第24話:「星空に寄り添う夜」
深夜の天界は、昼間とは違う静けさに包まれていました。
ノエルとガブリエル嬢は、定期的な夜間パトロールのため雲海の上を歩いていました。夜の見回りは月に一度の重要な業務です。
「静かですね」
ノエルが小さく呟くと、ガブリエル嬢は眠そうな声で答えました。
「ええ...夜は...いつも静か...」
彼女はすでに、歩きながら半分眠っているようでした。足取りもふわふわとして、今にも転びそうです。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫...です...」
そう言いながらも、ガブリエル嬢の目は完全に細くなっていました。
空には満天の星が輝いています。昼間の雲海とは違い、夜の天界は幻想的な美しさに満ちていました。
「きれいな星空ですね」
「そう...ですね...」
ガブリエル嬢の返事は、もはや自動的なものでした。完全に眠気に支配されているようです。
「(これは...パトロールになっているのかな...)」
ノエルは心の中で呟きました。でも、彼女が一緒にいてくれるだけで、夜の見回りは心強いものでした。
パトロールの中間地点に着くと、そこには休憩用の雲のベンチが設置されていました。
「少し...休憩...しましょう」
ガブリエル嬢が提案するというより、もはやそこに座り込むような形でベンチに到達しました。
「はい」
ノエルも隣に腰を下ろします。
夜の雲海は、昼間とは違う顔を見せていました。星の光が雲を照らし、銀色に輝いています。遠くには、魔界の方角にも星が瞬いていました。
「星が...たくさん...」
ガブリエル嬢が小さく呟きました。その声は、もう夢の中にいるような響きです。
「そうですね。今夜は特に綺麗です」
ノエルが答えると、ガブリエル嬢は小さく頷きました。その動作がゆっくりと、ノエルの方へ傾いてきます。
「ガブリエル様?」
呼びかけた瞬間、彼女の頭がそっとノエルの肩に乗りました。
「...」
完全に寝落ちしていました。
「(えっ...)」
ノエルは動けなくなりました。ガブリエル嬢の温もりが、肩を通じて伝わってきます。
静かな寝息が、夜の静寂の中で微かに聞こえました。星の光が、彼女の穏やかな寝顔を優しく照らしています。
「(どうしよう...)」
起こすべきか、このままでいるべきか。ノエルの心は迷いました。
でも、あまりにも穏やかな寝顔を見ていると、起こすのが忍びなくなります。
「(少しだけ...このまま...)」
ノエルは動かないよう、静かに座り続けることにしました。
星空が、二人を優しく包み込んでいます。流れ星が一つ、夜空を横切りました。
ガブリエル嬢の髪が、夜風に微かに揺れています。その柔らかな感触が、ノエルの頬に触れました。
「(綺麗だな...)」
星空のことか、それとも寄り添う彼女のことか。ノエル自身にも分からない想いでした。
時間がゆっくりと流れていきます。普段なら長く感じる夜のパトロールも、今夜は時間が経つのがあっという間でした。
「...ふわぁ」
どれくらい経ったでしょうか。ガブリエル嬢が小さく欠伸をして、ゆっくりと目を開けました。
「あら...寝て...しまいましたか?」
「少しだけです」
ノエルが答えると、彼女は自分が寄り添っていたことに気づいたようです。
「すみません...つい...」
「いえ、大丈夫です」
立ち上がったガブリエル嬢は、少し恥ずかしそうに髪を整えました。
「では...パトロールを...続けましょう」
「はい」
再び歩き始めた二人の間には、少しだけ違う空気が流れていました。
「星が...綺麗でしたね」
ガブリエル嬢が呟きました。
「はい、とても」
ノエルの返事には、星だけでなく、今夜の全てが含まれていました。
残りのパトロールを終えて、天界の中心部に戻る頃には、空が少しずつ明るくなり始めていました。
「お疲れさまでした」
「お疲れさま...です」
別れ際、ガブリエル嬢がいつもより少しだけ長く、ノエルを見つめたような気がしました。
「また...次の見回りも...よろしくお願いします」
「はい、喜んで」
そう答えたノエルの声は、いつもより少しだけ弾んでいました。
執務室に戻る道すがら、ノエルは今夜のことを思い返していました。
星空の下、寄り添って過ごした静かな時間。ガブリエル嬢の温もり。穏やかな寝息。
「尊い...」
いつもの口癖が、今夜はいつもより特別な意味を持って響きました。
胸の奥に残る温かさが、朝日に照らされても消えることはありませんでした。
それが何なのか、まだ名前はつけられません。でも確かに、心の中で何かが変わり始めているのを感じていました。
朝の光が雲海を染める頃、ノエルは自分の部屋に戻りました。
窓から見える景色は、いつもと同じはずなのに、今朝は特別に美しく見えました。
## あとがき
深夜のパトロールで二人きりの時間を過ごしたノエルとガブリエル嬢。満天の星空の下、自然に寄り添って眠る彼女の姿に、ノエルの心に新しい感情が芽生え始めます。静かで美しい夜の思い出が、二人の関係に小さな変化をもたらすのでした。




