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第26話:「甘味研究への献身」

天界のお茶会室は、甘い香りに満たされていました。


ノエルは今日、ウリエルの指導のもと、ガブリエル嬢の好物である雲菓子について学んでいました。近侍として、彼女の好みをより深く理解したいと思ったのです。


「雲菓子は、一見単純に見えて実は奥深いものです」


ウリエルが冷静な口調で説明を始めました。目の前には、様々な種類の雲菓子が並べられています。


「まず、基本となる三種類から」


白い雲菓子、ふわふわの雲菓子、少し固めの雲菓子。どれも微妙に質感が違います。


「これは朝雲タイプ。軽やかで爽やかな甘さが特徴です」


ウリエルが一つ目を取り上げました。


「昼雲タイプは、ほどよい弾力と深い甘み」

「そして夕雲タイプは、とろけるような柔らかさと優しい甘さ」


ノエルは真剣にメモを取っていました。


「ガブリエル様は、どのタイプを好まれるのでしょうか」

「それを見極めることが、今日の課題です」


ウリエルの目が、わずかに輝きました。お茶会の話になると、彼女の情熱が滲み出てきます。


「まず、実際に味わってみましょう」


差し出された朝雲タイプの雲菓子を、ノエルは慎重に口に含みました。


「軽い...そして、ほのかな甘さ」

「そうです。これは目覚めの時間に最適です」


次に昼雲タイプ。こちらは少し弾力があり、甘みも濃厚でした。


「活動時間にエネルギーを補給するのに良いですね」

「正解です」


最後に夕雲タイプ。口の中でふわりと溶けて、優しい甘さが広がります。


「これは...リラックスしたい時に」

「その通り。よく理解していますね」


ウリエルが満足そうに頷きました。


「では、ガブリエル様の好みを考えてみましょう」


ノエルは真剣に考え始めました。ガブリエル嬢はいつも眠そうで、リラックスした雰囲気を好みます。


「夕雲タイプ...でしょうか」

「半分正解です」


ウリエルが微笑みました。


「確かに夕雲タイプを好まれますが、実はもう一つ重要な要素があります」


彼女が取り出したのは、特別な雲菓子でした。


「これは、星降りの夜に採取した雲から作られたものです」

「星降りの...」


ノエルは興味深そうに見つめました。


「通常の夕雲よりも、さらに繊細で上品な甘さがあります」


実際に味わってみると、確かに違いました。優しい甘さの中に、どこか神秘的な余韻が残ります。


「これなら...ガブリエル様も気に入ってくださるかもしれません」

「ええ。実は以前、一度だけお出ししたことがあります」


ウリエルが資料を取り出しました。


「その時の様子を記録してあります」


几帳面に記された記録には、ガブリエル嬢の反応が詳しく書かれていました。


「まあ...美味しい...」という言葉と共に、満足そうな表情を見せたそうです。


「でも、問題があります」


ウリエルの表情が少し曇りました。


「星降りの雲は、年に数回しか採取できません」

「そうなんですか」

「ええ。だから、代替品を研究する必要があるのです」


そう言って、ウリエルは別の雲菓子を並べ始めました。


「夕雲に少量の月光エッセンスを混ぜたもの」

「朝雲と夕雲を特別な比率でブレンドしたもの」

「雲の花の蜜を加えたもの」


様々な試作品が、テーブルに並びました。


「一つずつ、試してみましょう」


ウリエルと共に、ノエルは真剣に味の研究を始めました。


「これは少し甘すぎるような...」

「こちらは軽すぎて物足りない感じがします」

「この月光エッセンスは良いですが、量が多いかもしれません」


二人で意見を交わしながら、最適な配合を探していきます。


「ノエルさん、ガブリエル様の普段の様子から何か気づいたことは?」


ウリエルの質問に、ノエルは考え込みました。


「そうですね...ガブリエル様は、極端に甘いものよりも、優しい甘さを好まれる気がします」

「なるほど」

「それから、口溶けの良いものが良いかと」


ノエルの観察に、ウリエルは感心したように頷きました。


「では、夕雲をベースに、ほんの少しだけ月光エッセンスを加えてみましょう」


二人で協力して、新しい配合を試みます。雲を練り合わせ、丁寧にエッセンスを混ぜていきます。


「できました」


完成した雲菓子を、二人で味見しました。


「これは...」

「良い感じですね」


優しい甘さと、繊細な口溶け。星降りの雲菓子には及びませんが、それに近い味わいでした。


「これなら、ガブリエル様にも喜んでいただけるかもしれません」

「そうですね。早速お試しいただきましょう」


ウリエルが立ち上がろうとした時、ノエルが提案しました。


「あの...もしよろしければ、ウリエル様も一緒にいかがですか?」

「私も?」

「はい。お茶会の専門家であるウリエル様と一緒なら、より良いおやつの時間になると思います」


ウリエルは少し驚いた表情を見せましたが、すぐに微笑みました。


「それは良い考えですね」


三人でガブリエル嬢の執務室を訪れると、彼女はいつものように雲クッションで微睡んでいました。


「ガブリエル様、おやつの時間です」


ノエルの声に、彼女はゆっくりと目を開けました。


「あら...ウリエルも...一緒ですか?」

「はい。新しい雲菓子を作りましたので」


ウリエルが説明すると、ガブリエル嬢は興味深そうに身を起こしました。


「まあ...楽しみですね」


三人でテーブルを囲み、お茶と雲菓子を楽しむ時間が始まりました。


「どうぞ」


ノエルが差し出した雲菓子を、ガブリエル嬢は口に含みました。


「...」


静かな時間が流れます。ノエルとウリエルは、緊張して彼女の反応を見守りました。


「美味しい...です」


ガブリエル嬢の穏やかな声が、二人の努力を肯定しました。


「本当ですか!」


ノエルの声が弾みました。


「ええ...優しい甘さで...とても良いですね」

「良かったです」


ウリエルも満足そうに微笑みました。


「これなら...時々...一緒におやつを楽しめそうですね」


ガブリエル嬢の提案に、ノエルの胸が温かくなりました。


「ぜひ、お願いします」

「私も、お茶会の研究として参加させていただきます」


ウリエルも快諾しました。


こうして、定期的な三人でのおやつタイムが始まることになりました。


窓の外では、午後の雲海がゆったりと流れています。


「このお茶も...良いですね...」


ガブリエル嬢がウリエルの淹れたお茶を味わいながら呟きました。


「ありがとうございます。ガブリエル様の好みに合わせて調整しました」


専門家の技術と、近侍の観察力と、そして何より三人で過ごす穏やかな時間。


「尊い...」


ノエルの口癖が、今日はいつもより幸せそうに響きました。


ガブリエル嬢との距離が、また少しだけ近づいた気がします。


甘い香りに包まれた午後の執務室で、三人の笑顔が優しく輝いていました。

## あとがき


ウリエルと協力してガブリエル嬢の好みの雲菓子を研究したノエル。完成した甘味を一緒に味わう時間は、三人の新しい習慣の始まりとなりました。お菓子作りを通じて深まる理解と、定期的なおやつタイムの約束が、彼女との距離をさらに縮めていきます。

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