「いえ、当然のことです」

「当然...ではありませんよ」


ガブリエル嬢の優しい訂正に、ノエルは改めて気づきました。


「(そうか...これは特別なことなんだ)」


相手の好みを理解して、環境を整える。それは確かに、誰もがするわけではない気遣いでした。


でも、ノエルにとっては自然なことでした。ガブリエル嬢に快適に過ごしてもらいたい。その気持ちが、行動を促していたのです。


「ガブリエル様が快適なら、僕も嬉しいです」


素直な気持ちを伝えると、彼女は微笑みました。


「そう言って...もらえると...嬉しいです」


午後の光調整装置から、柔らかな光が室内を照らしています。その光の中で、ガブリエル嬢は特に美しく見えました。


「(この人のためなら...)」


ノエルの心に、新しい感情が芽生えていました。それは奉仕の精神を超えた、もっと深い何かでした。


相手の幸せを願う気持ち。そのために努力したいという想い。


「尊い...」


いつもの口癖が、今日は特別な意味を持って響きました。


温かい光に包まれた執務室で、二人の心も少しずつ温まっていました。


小さな気遣いから始まった配慮が、関係をより深いものにしていく。その兆しを、ノエルは確かに感じていました。


窓の外では、午後の雲海がゆったりと流れています。


光調整装置が作り出す温もりの中で、静かで幸せな時間が続いていました。

## あとがき


ガブリエル嬢が温かい光を好むことを発見したノエル。光調整装置で室内環境を整える気遣いが、彼女にとても喜ばれました。相手の好みを理解し、それに応えたいという自然な想いが、二人の関係に新しい温もりをもたらします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ