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第23話:「職人の誇りと愛情」

天界の工房街は、いつも温かい光に包まれていました。


ノエルは今日、ガブリエル嬢の雲クッションを調整するため、雲職人の工房を訪れていました。最近、硬度が少し変わってきたような気がするのです。


「いらっしゃい」


工房の主は、優しい顔をした年配の天使でした。何百年も雲クッションを作り続けている、天界屈指の職人さんです。


「ガブリエル様の雲クッションを、少し調整していただきたいのですが」

「ああ、あのお嬢様のね」


職人さんの目が、嬉しそうに細くなりました。


「最高級の一品だよ。さあ、詳しく聞かせておくれ」


促されて、ノエルは熱心に説明し始めました。


「ガブリエル様は、少し柔らかめがお好みなんです」

「ほうほう」

「でも、柔らかすぎると沈み込みすぎてしまって...」


ノエルの説明は、次第に熱を帯びていきました。ガブリエル嬢の寝姿、好みの角度、起き上がる時の様子。観察した全てを、丁寧に伝えていきます。


「朝は少し硬めの方が良いかもしれません。すっきり起きられるように」

「なるほど、なるほど」

「でも午後は、しっかり休めるように柔らかめで...」


職人さんは目を細めて聞いていました。


「よく観察しているね。お嬢様への愛情が伝わってくるよ」


その言葉に、ノエルの頬がほんのりと赤くなりました。


「いえ、近侍として当然のことを...」

「いやいや、ここまで詳しく説明できる人は初めてだ」


職人さんは立ち上がって、奥の作業場へと案内してくれました。


「せっかくだから、製作過程も見ていくといい」


工房の奥には、様々な雲の素材が並んでいました。白いもの、ふわふわしたもの、少し弾力のあるもの。どれも微妙に質感が違います。


「まず、素材選びから始まるんだ」


職人さんが丁寧に説明してくれます。


「朝の雲、昼の雲、夕暮れの雲。それぞれ性質が違うんだよ」

「そうなんですか」


ノエルは興味深そうに見つめました。


「朝の雲はすっきりとした弾力がある。目覚めに良い」

「なるほど...」

「夕暮れの雲は、ゆったりとした柔らかさ。安らぎに最適だ」


職人さんは慣れた手つきで、様々な雲を組み合わせていきます。


「お嬢様の場合は...」


ノエルの説明を思い出しながら、絶妙な配合を選んでいきました。


「朝の雲を30%、昼の雲を20%、夕暮れの雲を50%...」


その配合には、長年の経験と知識が詰まっていました。


「次は編み込みだ」


選んだ雲を、特殊な方法で編み始めます。その手つきは、まるで舞を踊っているかのように優雅でした。


「この編み方で、硬度が決まるんだよ」


細かく編めば硬く、粗く編めば柔らかく。職人さんの指先が、魔法のように雲を操っていきます。


「すごい...」


ノエルは息を呑んで見守っていました。これほど繊細な作業だとは知りませんでした。


「使う人のことを思いながら作るのさ」


職人さんの声が、優しく響きました。


「お嬢様がどんな風に眠るか、どんな夢を見るか。そんなことを想像しながらね」


その言葉に込められた愛情が、ノエルの胸に響きました。


「それが職人の誇りなんです」


作業を続けながら、職人さんは語りました。


「自分の作ったもので、誰かが幸せになる。それ以上の喜びはないよ」


雲クッションが、少しずつ形になっていきます。ふわふわとした雲が、絶妙な硬度のクッションへと変化していく様子は、まさに芸術でした。


「ほら、触ってごらん」


差し出されたクッションに、ノエルはそっと手を置きました。


「これは...」


完璧な柔らかさでした。ガブリエル嬢が求める絶妙な硬度が、そこにありました。


「お嬢様、きっと喜んでくれるよ」


職人さんの満足そうな笑顔が、工房を明るく照らしていました。


「本当にありがとうございます」


ノエルは深々と頭を下げました。この職人さんの技術と愛情が、ガブリエル嬢の安らぎを支えているのです。


「また様子を教えにおいで」

「はい、必ず」


新しい雲クッションを大切に抱えて、ノエルは工房を後にしました。


執務室に戻ると、ガブリエル嬢はいつものように微睡んでいました。古い雲クッションに、気持ち良さそうに沈み込んでいます。


「ガブリエル様、新しい雲クッションができました」


そっと声をかけると、彼女はゆっくりと目を開けました。


「あら...もう...ですか」

「はい。職人さんが丁寧に作ってくださいました」


新しいクッションを差し出すと、ガブリエル嬢は興味深そうに触れました。


「まあ...」


その瞬間、彼女の顔がほころびました。


「これは...とても良い感じ」

「お気に召しましたか?」

「ええ。完璧です」


ガブリエル嬢が新しいクッションに移ると、すぐに目を細めました。


「あら...前よりふわふわ...」


満足そうな声と共に、彼女はあっという間に眠りに落ちていきました。


「(良かった...)」


ノエルは安堵の表情を浮かべました。職人さんの技術と愛情が、確かにガブリエル嬢に届いたのです。


窓の外では、午後の雲海がゆったりと流れています。


ガブリエル嬢の静かな寝息が、いつもより一層穏やかに聞こえました。新しい雲クッションが、彼女の安らぎをさらに深めているようです。


ノエルは、今日学んだことを心に刻んでいました。ものづくりの神聖さ、使う人への愛情、職人の誇り。


自分も近侍として、同じような気持ちで仕えていきたい。ガブリエル嬢の幸せを、心から願いながら。


「尊い...」


いつもの口癖が、今日はいつもより深い意味を持って響きました。

## あとがき


雲職人の工房で、ものづくりの神聖さと愛情を学んだノエル。職人さんの技術と想いが込められた新しい雲クッションに、ガブリエル嬢も大満足の様子です。使う人の幸せを願う心が、近侍としての彼の成長にも繋がっていきます。

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